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【オススメ本】今村寛『自治体の台所事情 財政が厳しいってどういうこと?』ぎょうせい、2018

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「あなたは自分のまちの財政課の職員のこと、好きですか?」

これは本書の著者であり、福岡市の職員である今村氏が毎回の講座の冒頭でする問いとのことである(p.14)。当然、前向きな回答はなかなか聞かれない。しかし、今村氏は質問だけでは終わらない。財政(調整)課長の経験者として、財政のイロハを市内外に伝えるだけでなく、対話型自治体経営シミュレーションゲーム「ふくおかSIM(SIMカードは一切関係ない)」を活用しながら当事者、共感者をどんどん広げている。その数なんと「6年間で170回」。1年に換算すると、約30回、すなわち1ヶ月に2〜3回のペース(ほぼ週1)である。もちろんこの本が出版されたのはコロナの前なので、今はこんな回数にはいたっていないだろうが、尋常ならざる広がりと言える。

なぜこうしたアプローチが受けたのか。キーワードは、①「選択と集中」、②説明、③対話という3ワードにあるらしい(p.78〜84)。すなわち、自治体職員は、①「選択と集中」、②説明、③対話が概して苦手なため、財政課(予算を査定する側)と原課(予算要求をする側)がすれ違い、財政問題に対して共通言語や共通理解が生まれないことが概して起こる。これを今村氏は講演だけでなく、ゲーミフィケーションやファシリテーショングラフィックを通して、お互いの言語にできれば、同じ方向を向ける人材が育つ仕組みを提案したのである。すなわち、財政問題を「(権)力関係」の問題から「人材育成」の問題に置き換えた。これが全国にインフルエス的に広がった最大のポイントであったのであろう。

「一人の千歩より千人の一歩」(p.135)

今村氏はこれを上記の言葉で表現する。まさに正鵠を得たり、である。

蛇足だが、この「対話」の重要性に気づいたのは、福岡市で2012年に市職員が起こした飲酒死亡事故による自粛と市民からの信頼失墜からどう回復(レジリエンス)するのかというもがきからだという(p.154)。ピンチがチャンス、雨降って地固まる、捨てる神あれば拾う神ありではないが、きっかけとは概してこんなものということであろう。なお、究極の目標は

「査定しない財政課」。

これが理想とのことである。これまでも別の分野で「デザインしないデザイナー」とか「教えない教師」というアプローチがあったが、まさにその世界観に近い。

なお、後段では、今村氏がこのようなアプローチの必要を感じ、実際に変わったきっかけとして、大学での学び直しと海外での視察経験のエピソードを披瀝している。やはり、インプットなくしてアウトプットなし、アウトプットなくしてインプットなしである。

そして、最後には

「自治体職員として与えられた立場では実現できないもう一つの自己実現を図る「複業」。与えられた職務の範囲では活用できない能力の活用で社会の役に立てるだけでなく、視野を広げ、人脈を広げ、仕事の自分とは違う軸足の生活を送るなかで、自治体職員としての生活では見えないもの、聞こえない声に気づき、そこから自治体職員としての生活がますます豊になるということが現実にあります」(p.174)

と「複業」の重要性も説かれている(今村氏は来月(6月)にもこの続編で、対話をテーマにした本を出版されるとか)。自治体の副業に関心がある小生は、この視点から本書を読むとまた違う気づきが得られそうと思った次第である。

ともあれ、予算と関係ない自治体職員は皆無である。ぜひご一読を勧めたい。

(参考)目次

(目次)Part1 財政課職員はなぜ嫌われる!?
あなたのまちの財政課職員のこと、好きですか?/なぜ財政課は口うるさく注文をつけてくるのか/予算はどうやってできあがる?/誰がどうやって予算を決めているのか  など
Part2 自治体は「お金がない」?
使い道が自由に決められるのは「一般財源」だけ/どこにどのくらい使っているの?/義務的経費って何?/この20年間で増えたもの、減ったもの/借金するのは何のため?  など
Part3 限られた資源をどう使う?―対話型自治体経営シミュレーションゲーム「SIM2030」を通して
対話型自治体経営シミュレーションゲーム「SIM2030」/「選択」は難しい/「説明」は難しい/「対話」は難しい/未来は現在の積み重ね  など
Part4 「財政健全化」って何だろう?
「財政健全化」は目的ではなく手段/「スクラップ&ビルド」から「ビルド&スクラップ」へ/限られた資源で自律経営ができる組織に/財政出前講座を予算編成にどう活かす?  など
Part5 全体最適を「対話」で導くヒトづくり
財政出前講座の現在・過去・未来/財政係長はつらかった/人生を変えたのは「ゆる〜い対話の場」/全国区となった「出張財政出前講座」/「財政出前講座」はどこへ行く  など

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