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映画「八十八年目の太陽」を見てきた

注:
1940年前後に制作された映画の感想です。以下では映画の内容、制作時期や背景の説明のために、当時に即した表現を使っている場合があります。
あとめっちゃ長いnoteです(3800字くらいある)。

はじめに(見に行った理由など)

2022年12月04日(日)、神奈川県横須賀市は浦賀の浦賀ドックシアター(浦賀レンガドック下)にて、映画「八十八年目の太陽」が復刻上映されたので見に行ってきた。

横須賀市や神奈川新聞の特集はこちら:
YOKOSUKA PORTAL MAGAZINE
1夜限り!映画「八十八年目の太陽」のココがスゴい!ポイント7選【12/4浦賀ドックで上映】
※2022.12.28現在リンク切れ(加筆)

カナロコ(神奈川新聞)
「造船の町」だった横須賀・浦賀 艦船とドックが刻む歴史

この映画は1941(昭和16)年に公開されたもので、浦賀ドックと浦賀の町を舞台に物語が展開する。日中戦争(作中の表現ではシナ事変、1937/昭和12年~)の最中の制作であり、軍港と造船所周辺である三浦半島のこの一帯は既に厳しい諜報防止統制(近隣の鉄道では窓のブラインドを閉めて運行する、写真撮影の禁止など)が取られていたが、海軍省の全面的な後援付きのプロパガンダ映画であるために、造船所内や船を建造する様子、軍艦の進水模様などが詳細に描写されている。

(詳細はよく分からないが)記録情報の権利の関係やそもそも保存フィルムの状態が非常に悪かったなどの事情で長らくお蔵入りとなっていたが、縁のある浦賀ドック(1号船渠)での上映のため、一夜だけ公開が許可されたそうだ。

私は青函連絡船の建造地の一つという流れで浦賀ドックに興味を持っている人間であり、浦賀生まれ(建造)の船の映像がいっぱい出てくるという情報、そして太平洋戦争直前の時期の映画というものを始めて見る機会、ということで見に行ってきた。写真撮影・録音・録画は禁止されていたが、メモを取ったのでこれを元にして、以下に映画の内容と気になったところなどを書く。

映画「八十八年目の太陽」の概要

タイトル:八十八年目の太陽
初公開:1941(昭和16)年11月15日
時間:102分
制作:東宝映画
監督:滝沢英輔
原作:高田保
出演:徳川夢声、英百合子、大日方傳、霧立のぼる、佐伯秀男ら
後援:海軍省
支援:浦賀船渠
以上の主な情報はallcinemaより

映画「八十年目の太陽」の物語展開

物語は浦賀ドックの旋盤係長である深見鉄平(演:徳川夢声)とその子供たち(長男・次男・長女)を中心に展開される。

映画「八十八年目の太陽」の登場人物関係図(うろ覚え)

駆逐艦・ハヤカゼ(浜風がモデル)の建造に勤しむ鉄平の元に、音楽家を志し出奔したがうまくいかなかった長男の浩吉が妻と息子を連れ、13年ぶりに戻ってくるのである。浦賀ドックに中途採用(?)された長男と入れ違えに次男のキリカツ(※漢字は忘れました)には召集令状が届き、シナ(中国)に出征していく。ドックでは駆逐艦と同時期に商船(白山丸)も建造中であり、駆逐艦の納期が繰り上げになったためにドックは海軍省と商船会社の板挟みになる。多忙なドックから余暇が多く賃金も多い(と作中では説明されている)町工場への引き抜きに応じる者も現れ、どうなる⁈船の建造⁈といった流れだ。

深見家は代々浦賀に住まう一家で(鉄平の祖父は浦賀の与力だったと説明が入る)、旋盤係長の鉄平を筆頭に次男(リベット打ちの熟練工)、長女(クラブ※応接所の給仕)、三男(あまり出てこないが浦賀ドックの青年学校の生徒だったような気がする)と浦賀ドック関係者が揃っている。次男の幼馴染で長女と恋仲(たぶん)の北も浦賀ドック関係者で、鉄平の部下の旋盤工である。長男関係の音楽家を除けば登場人物は大部分が浦賀ドック職員か、その家族か、船主だ。

物語には何本か話の骨があるが、
①駆逐艦ハヤカゼを納期に間に合わせようとする鉄平
②浦賀ドックに中途採用され、造船に励もうとする長男(浩吉)
③浦賀ドックから町工場への工員引き抜き関連の次男(キリカツ)・長女(早苗)
の三本がメインと感じた。

映画のポイント(援護について)

映画「八十八年目の太陽」が公開されたのは1941(昭和16)年の11月。そう、日米開戦の直前である。映画内でも米国を意識した映像、発言が出てくるなど影響を感じさせるが、直接的な背景としては日中開戦以降の戦時体制が大きい(と思う)。
映画の冒頭も冒頭(スタッフロールより前)に
「征かぬ身は ゆくぞ援護に まっしぐら」
という文字がでかでかと出てくるが、直接的な戦力になる(=出征する)か船や武器といった援護(製造業)に従事せよ、というメッセージがすごく伝わってくる(ような気がする)。

話を動かす長男(浩吉)は、「郷里を出奔し定職に就かずフラフラしている」、つまり親不孝者/非国民(とここでは表現する)が、「郷里に戻り定職に就き弟妹の抱える問題解決に奔走し機転を利かして親の意思を継ぐ」、要は更生して真人間になるというキャラクターなのである。浩吉を連れ戻しにやってくる音楽家たちは、「親の金を使い道楽(音楽)に呆けている者」として描かれている(たぶん)。浩吉の妻も、元々は銀座(だったような気がする)のクラブか喫茶店の有名人であり、冒頭では「東京に戻りましょう?」などと言っているが、中盤になると「私は職工の女将さんの方がいいのよ」という台詞を零す。なんだかめちゃめちゃ都合がいい展開なように思えるが、そういう映画なので当然と言えば当然であるだろう。

話としてはどちらかといえば「援護」を強調しているのだが、次男(キリカツ)が出征する場面や、遺品が戻ってくる場面(次男は戦死するのである)、「しっかり頼みますぞ、お国のために」「命は神様からの授かりものなので有事の際はお返しするのだ」といった台詞、次男の死後、やけに駆逐艦の建造に執着するようになる鉄平などから、前者(出征)もものすごく重視しているような感じは伝わってきた。

また、町工場への引き抜きに応じるが召集令状が来てトラブる次男(長男が違約金を立替し出征する)、資金繰りに困る兄のために町工場へ引き抜かれようとする北(※長女と恋仲の熟練工、長男が身代わりになり浦賀ドックに留まる)、事情を隠しドックを辞めると言う長男と大喧嘩する鉄平、といった場面から、「引き抜きに応じず援護に努めよ」というメッセージもものすごく伝わってくる気がする。

映画のポイント(映画業界の事情)

そういうわけでプロパガンダ感がすごい(というかプロパガンダ)映画なのだが、見ていてつまらない映画なのかというと、そうでもない(※個人の感想です)。
出てくる俳優がめちゃめちゃ豪華なのだ。私は当時の俳優陣について全く詳しくないが、演技を見ていて全然イライラしない(話に没頭できる)し何より顔がすごくいい(性別を問わず)。特に長男(浩吉)とその妻(※作中でも名前出てたのですが忘れました…)はすごい顔がいい。マジでいい。
いい俳優が揃ってるって映画を「見れる」という点に置いては重要な部分なのだな、と思いました。
※長男(浩吉)役が佐伯秀男さん、妻役が霧立のぼるさんです

この「出てくる俳優がめちゃめちゃ豪華」というのは裏がある。日中戦争の開戦以降、映画にも興行時間の制限、外国映画の輸入制限といった規制が掛かり、1939(昭和14)年の「映画法」で脚本の検閲や文化・ニュース映画の上映の強制といった措置が取られるようになる。1941(昭和16)年9月には映画フィルムの民需用の使用が制限された。

※以上の情報は富士フィルムWebサイトより(Twitterのフォロワさんから助言頂きました)
富士フィルムのあゆみ
日中戦争のぼっ発と戦時体制への移行

「八十八年目の太陽」は、「海軍省」後援、言ってみれば「お墨付き」の映画であって、だから、フィルムも潤沢に使えた(だろう)し、予算も十分に取れた(のであろう)。もしかすると広報のためにトップ俳優を使えという要望もあったかもしれない。
文化と時勢は無縁ではないし、文化が使われてきた、という面もあるが、文化がそれに乗ったという面もあるのだと思う。

映画のポイント(船や駅など)

作中の駆逐艦ハヤカゼと白山丸と浦賀駅と三笠(戦艦)についての解説はこちらに詳しいので、こちらを見てほしい(横着・そろそろ書くの疲れてきました)。

YOKOSUKA PORTAL MAGAZINE
1夜限り!映画「八十八年目の太陽」のココがスゴい!ポイント7選【12/4浦賀ドックで上映】
※2022.12.28現在リンク切れ(加筆)

浦賀ドックには通勤船というものがあり、本工場と川間分工場を結ぶ航路などがあったのだが、その通勤船がバッチリ映っている。というか何回か出てくる。あとは少年刑務所時代の大和(帆船の方)が出てきたり、交通やミリタリー目線でもすごく貴重な記録であることは間違いないだろう。

おわりに

(色々な意味で)貴重な映画を拝見したと思いました。公開に関係された皆さま、本当にありがとうございます。できたら……いや、本当に難しいのは分かっているのですが可能であれば……また見たいです。

映画に関するメモは結構あるので、これからメモの内容を整理して打ち込みたいです。このnote、3800字くらいあって終盤は書くの疲れてきちゃったので、映画の内容と、気になった部分はメモを見ながら丁寧にまとめていくつもりです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。