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【オススメ本】石田秀輝ほか『2030年の未来マーケティング』ワニ・プラス、2022

DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が出て以降、「LX(ローカル・トランスフォーメーション)」という言葉が最近政府でも使われるようになったが、本書では「SX(サステイナビリティ・トランスフォーメーション)」とという新しい概念が紹介される。

SX(サステイナビリティ・トランスフォーメーション)とは企業のサステイナビリティ(稼ぐ力)と社会のサステイナビリティ(社会課題)を同期させるという考え方のことで、具体的には個のデザインをベースとした、①豊かなローカル、②未病と健康、③域内で循環する「もの・コト」、④豊かな食と農、⑤自然を近くにをキーワードにしたライフスタイルが重要になるという。

そして、こういうSXの社会をあるべき未来像を描く手法として近年注目される「バックキャスト思考」で考えようというのが著者の提案。バックキャスト思考とは「制約(問題)を見出し、それを肯定して受け止め、その制約の中で解を見つける手法」のことで、現状分析やその課題解決を考えることから入るフォアキャスト思考とは逆の考え方である。

以下は、私が印象に残った言及。

・リビングの電球が一つ切れ、部屋が少し暗くなってしまった。あなたはどう解決しますか?(中略)バックキャスト思考による解決を考えてみます。(中略)この例題でいえば、「電球が切れた」という制約を否定も排除もせずに受け入れて「少し暗くなったリビングでどうすれば楽しく暮らすことができるか」を考えるのです(p.38-39)

・これからのものづくりとテクノロジーにとって、(中略)自立型という視点と、自立型と依存型のあいだの”間”を埋めるという視点が欠かせなくなるはず(p.85)。

・大変換期を指す言葉がアントロポセン。日本語では人新世と訳されており、ここ2年ほどで急激にクローズアップされるように(p.48)。

・現代社会で重視されてきた”都会”は自立型ライフスタイルの対局の存在なのは明らか(中略)。都会は自然とはほぼ無縁であり、照明や空調、調理、移動などあらゆる日常の営みに電気などのエネルギーが不可欠(p.87)。

・私がとりわけ印象深かったのは、(中略)「地域」「家族」「自然」という3つの言葉(中略)。これらは江戸末期から明治維新の頃日本にやってきた多くの外国人が絶賛した日本文化の本質を成す要素(p.102)。

・ライフ(生活)の変化が、ワーク(働き方)やビジネス(仕事)の形を変える(p.103)。

・就職においても、地方はもはや不利でなくなっています。地方活性化を意識している企業が想像以上に多く、都会の学生と同等の教育を受けられ、かつ地方の現状をよく知っている自分は、むしろ有利だと感じるようになりました(p.162)。

・「小さな循環が主役の社会」とは、小学校区程度の小さなコミュニティが主役になる社会(p.237)。

・人生100年がいよいよ現実のものとなった時代、人々は1tの企業に所属するのではなく、1人でいくつも企業と契約して自らのスキルを提供する働き方が一般的になります(p.242)

・自分だけの自由ではなく他者の自由を認めるという、今までになかった自由の豊かさを現実につくりあげることができることを、私たちはコロナ・パンデミックで証明した(p.256)。

最後に著者の石田秀輝氏は民間企業を経て、大学教員に展示、2014年から沖永良部島に移住された方。地方かつ離島に移住したならでは視点から織りなされる視点だけに説得力がある。

これまでの思考やアプローチで失われた20(30)年の解決は何一つできないないのは周知の通りである。未来を変えたいのであれば、視点や思考法から変えないといけない。

(参考)石田秀輝氏著者プロフィール
一般社団法人サステナブル経営推進機構理事長、東北大学名誉教授、地球村研究室代表ほか。
1953年岡山県生まれ。78年伊奈製陶株式会社(のちINAX)入社後、取締役(CTO)技術統括部長等を経て、2004年より東北大学大学院環境科学研究科教授を務める。14年春、沖永良部島に移住。持続可能な島つくりの実践活動を続けている。また「ものつくりのパラダイムシフト」を推進するため、国内外で積極的に活動中。著書に『自然に学ぶ粋なテクノロジー なぜカタツムリの殻は汚れないのか』(化学同人)、『危機の時代こそ 心豊かに暮らしたい』(KKロングセラーズ)、『光り輝く未来が、沖永良部島にあった! ――物質文明や金融資本主義社会はもう限界です』『「バックキャスト思考」で行こう!――持続可能なビジネスと暮らしを創る技術』(ともにワニブックス[PLUS] 新書)ほか多数。

(参考)出版社ホームページ https://www.wani.co.jp/event.php?id=7304


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