見出し画像

マシュマロシリーズ①:我慢できるかな?子供のころの自制心と将来の学力

小さい子供は我慢することが苦手です。この子供の自制心というテーマは古くから発達心理学において関心を集めており、子供のころの自制心とその後の成長がどのような関連性があるのか、という問いに関しては多くの研究が行われています。今回は特にその中でも象徴的な研究である、マシュマロチャレンジ(Marshmallow Challenge)の概要と、その結論について紹介します。


キーテーマ

自制心・マシュマロチャレンジ・発達心理学

結論

幼少期におけるマシュマロチャレンジの結果は、その後の自制心や思考力、及びSAT(米国大学入試で使われる共通学力試験)と正の相関性が見られる。

マシュマロチャレンジとは

マシュマロチャレンジ(The Marshmallow Test)とは、1970年代に米国で行われた、4~5歳児を対象とした実験です。
その明快さだけではなく、簡単さ・可愛らしさもあいまって、発達心理学の分野を代表する実験として知られており、子供の自制心についての研究のためにその後も結果の分析や派生形の実験が数多く行われています。
いったいどのような実験なのでしょうか?

ステップ1:実験者が子供(4~5歳児)を実験室に誘導する。部屋の中にはテーブルと椅子が一つずつ置かれており、その他の内装は最低限におさえられている。

ステップ2:子供に椅子に座ってもらい、目の前のテーブルにマシュマロ(もしくは同様に子供が好んで食べるお菓子)を一つ置く。

ステップ3:子供に以下の指示を与える。「このマシュマロは君にあげます。君の好きな時に食べていいし、今すぐに食べても構いません。これから私は用事があり、10分間この部屋をでなければいけません。もし私が10分後に戻ってくるまでに、このマシュマロを食べずに我慢することができていれば、もう一つマシュマロをあげます。」

ステップ4:指示通りに実験者は部屋を退出し、子供に見られない形で部屋の様子を観察する。10分後に実験者は部屋に戻り、子供の結果に応じて当初の指示通りにマシュマロを与える。

実際の実験の様子を動画にしたものです。
待ち時間の間子供が悶絶する様子がとても可愛らしいので、是非見てみてください。

マシュマロチャレンジの結果の分析

初代のマシュマロチャレンジは6年間かけて185人の子供を対象として行われた大がかりな実験だったということもあり、その子供たちがその後どのように成長したのかも含めて研究が行われました。
実験のおおよそ10年後、そして13年後に当時実験に参加した子供たちの家庭に調査アンケートが郵送され、子供の思考力や適応力等が測定されたのです。
加えて、アメリカの大学入試共通試験であるSATの点数も集められました。

その結果、マシュマロチャレンジにて我慢できた子供ほど、成長してからも自制心が高い傾向が見られただけではなく、思考力・適応力・SATの点数が高い傾向が見られました。


複数の派生形の実験が繰り返された結果、特に子供が誘惑を断ち切るための作戦(他に楽しいことを考える等)を自ら想起できるかどうかが、その後の思考力・適応力・SATの点数等と相関性があると考察されています。

まとめ

マシュマロチャレンジは4~5歳児の自制心を測るための実験である。

マシュマロチャレンジの結果は、子供が成長してからの思考力・適応力・学力との相関性があることが確認されている。

留意点

こうした結果を見ると、「マシュマロチャレンジで我慢ができる子供は優秀」という評価をしてしまいそうになりますが、この実験は子供の才能や知力を測るために行われたものではありません。
子供の自制心は周りのしつけや家庭環境など、あらゆる外部因子の影響を受けると思われるので、マシュマロチャレンジをもってしてその子供の将来を予想したり評価したりするのは早計といえるでしょう。

同様に、マシュマロチャレンジで我慢ができるようになるようしつけたからといって子供のその後の学力や思考力に良い影響が及ぶとも限らない(因果関係ではない)という点についても留意するべきです。

編集後記

発達心理学を勉強していると必ずと言っていいほど紹介する実験を今回は紹介しました。簡単にできる実験でもあるので、小さいお子様がいらっしゃる方は実際に試してみるのも面白いかもしれません。

文責:山根 寛

マシュマロシリーズ②③④はこちら


スゴ論では週に2回、教育に関する「スゴい論文」をnoteにて紹介しています。定期的に講読したい方はこちらのnoteアカウントか、Facebookページのフォローをお願いいたします。
https://www.facebook.com/sugoron/posts/109100545060178

過去記事のまとめはこちら

Mischel, W., Ebbesen, E. B., & Raskoff Zeiss, A. (1972). Cognitive and attentional mechanisms in delay of gratification. Journal of Personality and Social Psychology, 21(2), 204–218. https://doi.org/10.1037/h0032198

Shoda, Y., Mischel, W., & Peake, P. K. (1990). Predicting adolescent cognitive and self-regulatory competencies from preschool delay of gratification: Identifying diagnostic conditions. Developmental Psychology, 26(6), 978–986. https://doi.org/10.1037/0012-1649.26.6.978



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?