見出し画像

(子供は)見てるぞ!

子供のしつけといえば、良いことをすれば褒めてあげる、悪いことをすれば叱る、等の方法が一般的ですよね。少し専門的な言葉を使うと、こうしたしつけの方法は「フィードバックを与える」とまとめられます。子供の行動に対して大人が何かしらフィードバックを与え、そのフィードバックを受けて子供が「この行動をすると褒められるんだな」等の学びを得ていく、、、という具合です。この仕組みは教育心理学において、学びのプロセスの根幹の一つであると長らく考えられており、「いかに子供に効果的に働きかけるか(フィードバックを与えるか)」という点に着目した研究が数多く行われて来ました。しかし、子供は直接的なフィードバックを通してでしか学びを得ることはできないのでしょうか?周囲の環境が子供に及ぼす影響に着目し、当時の教育心理学の分野において新風を巻き起こした研究を今回は紹介します。

フィードバックの仕組み

結論

子供は明確な支持を与えられなくても、周囲の観察を通して新しい行動を学ぶことがある

実験内容

*読みやすさのため、内容を要約しています。

アメリカの保育園児72人(平均年齢4.3歳)を対象に、以下の実験を行った。

ステップ1:子供を3つのグループ(A、B、Cとします)に分ける。

ステップ2-1:グループAの子供は一人ずつ実験者によって実験室に案内され、テーブルの前に座ったうえで遊ぶためのおもちゃを与えられる。テーブルから離れた実験室の片隅には実験者と異なる大人が一人座っており、その周りには起き上がり人形、おもちゃの木槌、及び他のおもちゃが置かれている。実験者は子供にテーブルに置かれたおもちゃで遊んでいるように指示を与え、実験室を10分間退室する。10分間の間、実験室の片隅にいる大人は特に子供と直接的にかかわることなく、おもちゃで静かに遊んでいる。10分後、実験者が実験室に戻り、おもちゃを回収したうえで子供を別室に案内する(ステップ3へ)。

ステップ2-2:グループBの子供も同様に一人ずつ実験室に案内され、おもちゃを与えられた上で遊んでいるようにと指示を与えられる。しかし、実験者が実験室を退室後、実験室の片隅の大人はおもちゃで静かに遊ぶのではなく、起き上がり人形に対して乱暴な行為を行う。(例:素手で殴る・馬乗りになる・木槌で打つ・投げる・「やっちまえ」「押さえつけろ」等の独り言をいう)。こうした行為を行っている間、大人が子供に直接干渉することは一切なく、あくまで子供が乱暴な行為を行う様子を観察できる環境を提供した。10分後、実験者が実験室に戻り、おもちゃを回収したうえで子供を別室に案内する(ステップ3へ)。

ステップ2-3:グループCの子供は一つ目の実験室に案内されることはなく、何も観察していない状態で別室に案内された(ステップ3へ)。

グループ分け


本実験の被害者:起き上がり人形

ステップ3:グループA、B、Cの子供全員を同様に、一人ずつ別室に案内する。別室には起き上がり人形とおもちゃの木槌の他、ボールやクレヨン、人形等のおもちゃが置かれている。子供はこの部屋の中で自由に20分間遊んで良いと指示を与えられる。20分間の間、実験者は子供に干渉することなく、静かに部屋の片隅で子供の様子を観察する。

結果、別室において子供が攻撃的な行動(起き上がり人形を攻撃する、攻撃的な言葉を発する等)を取る傾向を測定したところ、以下の傾向が見られた。

-グループA(静かに遊んでいた大人を観察したグループ)とグループC(何も観察しなかったグループ)の間には統計的に有意な差は見られない。

-グループB(乱暴な行為を行う大人を観察したグループ)の子供はグループA、グループCの子供と比較して攻撃的な行為を行う傾向が強かった(統計的に有意)。

以上をもって、研究者らはグループAの子供が大人からの直接的な干渉ではなく、観察のみを通して新しい行動を学んだということを結論付けた。

エビデンスレベル:比較実験

*参考動画(英語ですが、実験の概要が載っています)

編集後記

「子供が周囲の大人の真似をする」ということは何も驚くような発見ではないように感じるかもしれませんが、科学的な実験を通してこの現象を示した試みはこれが初めてだったので、この結果は当時の教育心理学の分野に一石を投じた研究として今も評価されています。子供の周りでの行動や言葉遣いには気を付けたいですね。

文責:山根 寛

スゴ論では週に2回、教育に関する「スゴい論文」をnoteにて紹介しています。定期的に講読したい方はこちらのnoteアカウントか、Facebookページのフォローをお願いいたします。
https://www.facebook.com/sugoron/posts/109100545060178
過去記事のまとめはこちら

Bandura, A., Ross, D., & Ross, S. A. (1961). Transmission of aggression through imitation of aggressive models. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 63(3), 575–582. https://doi-org.tc.idm.oclc.org/10.1037/h0045925

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?