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コストコジャパン物語

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9のつく年に思うこと。
19/02/06 06:41
 2019年が幕を開けて1カ月が過ぎた。個人的に振り返ると、9が付く年はエポックを画する出来事に遭遇している。というか、そんな環境に身を置けるようになったのは、9が付く年には仕事の領域が拡大したからだ。時は1989年まで遡る。今から30年前だ。

 当時、筆者は本業のプレスプロモーションで、媒体に掲載するブランドの「入り広」(広告)なんかを制作していた。ちょうどモデル撮影をしている時、広告枠の営業を担当していた方と、レディスアパレルの裏話をした。担当者は筆者に対し「アパレルのこと、よく知ってますよね。実は編集の人がライターを探しているのですが、良かったら記事を書きませんか」と、プロモーションとは別に執筆を持ちかけてくれた。

 その時は「空いた時間ならできるかもしれません」とだけ答えた。まさか実際に記事の依頼が来るとは思っていなかったからだ。しかし、初めて書いた原稿が意外にも編集の方々に好評だったことから、少しずつ記事を書くようになり、次第に出版社の枠、媒体のジャンルを超えてオファーを受けるようになった。

 それから、9年経った1998年頃だったか。ニューヨークから拠点を移した福岡で初めて地元経済誌から取材、記事執筆の依頼を受けた。それが「コストコ」である。その頃、日経新聞にはコストコの話題がチラホラ掲載されていた。記事を読んで会員制の卸売り業態「MWC(大型ホールセールクラブ)」だと知った。北九州市から要請を受け、1号店の出店先はAIM(アジアインポートマート)が有力とのことだった。ところが、売場面積や駐車台数でコストコ側と条件が折り合わず、話はとん挫した。

 代わって浮上したのが福岡市の隣、粕屋郡久山町で計画されていたショッピングセンター「トリアス久山」である。この開発を主導していたのが、ダイエー本体から出向し九州ダイエーの社長まで務めた(株)トリアスの平山敞氏。すでに同社から離れて経営コンサルタントに転身し、その後にデベロッパーとして同社を設立していた。平山社長はだんご三兄弟をヒットさせた歌のおねえさん、茂森あゆみの父親が経営する会社などから出資を受け、トリアス久山の開発を進めていた。

 しかし、全くゼロからのSC開発なだけに、ことはそう簡単には行かなかった。開発の進捗状況が報道され、遅れている理由に「遺跡が見つかったから」なんて笑えない理由が付けられたこともある。それでも、コストコ誘致は本決まりで、記者会見も設定された。地元経済誌からはまずその模様を取材して、日本に初上陸するコストコの概要をまとめてほしいというものだった。

 場所は、博多駅前のホテル日航福岡だったと思う。てっきり大広間を貸し切って、メディアを多数呼んだ盛大な会見かと思いきや、意外にもこじんまりとした部屋にマイク・シネガル日本支社長とトリアスの幹部、そして通訳の女性の3名が同席。参加したメディアも東京から来たところはなく、地元数社にとどまった。

 シネガル日本支社長に対する質問は、「米国流の会員制卸売りが日本で通用すると思うか」「問屋が力を持つ日本ではメーカー直仕入れは難しいのでは」「ロット販売(まとめ売り)は日本人の生活にそぐわないと思うが」の3点に集中したと、記憶している。

 通訳が若い女性であまり流通に詳しくなく、筆者にしてもニューヨークで鍛えたとは言い難い英語では、シネガル支社長に質問の真意が伝わらない。だから、答えは「売上げ比率は食料品55%、非食料品45%と見ているので、日本でも通用する」「仕入先は国内550社(海外50社)で、7割がメーカー直仕入れだ」「メーンターゲットはレストランオーナーや小規模小売業者」と、ほぼ事前発表のものを繰り返すばかりだった。

 これには筆者をはじめ、メディアはイライラさせられた。特にターゲット設定について、コストコ側が想定する「レストランオーナー」や「小規模小売業者」には、トリアス幹部が口を挟み、「あくまで一般消費者です」と、修正する場面もあった。思った取材ができず、その日は終了。詳細は開業を待つことにした。

 1999年4月22日、日本最大級のSC「バリューセンター・トリアス久山」の開業を翌日に控え、プレスプレビューが開催された。さすがにこの日は東京からも新聞、雑誌、テレビとメディアが大挙して押し寄せた。コストコは25万㎡に及ぶ敷地を二分するウエストゾーンの核店舗に位置づけられ、イーストゾーンには英国ヴァージングループのシネコン「ヴァージンシネマズ」などが入居。リチャード・ブランソン会長も来福した。

 筆者は東京からやって来た編集者と一緒に、コストコをメーンで取材。地元経済誌については、開業景気が一段落した後にレポートをまとめることになった。コストコは売場面積1万3000㎡、天井高8.5mの倉庫型の店内には食品から文具、家具、生鮮まで4000アイテムもの商品が並んでいた。表示される価格はバラ売りの家電や宝飾、衣料などを除きすべてロット販売で、6袋入りのポテトチップスが6パックで598円。一般消費者向けとは言いつつ、小規模小売店の仕入れ価格より、お得感のある設定がなされていた。

 店頭では入会手続きの要領も公開された。必要事項を書類に記入すると、その場で顔写真を撮影してくれ、すぐに会員カードが発行された。6月末まで入会無料のキャンペーンが展開され、費用はかからなかった。入会は法人だけでなく個人でも可能で、商品の「安さだけ」を考えると、一般消費者にはすこぶる魅力だと感じた。

 ただ、トリアス久山を視察したというセレクトショップの社長は、コストコに対し否定的な見方だった。「米内陸部の都市は隣街まで買い物に行くのに何時間もかかる。自宅に大きな冷蔵庫や地下倉庫があるなら利用するだろう。でも、日本じゃ近くのスーパーでちょくちょく買い物すればまとめ買いする必要もない。それほど求められないのでは」と言い切った。他の人々も大半は同じような意見。MWCが日本には存在しなかったわけだから、無理もない。浸透するには時間がかかるし、ある程度の修正も必要だと思った。

 実際、コストコ福岡店は順調に売上げを伸ばしたわけではない。開業から2カ月を経過して、予想通りの課題を露呈した。まず日本市場に合う商品政策が取りきれていないこと。特に食品の品数は乏しく、バラエティさを欠く生鮮品は、日本人の視覚と味覚を満足させられなかった。この時点で、売れている商品は限られていたようだ。

 衣料品や家庭用品についても米国人なら好みそうだが、それが日本人の感性や生活スタイルに合うとは言い難かった。そもそもMWCはトイザらスやタワーレコードのように世界中どこでも同じ商品が通じるカテゴリーキラーとは、根本的に業態成立の下地が違うのだから、それは仕方ないことだ。

 メーカー直仕入れとダイレクトな納品の体制づくりも、中々進んではいなかった。シネガル日本支社長は事前に「仕入先は国内550社(海外50社)で、その7割が直仕入れだ」と語っていたが、実際に店頭を見ると形だけメーカー納品で、実際には「卸が介入している」ものがかなり含まれていると感じた。

 そして、会員獲得である。コストコ福岡店は初年度目標の5万人に対し7万人のペースで獲得が進んでいると発表した。しかし、これは6月末まで続けた「無料キャンペーン」によるところが大きかった。それだけに翌年も会員でいる更新率をいかにアップするか。キャンペーン終了後は個人4000円、法人3500円の年会費を払うが、実は米国のMWCではこの年会費収入が利益の半分以上を占めていると言われていた。



共同購入という日本スタイル

 筆者がコストコ1号店の開業前後に取材し、当時書いた記事をもとに感じた印象を振り返ってみた。あれから20年、2019年はコストコ開業20周年の節目でもある。店舗数は現在、26まで増えている。年会費は個人が1割アップの4400円となったが、会員数は600万人を達成し、更新率も80%をキープ。売上高は公表されていないものの、日本だけで4500億円とも5000億円とも言われている。開業直後の課題も何のそのの勢いだ。

 品揃えは各部門でトップシェアを誇るメーカーや安さを打ち出すセカンドブランドが主体だ。仕入れ方法は基本路線が貫かれており、品数は開業時より1割強減って3500程度。それでも集客に影響しているかと言えば、600万人もの会員がいるのだから、スーパーや業務卸から一定数のパイを奪い取ったとも考えられる。商品の分量から単価を割り出すと、スーパーに並ぶ同じ商品に比べ、2〜3割程度は安い。

 それはコストコが11%以上の粗利益をとらない政策を徹底しているからで、これは一般食品スーパーの半分以下から3分の1に近い低さだ。やはり、会員から年会費を徴収しないと、とてもやっていけないだろう。

 メーカー直仕入れは、ビッグサイズやロット販売という一般スーパーとは違う商品を扱うことで棲み分けし、取引先の理解を得ていったようだ。現在は26店ものスケールメリットがあるのだから、メーカーにとっても商品を共同開発するメリットはあるだろう。それが結果的に会員を飽きさせない商品開発に繋がるのだ。

 低価格は徹底したコスト削減に尽きる。メーカーはロット販売の商品を縦横約1mのパレットに積んで、コストコの物流センターに運び、店舗ではそれをそのまま店頭に運んで並べる。積み替えなどの手間を省いて、できる限り物流費を低減する。店内作業は日中の業務に支障がでないように深夜に行われる。福岡店は売場面積が1万㎡以上あるのに、スタッフは日中でも30名程度と極めて少ない。こうしたローコストオペレーションで、販売管理費は10%程度。マンパワーに頼らない仕組みが低価格を実現するわけだ。

 当初の懸念を乗り越え、コストコが大きく成長したのは、会員による共同購入もある。テレビの情報番組では、首都圏に住む主婦たちが数家族で商品を購入し、それをシェアしている事例などを紹介。こうした賢い買い物スタイルがコストコが出店するエリアで広がっているのだ。核家族が当たり前の日本だから、まとめ買いを数家族で分配するMWCの新しい利用法は、コストコにとって追い風になったようだ。

 今や店舗がないエリアでも、スーパーがコストコの商品を催事で展開するケースが増えている。1ガロンほどのボトルに入ったオレンジジューズ、種類がまとめてラッピングされた調味料、米袋ほどの大きさのポテトチップス等々。アメリカナイズされた商品は、NB主体の売場では異彩を放つ。催事としても一定の手応えがあるのかもしれない。

 流通外資では、英国のテスコやフランスのカルフールが進出したものの、欧米スタイルでは日本市場の攻略は難しく、ともに撤退した。一方、会員制MWCのコストコはすっかり日本市場に定着している。やはり、デフレ慣れした日本では「安さ」はすべてに優る武器ということか。惜しむらくは、DSのターゲットが企画するような小洒落たファッションアイテムもあればいいのだが。

 2019年の今年は9が付く年で、新たな時代を開く業態に出会えるか。巷ではZOZOTOWNが減益だの、メルカリが好調だのと、注目されるのはネットビジネスばかり。目を見張るリアルストアや画期的な店舗業態は、10年前の2009年にはお目にかかれなかったので、そろそろ登場しても良さそうである。日本に期待できなければ、ニューヨークやパリからの出現を待つしかなさそうだ。

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