見出し画像

[Lisztomania!] Case 5:フジロックとトラキャンとランドリーズの話

各地に生息する音楽好きの方々にそれぞれの音楽遍歴や
音楽にまつわるあれこれについてお話を伺う連載企画です。

画像20

第3回のLisztomania! で場所をお借りした際、インタビュー終了後に横で話を聞いていたヤスイさんが語ってくれた音楽遍歴に興味を持ち、その場でオファーしたことで実現した今回の記事。マリン・ガールズとシンズとニッツァー・エブと大和那南。2度の訪問で私が購入したCDやレコードを並べてみると、お店の魅力がなんとなく伝わるかもしれない。

休日のひっそりと静かな角栄商店街の雰囲気とは裏腹に、小さな店内はほどよく賑わっていて、新しくできた2階の本屋に足を踏み入れてみると、時間の感覚を失くすような懐かしい空気が流れていた。

吉祥寺にあってもおかしくないお店ですよね、と私が言うと、「逆にこの商店街にそういう店を構えているのがうちの強みなんです」とヤスイさんはインタビューが終わったあとで話していた。
街と、そこに住む人々と、音楽への愛が滲み出た、amist ヤスイさんのお話。


~Case 5 : amist ヤスイさんの話

──第3回のyokoさんのインタビューでamist(アミスト)に来た際に、ヤスイさんは音楽にハマり始めたのが遅かったと言ってましたよね?

ヤスイ はい。音楽を聴いてはいましたけど、洋楽だといちばん初めは大学のときにテレビのチャートを見ながら聴いたりとか。

──それは90年代半ばですか?

ヤスイ そうですね。基本的に高校も大学の頃もJポップを聴いていました。普通に流行りものを。高校のときはいわゆるビーイング系ってやつが流行っているときでしたね。お金がないながらも買って、あとはレンタル。シングルチャートの曲を借りて、カセットにダビングして。高校が自転車通学だったから、それを聴いて学校に通う、みたいな。

──ヤスイさんはお住まいはずっと埼玉なんですか?

ヤスイ 埼玉です。

──高校生の頃は特に音楽好きでも、特定の誰かが好きなわけでもなく?

ヤスイ そうですね。大学生になると自分でアルバイトを始めて買ったりもして。部活をやってたんで、その部活の連中とカラオケに行って歌うための盛り上がる曲みたいなのを曲を借りては覚えて、カラオケに行って、みたいな。まあ当時の普通の大学生、って感じだったんですけど、やっぱりちょっと洋楽かっこいいな、って思うところもあったりして。ちょうどその頃、ダウンタウンの『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』の中で洋楽ランキングを毎週やってたんですよ。

──はいはい。ありましたね。その頃は何が流行ってました?

ヤスイ そのときはシェリル・クロウとかジャミロクワイとか。で、当時の大学の友達と「超かっこいいよね!」みたいな話になって、ジャミロクワイのCDは買った。でも結局そこから洋楽にハマるということはなく終わって。バイト先に音楽好きの友達がいたので、日本のバンドでお薦めない?って教えてもらって、TSUTAYAに行って借りて、一応いろいろ聴きましたけど。グレイプバインとか、ゆらゆら帝国とか……。

──その時代なんですね。

ヤスイ ミッシェル・ガン・エレファントはライブにも行ったし、かっこいいなとは思ったんですけど、そこからあんまり追求することもなく。で、そのまま社会人になった感じで。それが2001年くらい。

──じゃあそのときは音楽好きの友人からは洋楽は伝授されずに?

ヤスイ されなかった。覚えてるのは、プライマル・スクリームが「XTRMNTR」というアルバムを出したらしい、っていうのを話で聞いて、でも興味がないからへえーって感じで。それから社会人になった次の年にその友達にフジロックフェスティバルに誘われて、そのときは自分もちょっと欲してたというか、勢いで「行く!」って答えて、初めてのフェスに行ったんです。

──それは何年のフジロックですか?

ヤスイ 2002年です。行く前に友達が予習のCD-Rをくれて、その中には例えばレッチリが入ってたり、コーネリアス、ハイロウズ、ソニック・ユース、あとはUKのザ・ミュージックと、ホワイト・ストライプスも入っていて、聴いたんですけど正直あまりまだピンときていなくて。で、すごく記憶に残ってるんだけど、いちばん初めに会場に着いたときにレッドマーキーで少年ナイフがやっていて、でもそれは観なかったんです。友人も僕が初めてだからあまり連れ回すことはしなくて。それで、まず最初はちょっといいなと思っていたザ・ミュージックを観た。そしたらいちばん有名な「The People」をやっていて、盛り上がってて、レッドマーキーがすごいことになってたんですよ。かっこいいなぁと思って。

──ザ・ミュージックといえばフジロックですもんね。

ヤスイ そうですね。確か次の年にも来ていて、その辺を歩いてたから握手してもらいましたよ。で、その2002年のときはレッドマーキーがホワイト・ストライプスで、音が漏れているのを聴いてかっこいいな、と思いながらもそれは観ないでグリーンステージに向かって、友人に「ヘッドライナーのケミカル・ブラザーズと、ホワイト・ステージのトリのソニック・ユース、どっちがいい?」って訊かれて、どっちもわからないんだけど(笑)、とりあえずソニック・ユースのほうに行ったんです。その頃のソニック・ユースって『Murray Street』のときで、事前に友達が貸してくれて聴いても、暗いっていうか、落ち着いた感じのアルバムだからピンとこなかったけど、とりあえず行ってみることにして。それでホワイトの端のほうから入ってステージ前まで行って、目の前にサーストン・ムーアがいる状態で観たんですよ。そしたら衝撃で。かっこよすぎちゃって。結局その日は朝までいてから、そのまま寝ないでCDを買いに行ったんです。そのときに買ったのがザ・ミュージックの『The People EP』と、ホワイト・ストライプスの『White Blood Cells』。そこから一気に洋楽にシフトしちゃった感じです。

画像11


──へえー。2枚ともまさにその時代の音ですよね。

ヤスイ ソニック・ユースを観て衝撃を受けたけど、まずそっちを買いに行きましたね。すぐ聴きたくて。地元のTSUTAYAだったかな。

──そこが洋楽に対する取っ掛かりというか、すごくわかりやすいきっかけですね。

ヤスイ フジロックのタイムテーブル表があるじゃないですか。帰ってからあれを見て、自分が観た人、観れなかった人、あとは他の日に誰が出ていたかを全部調べ始めて、借りれるなら借りてとにかく聴く、みたいな。

──今まではそれほど予兆もなかったのに、そこから急に。すごいですね、フジロック。

ヤスイ 多分イベントが楽しかったんでしょうね。初めてだったので。今はフェスも多いけど、飲食店があんなに出てて、山の中だし、っていうのが。

──非日常感ですよね。

ヤスイ あとはあんまり雨も降っていなかったから、つらい思いもしていないし、夜中はその辺で横になって寝たりとか。あの感じが楽しすぎちゃって。そこからですね。当時はひとり暮らしをしていたから、給料を全部CDにつぎ込んで、インターネットはそのときは iモードみたいな感じでしたけど、それで調べて。あとは友達がCD屋でバイトをしていたんで、そこからいろんな情報を貰ったり。

──急に火がついたヤスイさんに、そのご友人はびっくりしてませんでした?

ヤスイ いや、そのときはやっぱり楽しくて、僕がもっとくれ、もっとくれとおかわり状態がすごいから、いつもCD-Rを作ってくれました。友達は元々シューゲイザーが好きでコーネリアスも好きで、彼はそっち側に僕を誘導する感じではあったんだけど、ギター・ポップ寄りのお薦めもくれて、いろんなものがごちゃごちゃな感じのなかで、あ、これかっこいい、って思いながら進んでいきましたね。だからスピードが速いというか、どんどん詰め込んで、吸収していって。

画像2


──社会人だからお金もあるし、いろいろ摂取しやすい時期だったんでしょうね。

ヤスイ その友達はずっと『Cookie Scene』を買っていたみたいで、メインじゃない音楽を結構入れてくれていたから、その影響もあるかもしれないですね。

──じゃあもう基本的にロックですか?

ヤスイ そうですね。基本的にはロック。友人からもいろいろな背景を訊いたりしながら。ガレージロックのリバイバルがあって、ストロークスがいて、ホワイト・ストライプスがいて、UKからザ・ミュージックが出てきたり、あとはコーラルとか、リバティーンズ、ヴァインズ、ジェット、スウェーデンのマンドゥ・ディアオってのもいましたね。聴きやすいというか、見つけやすいロックバンドが多かったので、買っては聴いて、買っては聴いて。Amazonでいちばん最初に注文した履歴が2002年で、それがヴァインズでしたね。

──その頃はAmazonがもうあったんですか?ヤスイさんはそこが不思議なんですよね。40代の音楽好きだと大体10代に聴き始めて、インターネットもない、レコード屋しかない時代なので、そういう感じの人はいないじゃないですか。その辺のロックから入り始めるのは少し下の世代のイメージだから。

ヤスイ 遅いんです。社会人になってこれ聴いて衝撃、みたいな。遅咲き(笑)。でもまあ、楽しくて。一気に詰め込みすぎて、バンド名は覚えてるけど曲名は覚えていないものも多いし、忘れちゃってるバンドも多いです。

──その頃がいちばん盛り上がって聴いていた時期ですか?

ヤスイ そうですね。当時はUKのシーンが盛り上がっていた感じですけど、例えばコールドプレイが2ndをリリースするってことでプッシュされてて、そこから同系統のトラヴィスもかなり聴いたし、そのあとは新人として出てきたキーンも大好きで。あとはフランツ・フェルディナンドの登場が僕のなかで衝撃でした。2004年かな?マニック・ストリート・プリチャーズのライブに行く途中に友達に「これ聴いた?」と言われて、車の中で聴いたらかっこよくて。そこからまた広がっていくというか、新しいポストパンクみたいなシーンが注目されてたり、CDショップにもずらっと並んでたし、UKのフューチャーヘッズとかマキシモ・パーク、ブロック・パーティーとかの新しい人たちを気に入って。ニューヨークからヤー・ヤー・ヤーズ、ラプチャー、レディオ4、LCDサウンドシステムとか、ムービング・ユニッツ、カナダのホット・ホット・ヒート、その辺も聴いたりしましたね。そこからどんどん古くなってギャング・オブ・フォーとかXTC、トーキング・ヘッズにさかのぼっていった感じです。

──現行のポストパンクみたいなロックを通じて、似た感じの音をどんどんさかのぼっていくんですね。

ヤスイ それが新鮮で、さかのぼるのがもう楽しくて。昔の人のほうがかっこいいじゃん、みたいになってきたり。そしたらその系統の新しいバンドには興味がなくなっちゃって。あ、また似たようなの出てきた、みたいに思ってました。でも2000年代半ばくらいまではその辺をよく聴いてましたね。

──なるほど。例えばここに飾ってあるようなトラッシュ・キャン・シナトラズが好きな人って、昔のネオアコやインディーものが好きで、そこがメインっていうイメージなんですけど、amistには2000年代の有名なCDがわりと多くて、そこが面白いなと思ったんですよ。そういうお店ってなかなかないので。

ヤスイ 僕がいちばんよく聴いてた年代だからですよね。2000年代はやっぱり好きですね。

──若い人の聴きかたみたいなイメージですよね。

ヤスイ 当時はSNSがないからMyspaceっていうものを使っていました。でもやりかたを知らなくて、いまだによくわかってないんだけど、多分みんながお薦めを張り付けるようなイメージだったので、この人をクリックしたら似たような系統のアーティストの音が貼ってあるな、と知って、そこからネオアコだったりパワーポップにもどんどん広がっていくような感じでしたね。

──そこでコミュニケーションはなかったんですか?

ヤスイ なかったですね。でもmixiにはギターポップ好き、みたいなコミュニティがあって、そのなかでお薦めのCDを交換しませんか?という人がいたので、真っ先にそこに連絡をして千葉県の人と送りあいましたね。同じコミュニティだから好きなテイストが似てて、3~4回はやり取りしました。そこで新しいものを知ったりして、楽しかったですね。

画像17

『Forever Doctor Head's World Tower』も
バッジ付きで取り扱い中
熱いPOPが嬉しい!

──ちなみにフジロックにはそのあとも行きました?

ヤスイ 毎年行きましたね。オアシスが出た年まで行きました。2009年かな。3日間行ったときもあったし。お金がね、ちょっときつかったけど。でも楽しいし、観たいものをいっぱい観れたし。

──さっき名前が挙がった人たちもフジロックのラインナップのようなイメージですよね。

ヤスイ 毎年行ってましたけど、やっぱり雨が多くて、行くたんびにもう嫌だ、つらい、みたいな(笑)。トラッシュ・キャン・シナトラズを観たときにすごい豪雨だったことがあったんです。場所はオレンジ・コートだったかな。

──いちばん雨が降るとやばい場所ですね。

ヤスイ 全然お客さんもいなくて。あのときは本当に心が折れて、トラキャンだけ観て帰るとかで。そういうのを何度か繰り返して、オアシスが来るっていうから頑張って行って、そこで終わったという。

──私も昔、フジロックにプライマル・スクリームが出たときに、雨がすごすぎて体も冷えてるし、その場にいるのもつらくて、うしろのほうの木の陰で観てるんだか観てないんだか、みたいなことがありましたね。

ヤスイ あそこは車で行くときにトンネルを超えて雨が降ってると、ああ……ってなります。いっぱい観ましたし、楽しかったですけど。

──フジロックで記憶に残っているベストライブは誰ですか?

ヤスイ やっぱりビョークですかね。2003年かな。僕、ビョークを全然知らなくて。でも友達が「絶対観たほうがいい。」っていうから観てみたら、音が想像したのと違って攻めていて、それがかっこよくてびっくりしちゃった。あとはあの世界観ですよね。

──ゼロ年代のビョークだから完全にエレクトロニックな音ですよね。その日は私も観ました。

ヤスイ 確か雨も降ってたと思うんですけど、それを忘れるくらい引き込まれましたね。あとは2004年のレッドマーキーのアッシュとか、フランツ・フェルディナンドもそうですし、(2006年の)ハイヴスを観たときも嬉しかったし。あとはレッドマーキーが結構好きで、いつもうしろのほうに椅子を出して座ってた記憶がありますね。

──最近は全然行ってないですか?

ヤスイ 行ってないです。今年はつくばロックフェスに行ったんですよ。混雑はしないだろうなっていうのと、過去の出演者を見ると、ホームカミングスみたいな日本の若手のいい感じの人が毎年出ていて、行ってみたくて。あとは茨城だったら行けるんじゃないかな?と。今年はうちの店でちょうど扱っているさとうもかちゃんが出るから、娘と一緒に行きました。

画像12


──初めてのつくばロックフェスはどうでした?

ヤスイ 人はやっぱり少なくて、制限していたみたいなんですけど、でも過去の例を聞いてもそんなに混雑はしないみたいだし、すごくよかったですね。

──お子さんも一緒に音楽を聴いてる感じなんですか?

ヤスイ いや、全然。今の流行りのを聴いてますね。YOASOBIとか。だけどさとうもかちゃんは店に置いてるのもあってちょいちょい聴いてて、あとはTikTokで火がついたっぽいから、それで知ってたので、見に行くって言うから連れて行きました。子供はさすがにフジロックには連れていけないので、つくばロックフェスならいいかと。日本人は勉強中なんですけど。

──最初のフジロック以降はずっと洋楽中心で、日本人はあまり聴いていないですか?

ヤスイ 全然聴いていなかったです。最近は聴いていますけど。

──それは意識的に聴いている感じですか?

ヤスイ そうですね。SNSとか、個人でアカウントを持っているTwitterを使って、そのなかで交流のあるネオアコ好きの人たちがお勧めしている日本人をちょっと聴くようになりました。やっぱり洋楽かっこいい、みたいな気持ちがあって、洋楽は音だけで聴いていたし、日本人は歌詞が入ってきすぎちゃうから苦手なところがあったんですけど、だんだんとなくなっていって。それが解けたきっかけがランドリーズ。ランドリーズの2ndアルバム『Natalie』がリリースされるときにTwitterで知って、日本でこんなにいいバンドがいるんだ、って衝撃を受けて、そこから日本人も聴くようになりましたね。

画像9


──お店でも推してますもんね。

ヤスイ そうなんです。この店を始めるときにもまずランドリーズに、店で置きたいんです、って連絡をして。そしたらボーカルの木村さんが持って来てくれて。ライブでも観たことないのにすいません、みたいな。

──本人がCDを持って来てくれたんですか !?すごい話ですね。

ヤスイ そう。ネオアコが好きになったきっかけはトラキャンだったんですけど、トラキャンみたいな音をずっと探してたところがあって、似たようなイメージのバンドはいろいろいたのに、結局ランドリーズがいちばん近かった。木村さんは「パクリなだけなんですけど。」って言ってましたけどね。でも僕はきっかけがあると一気にそっちにシフトしちゃう。極端なんですよね。

──音楽はずっと好きですか?お子さんが生まれたりしてもわりと聴けている?

ヤスイ そうですね。普段は会社員で外回りの営業が多くて、とにかくずっと車で聴いている感じです。家でじっくりという感じではないんですけど、数だけは聴いてきましたね。


・自分の音楽人生の中で重要な3枚

画像3

・The People EP/The Music
・Franz Ferdinand/Franz Ferdinand
・Natalie/The Laundries


──ではそろそろヤスイさんの人生で重要な3枚を教えてもらえますか?

ヤスイ まずこれ。ザ・ミュージック。あとはフランツ・フェルディナンド。それから、ええと……。

──何度も名前が出てきたトラキャンじゃないんですか?なんだろう。

ヤスイ トラキャンじゃないんですよ。これですね。ランドリーズ。トラキャンを追い求めてはいたけど。

──結局ここに行きついた、と!

ヤスイ やっぱり自分の人生を変えたとしたらこれですね。日本人に対する偏見をなくしてくれたので。単純に、外人かっこいい、みたいなところが関係なくなっちゃった、知らなかっただけっていう。それまでフリッパーズ・ギターとかは普通に聴いてましたけど、あれはもうジャパニーズなのかなんなのかっていうのもあって、ネオアコというジャンルとして聴いてたし、でもこれは完全に日本人にシフトさせてくれた感じかなぁ。

──なるほど。わかりやすい。この3枚の中で1枚選ぶならどれですか?

ヤスイ フランツかな。やっぱり全部好きだけど、これは洋楽のなかでも今でも聴くし、大好きなんですよ。

──フランツのこのアルバムは確かにかっこいいですよね。筋が通っているというか、普遍的な感じも、わかりやすさもあるし。

ヤスイ 衝撃というか、新しいところを見せてくれた感じで。当時はあまりにもプッシュしていたんで飽きるところはあったけど、このアルバムに関しては今聴いても本当にかっこいいなと思って。本当はほかにも好きなものたくさんありますけど、まあこうなりますね。

──そうなるんですよね。正直な感じがします、この3枚。

ヤスイ あとはいろいろ持ってきたんですけど、エクセレント・レコーズのコンピ盤で『Pop Renaissance』。これは洋楽を聴き始めの頃に買って、すごく聴いた。ネオアコとかパワーポップをちょいちょい網羅してて、そこからアーティストを探したり、参考にしてましたね。それと、アフタヌーン・ティーが出してたコンピ盤『Afternoon Tea Music』。これはスタイル・カウンシルとかトラキャンとか自分の知っている曲が入ってたりする中に、ソフトロックとかフレンチポップ、ボサノバも入ってて、その辺りをつないでくれたので、古いものを聴くきっかけにもなったコンピですね。

画像19

画像20


・自分の中で重要なアーティスト3組

──さっきは盤で選んでもらいましたけど、好きなアーティストとなると誰ですか?

ヤスイ まずはオアシスですね。

──オアシス!好きなんですか?

ヤスイ 大好きですね。初めに友達に借りたときは耳なじみがよすぎて、意外とピンとこなかったところがあったんですけど。

──初めといっても2000年代だから、かなり売れているときですよね?

ヤスイ そうです。『Heathen Chemistry』が出た頃に、友達に「このバンドはいつ解散するかわからないんだ」って言われて国立代々木第一体育館に観に行って、そのときはあまり曲を知らなかったんですけど、確かラストにザ・フ―の「My Generation」をやって、それだけはすげえかっこいいな、って思った記憶は残ってた。そのあとに、デビュー当時からリアルタイムで聴いていたその友達が、当時のブラー対オアシスのことやいろんなエピソードを教えてくれたり、テレビでミュージックビデオが流れるのを観たりしてて。『Heathen Chemistry』の中に「Little by Little」というノエル・ギャラガーが歌っている曲があって、そのミュージックビデオが確か2つあるんですけど、1つがライブ映像ですごい盛り上がってて、それを観てちょっとすごいな、と思っていろいろ聴くようになった感じです。そのときのライブのブートをあとで入手して聴いたり。そこからだんだん好きになっていきましたね。

──その後のノエルのソロとか、リアムのビーディ・アイも聴いてました?

ヤスイ 聴きましたよ。まあリアムのソロは行き詰まった感じはしますけど、でもオアシスは好きですね。あんなキャラクターなのにこんな曲を作るの?みたいな。

──確かにオアシスは面白いですよね。

ヤスイ あとはストーン・ローゼズ。僕がいちばんよく聴いていたのは初めに買ったこれなんですよ。ベスト盤の『The Complete Stone Roses』。

──これも2000年代に聴いたということですよね?

ヤスイ そうです。よく知らないでこれを買って、聴いてました。これも初めはピンときていなかったけど、でも「Elephant Stone」みたいなポップな曲は好きで。イアン・ブラウンのソロのCDはなぜか買って気に入ってたり、あとはプライマル・スクリームにマニがいた時代なんで、もう存在しないバンドで伝説化していて、オアシスの2人がローゼズのライブを観に行ってバンド結成を決意したというエピソードを知ったり、古い雑誌をブックオフで買って当時の記事を読んだり、ブートを買って聴いてみたりしました。

──あともう1組は?……あ、やっとここでトラキャンが。いつ出てくるのかと待ってました。

画像4

・Oasis
 ・The Stone Roses
・The Trash Can Sinatras


ヤスイ はい。やっぱりここが僕のネオアコの入り口ですので。友達のCD‐Rに最初に入れてもらったときに、疾走感と、このキラキラした感じがもうなんとも言えなくて。ここから例えばレイザーカッツとかあの辺がいちばん近いな、とか、オーキッズも近いな、とか、トラキャンが基準でネオアコをいろいろ聴いていったらオレンジ・ジュースも好きになって、サラ系やエル系も好きになったりとか、いろんなところに広がっていった感じですね。

──トラキャンはお店でもレコードを4枚並べるくらい大プッシュですもんね。キラキラした曲が好きなんですか?

ヤスイ そうなんですよ。店にもそういうのが多いと思います。恥ずかしいですけど(笑)。ここにトラキャンの7インチ「Ways」があるんですけど、ランドリーズの木村さん経由でオフィシャルサポートのかたから「これ、amistさんに置きませんか?」と声を掛けてもらって、すごく嬉しかったですね。

──好きなものを自分のお店に並べる。それは嬉しいでしょうね。トラキャンが好きな人はamistに来るといいですね。

ヤスイ お客さんでトラキャンのライブがあるといつも行くんです、っていう人も来てくれましたよ。近所の人なんですけど、僕が観たフジのオレンジコートも行ったらしくて。でも、みんなこういうの好きじゃないの?と思いますけどね。こんなにいい曲作ってるのに、って。

──それこそ一般的な認知度はフランツなんかに比べるとないですよね。でも長く活動してますからね。フジロックに誘ってくれた友人とは、今も連絡を取っているんですか?

ヤスイ たまに。ただもう僕の路線が完全にずれてしまったというか、時代をさかのぼっていったので、彼はもっと正当な道を行ってる感じですね。

──このお店には来ました?

ヤスイ いちばん初めに来てくれました。うちの店はうつわが置いてあって主婦層のお客さんが多いんですけど、そのなかで僕がパステルズをかけたいと話したら、「いいじゃんいいじゃん。」と言ってくれて。応援はしてくれてます。彼がこっちの道に引き込んでくれて、僕はどんどん逸れてしまったけど。僕よりも詳しいことも多いですし、いつか彼にセレクトしてもらったコーナーを作りたいです。

──ヤスイさんはラジオなどはあまり聴いていないですか?

ヤスイ 全然聴いていないですね。友達以外の影響というか、これもその友達に教えてもらったんですが、音楽を聴き始めたときにCS放送で『MUSIC ON! TV』の前に『Viewsic』っていうチャンネルだった時期があって、そこで『Our Favourite Shop』っていうUKの番組をやってたんですよ。いろんな動物のパペットが出てきて、UKを軸にしながらその様々な動物パペットが世界のシーンを紹介していくんですよね。ブタが出てきたらマンチェスターを紹介する、サメが出てきたらハードロック?だったかな。ミュージックビデオを流してくれるんですけど、それは録画を取っておいてあって、いまでも観るたびに発見があるんです。当時はわからなかったけどポゴ・ポップスとかアル・スチュワートがかかってたりして、いい番組だったなぁ、と。デンマークのミューが登場したときとか、あとディレイズが紹介されたときも衝撃だったし。だいぶ参考になりましたね。

──雑誌を読んでチェックしたりもしてました?

ヤスイ 『ロッキング・オン』を見ることはあったけど、たまにしか買ってないです。

──熱心に読んで、そこから情報を得ることはない?

ヤスイ ないですね。ほとんどネットです。

──そうか。2000年代だから雑誌の時代じゃないんですよね。

ヤスイ ネットで誰かが紹介しているレビューを見ながら買ったり。本はディスクガイドを買ってよく読みました。仕事中でもカバンに入れていつも持ち歩いてて、ちょっと空いた時間に見て、全部頭の中に叩き込んでやろうと思って。当時はまだサブスクがないので、それを見てどんなだろうって思いながら。

画像5


──こういうディスクガイドで紹介されるものも、今は順番にサブスクで聴けちゃいますよね。昔は聴けないから、想像して厳選してから買ってましたけど。

ヤスイ そうですね。超便利(笑)。当時は聴いてみたい候補のものをメモして、CD屋で探してましたね。

──ひとつのものをじっくり何回も聴くよりは、どんどんいろんなものを入れていきたいタイプですか?

ヤスイ そうですね。今はちょっと止まってますけど。最近はあんまり新しいものを聴けてないというか、そのエネルギーがなくて。昔から個人でブログに記録を残していて、今の店のホームページにもリンクを貼ってあるんですけど、多分いろいろ忘れちゃっているものがあるから、もう1回ちょっと聴き直してみようと思っていて。昔の記事をコピペして、できれば今の感想も書いて、みたいな感じのことをにやっていこうかなと思っているんです。一応そのときの自分が聴いてきた軌跡じゃないですけど、しょぼい感想でも残しながら。

──しょぼい感想は重要なんですよね。あとからはそんなの書けないから。

ヤスイ もともとそのブログも専門用語はあまり使いたくないと思って、ホントに感想からスタートしたから、いいと思ったものだけを載せていく。それをまた見返して、もう一度やってく感じです。

──何か自慢できるエピソードはありますか?

ヤスイ それがね、ないんです。

──さっきのランドリーズの話は自慢できるんじゃないですか?

ヤスイ あー、そうですね。初めましてなのに本人が持って来てくれて。そのときに、ここの近くに川があるからいつかイベントができたらいいね、という話をしました。今はうちの2階に本屋が入っていて、その彼らは別のグループで、いろいろあって今はここにいるんですけど、彼らがこの街を変えよう、とやり始めてくれた人たちで、結局その熱量に僕らが勝手にあとをついてきたみたいな感じなんですよ。その彼らと一緒に何かイベントをできたらいいねって。例えば飲食を出して、音楽の人を呼んで、というような。まあ、いつできるかわからないですけど。


画像12

階段を上ると2階は『つまずく本屋 ホォル』
今年の5月にオープン
静かで心地よい空間



・好きなレコード屋

──ヤスイさんの好きなレコード屋はどこですか?

ヤスイ まず、ほとんど行ったことがないお店になるんですけど、高円寺のディスク・ブルーベリー。ブルーベリーは昔からネオアコを探すときにまずヒットしたレコード屋で、いつも通販をしたりとか。途中で高円寺から千葉に店舗が移った時期があったんですけど、仕事で千葉によく行ってたから、ついでに店舗受け取りにして1回だけそっちにお伺いしたことがあります。品揃え的にネオアコ、シティポップ、ソフトロックもあって、すごく好きです。

──多分ドンピシャですよね、ヤスイさんは。

ヤスイ そう。まず店をやり始めたいと思ったときに思い浮かべたのは、やっぱりブルーベリーさんですね。あとは大阪にあるファストカット・レコーズ。わりとドリームポップとかギターポップ、シューゲイザーあたりが強いですね。そこがリリースしているものが好きで。それからパワーポップ系のディスタイム・レコーズも好きだし。あとはさいたま市のモア・レコーズ。モアレコは自分の店を出す前にいろいろ訊いて、POPの書きかたとかパクリなんですけど(笑)、とにかくパクらせてくれと言って写真をバシバシ撮りまくったし、影響を受けていますね。

──モアレコにはもともと通っていて、こういうイメージにしたいと思っていたんですか?

ヤスイ それまでに行ったのは1回ぐらいしかなかったんですけど、まずホームページがいいなと思ってて、ポストロック系が強い店ですけど、実際に行ってみたらそれ以外のロックも置いてあったり、いろいろアドバイスを貰いましたね。だから店の雰囲気はモアレコさんをイメージしてます。

・店を始めたきっかけ

──そもそもamistを始める経緯はどんな感じだったんですか?

ヤスイ もともと近くに住んでいたんですけど、今はもう平気なんですが、うちの奥さんが病気を繰り返していた時期があって、そのときに僕が、これからは楽しく生きていったほうがいいんじゃないかと提案したんですよ。で、昔うちの奥さんが雑貨屋をやっていたこともあって、またやってみたら?っていうのがまずスタートで、でも初めは本人が乗り気ではなく。っていうときにこの近くにカフェができて、なんでこんなところにカフェができるんだ、とか、なんか川越市が動いてるんじゃないか、といろいろ調べていくうちに、この街を変えようという企画があることに行きついたんです。そのカフェをやっていた彼らに、今うちの2階に入ってもらっている感じです。それプラス、僕が仕事のほうでちょっと面白くなくなってきたところがあって、辞めるつもりはなかったけど求人を探すような出来事があったりして、そういうのが重なったときに、ちょっとやってみようか、という話に向かっていったという。

──じゃあもともとは雑貨屋をやるつもりだったんですか?

ヤスイ 初めはレコード屋をやれば?と言われたんですよ。でもレコードだけじゃ売れないという話をして、いろいろ戦略を練っていく中で、考え始めたら止まらなくなってきた、と。で、事業計画を考えるもんだから、自分が乗ってきちゃって。

──奥さんのためにやろうとしていたことなのに、だんだん自分のやりたいことが出てきちゃった。

ヤスイ そう。面白いし、あとはやっぱり音楽の話は自分の周りでは誰ともできない、昔の友人はいるけれど周りには音楽好きがいない、SNS上の人たちとのやり取りが少しだけ、という状態だったから、どうせやるなら自分が行きたい場所を作る、そこに来てもらうようなコンセプトに変わっていって、じゃあ雑貨とレコードを組み合わせて、そのなかで川越の近くに似たような店がないかをリサーチして、ここにしかない店を作ろう、と思って始めた感じですね。

──そこまではレコ屋をやろうと思ったこともないですか?

ヤスイ まったく。まず、そんなの無理だよっていうところから入るじゃないですか。家賃もかかるし。店舗を始めるときの資金もどうすんのみたいなところがあって。でもそのときに、川越市が商店街を活性化させるために助成金を出す制度があって、それを利用すればできるね、みたいな話になって、お金の問題がクリアになったから、じゃあ何をやろうか、とそこから一気に動いた感じです。


画像16


──手前が雑貨屋で、奥がレコード屋、という造りは初めからのイメージですか?

ヤスイ あんまり考えてなかったですね。でもうちは陶器が多いんですけど、うつわ自体で集客できるっていうのはなんとなく自信があって、まずそこで人を集められるし、レコードが前面に出ると多分そんなに人は来ないでしょうっていうところもあって、メインはあっちですね。レコードはおまけ程度。ただ少しこだわりたい、やっぱり偽物に思われたくないというのがどうしてもあって。なんだかわかんないって思う人もいるかもしれないけど、舐められたくないし。おまけはおまけなんですけどね。

──おまけにしてはいろいろと揃えてますよね。レコードもCDもちゃんと視聴できるスペースがあるのがすごい。

ヤスイ でも売れないとうつわの割合を増やされてしまう(笑)。これが難しくて悩みどころなんですけど、店にはやっぱり女性のかたがいっぱい来られるので、その人たちに向けてる感じのちょっとソフトなものを多くセレクトしてカフェ的な感じにしてるつもりだけど、結局まったく響いていないみたい(笑)。手前のエリアまではお客さん来てるのにな、もっと仕掛けをして引き込みたい、と思いますけど……。

──でもなんとなく手前側のスペースにポップなものというか、ジャケが明るめのものを置いてるような感じはしますよね。色味がきれいなジャケとか。

ヤスイ そうなんですけどね。意外とみんな興味がない。やっぱり洋楽というだけで嫌遠しちゃう人もいるし、買うとしてもやっぱり日本人のほうが多くて。

──しかも日本人でもレコードとなるとハードルが高いですよね。このうつわのスペースとの境目で止まっちゃう感じですか?

ヤスイ そう。あとは一周して帰るとか(笑)。でもさっき来てくれた人たちは普通に音楽を好きで、自分達もいずれレコ屋がやりたいらしくて、うちを参考にしたいと言ってくれて。カフェプラスレコ屋、みたいな店をやりたいと話してました。だからうちを見てこれならできそう、って思ってくれたらすごくいいかなって。好きなものを置いているだけですからね。


・レコード屋としてのこだわり

──ヤスイさんは音楽担当で、基本は土日にここにいて、お客さんが来たら紹介したり話したりするんですか?

ヤスイ うーん。訊かれることもありますし、お薦めも言うんですけど、結構難しいのはジャンルが偏っているところがあるので。こういうのないの?って訊かれたら、まったくないのもあるし。お客さんの要望にはなかなか応えられていないところはありますけど、しょうがない。

──ふらっと来たお客さんが何か見つけて帰ってくれるような空間ですよね。

ヤスイ あとは自分は2000年代は詳しいかもしれないですけど、最近の新しいものはそんなに知らなかったり、80年代はカバーできてなかったりとか、その辺はお客さんでいうとやっぱり自分より年上の人が音楽好きで詳しい人が多いイメージで、逆に教えてもらうことやお薦めを訊くことが多かったり、CDをくれたり。その辺はやっぱり楽しいですね。

──でも平日は普通に働いて、土日はここだと忙しいですよね。大変じゃないかなと思うんですけど。

ヤスイ そうですね。だから全然陳列も終わってなくて。ホントはいろいろ入れ替えたりしたいんですけどね。

──このごちゃごちゃな感じがまたいいんですけどね。


画像13


ヤスイ 詳しい人はごちゃごちゃが楽しいって言うんですけど、まったく知らない人はなんだかわからないから手をつけない感じなんですよ。そこで何か企画して、こういうときにお薦め、みたいなものを作りたいんですよね。ジャンルではあんまり分けたくないんですけど。あとはうつわのほうに少し混ぜてもらって、なるべくこっちに来てもらおうと。だってギターポップなんて耳なじみいいのに、って思うんですけど。

──そう思う人は音楽が好きだし、そう思わない人は何も聴かないっていう、そこの壁もありますからね。

ヤスイ うつわが売れている限りはこっちはそんなにプレッシャーをかけられないので、のんびりやろうかなと。

──お店に置いているものは全部ヤスイさんが好きなものですか?

 ヤスイ レコードは聴けてないものもありますけど、基本的には自分でセレクトしたものを置いてるんで。

──じゃあ大体把握してるんですね。POPを書くのは好きですか?結構しっかり書いてますけど。

ヤスイ そんなことないんですけど、面白いかなと思って。もう1枚1枚全部に書きたいくらいで。そんなところで注目されてもいいし、読んでくれるだけでもいいし、熱意は伝わるかなと。今年の7月に店が1周年だったので、試しに耳なじみのよさそうなものを入れたCD-Rを作って配ったんですよ。みんなどういう反応をしてくれるかなと思って。


画像7


──来てくれたお客さんに配ったんですか?

ヤスイ 希望者だけ。フリーなのでもしよかったら、と言って配ったんですけど、反応はないですねぇ。

──ないですか。残念!

ヤスイ ははは。でもこれを繰り返していけば。基本的にはレコードを買ってくれた人には付けて、そこにどんどん自分色を出していこうかなと。こういうことはいくらでもやれるから。

──ちょっとスペシャル感を出してね。根付くといいですね。お店をはじめて得たものはありますか?

ヤスイ やっぱりお客さんと話せることが嬉しいですね。近所の話したい人が来てくれたりもするんで、そういう場になってくれるといいんですけど。

──レコードを買えるお店としてだけでなく、音楽好きがふらっと立ち寄れる場所ですよね。

ヤスイ そうですね。試聴もできるし、中古CDはいっぱいあるので。レコードも中古だったら自由にプレイしていいんですけど、みんな触ろうとしないですね。女性がよく来るので女性にもレコードプレーヤーを使っていいよという気持ちでいるんですけどね。前回のマキノさんのインタビューにもありましたけど、僕もレコ屋に行くと圧がすごいのも、見てる場所を入れ替わるときの迫ってくる感じもわかるので、もっと女性が音楽に接しやすい雰囲気にしたいというのはあります。特にこういう時期だからうつわと一緒に音楽も家で楽しんでほしい、という提案もしているつもりです。

──お店をやる前とあとで、音楽に対する意識がヤスイさんのなかで変わったことはありますか?例えばお店向けのものを聴いてみようとか。

ヤスイ それはあるかもしれないです。もっと雑食だったんですけど、どちらかというとやり取りするレーベルからお知らせで毎月来るものを優先的に聴くようになってますね。やっぱりオルタナティブなものは今はあんまり聴かなくなって、まずそっちが優先になってます。

──なんでも置いているわけじゃなくて、お店の色があるんですね。

ヤスイ とはいえ自分の意志で新しいものを聴くことは減っていて、今はやっぱり古いほうを求めていますね。個人的にはソフトロック周辺をもっと知りたい、あとは80年代をもう少し聴きたいな、とか。店で訊かれたときにもなかなか答えられなかったりするし。日本人のものも、今は自分から探しに行ってます。洋楽っぽい日本人を置きがちなんですけど、今後はそこをもう少し緩くしていこうかなと思っています。


画像10


──日本人の音楽は置いてあると取っ掛かりになりますよね、きっと。陳列はその都度、変えてるんですか?

ヤスイ たまに。あとは見た目がいいやつを置いたり。でもブックオフとかで安く売っているものも差別しないで、いいものは置くっていう感じでやりたいと思ってます。

──確かにいわゆるレアものを置く、みたいな、音楽好き向けにガチガチに固まってる感じが全然なくて、気軽さはすごくあるんじゃないかと思うんですよね。CDも多いですし。

ヤスイ あんまりハードルを上げたくないので、これ知ってる、ぐらいのものを置きたくて。ただビートルズとかはさすがに置かなくていいかなと思っているんですけど、でもここにオアシスのレコードを置いてたりするのはハードルを下げるために置いてるんですよね。

──CDは結構日本盤のものを置いてて、やっぱりカタカナで書いてあるものがあるとマニアックになり過ぎないし、探すのも楽しいですよね。最終的にお店をこうしたい、というビジョンはありますか?

ヤスイ 陳列に関してはしっかりと区分けをしてもっと見やすくしたいのと、あとは2階が本屋なのでアンビエントやクラシカルなものをもう少し置いて展開していきたいですね。

──それ、いいですね。レコード屋をやっていてヤスイさんがいちばん楽しいことはなんですか?


画像14


ヤスイ 楽しいのは、閉店後にレコードを視聴しながらPOPを書いているとき。その贅沢な時間に俺も一緒にいたい、みたいなことをうちのお客さんによく言われますけど。例えば夜も開けてレコードをかけながらみんなで楽しむ、っていうのも出来たらいいなとは思います。どんなものでもいいから持って来て、かけてもらって、いずれはお酒も出したいと思っているから、こういう状況が明けたら少し夜も店を開けて緩くやる、みたいな。

──近所だったら絶対に行きたいですよ!それ。需要があると思います。知るべき人に知られるといいですね。

ヤスイ うちがもっと有名にならないと。最初にモア・レコーズさんにアドバイスを貰ったときに、お客さんから「こういうのないの?」と訊かれたときに、それはAmazonで買ってくれ、うちはこうだから、という風にやっていくべきだ、ぶれちゃダメ、と言われて。だからギターポップとかネオアコが好きならそれは曲げないでいったほうがいい、そういう店として認識されたほうがいい、と。モアレコさんにショップカードを置いてもらっていて、うちを紹介してもらっているみたいで、それで来てくれたお客さんがいっぱいCDを買ってくれるので、ありがたいですね。品揃えがこうだっていうPRはもっとしていきたいです。

──すごく売れているものでもヤスイさんがいいなと思ったら入れますか?

ヤスイ 入れないです。うちのラインナップとして置きたいかどうかですね。日本人の若手のバンドで置きたいなって思う人なら扱いたい。でもいろいろ声を掛けても返事がなかったりとか。

──じゃあもう諦めるしかない。

ヤスイ そうですね。置いているもので自分で声を掛けたのはさとうもか、ぎがもえか、iyu(イユウ)っていうバンドと、Yank!(ヤンク)、あとはb-flower(ビーフラワー)。ほかはみんな自分で揃えたもの。それからCody・Lee(李)。このコーディリーっていうバンドは日本人で、すごく好きなんですけど返事がなくて。でもこのあいだのつくばロックフェスでも生で観ましたけど、かっこよかったですね。ほかにも自主制作しているバンドに声を掛けて、まだ連絡待ちだったり。

画像15


──そういうのは何で調べるんですか?

ヤスイ Twitterですね。ホリディ・レコーズのTwitterをよく見ていて、そこから辿って試聴して。あとはえんぷていとか、ジョニバンとか。ジョニバンは日本のバンドなんだけど英語で歌っていて、いわゆるポストパンク。聴いたときはラプチャーっぽいなと思いましたけど。でもうちに置いても売れないかな、と躊躇する場合もあります。

──逆に売れるのはなんですか?

ヤスイ レコード・ストア・デイのときはコーディリーがむちゃくちゃ売れました。コーディリーは7インチだけは取り扱っている会社にコンタクトが取れて10枚ぐらい入れたんですけど、速攻でなくなりましたね。あとはビーフラワーの去年に出したアルバムは売れました。僕がでかでかとPOPを書いていたんで、それを見て買って行ってくれたお客さんもいましたね。

──買ってくれた人の面白いエピソードなどはあります?

ヤスイ 近所の人で、多分何歳か年上の人がいて、そのかたは音楽を昔よく聴いてたらしくて、女性のアコースティックなものが聴きたいとお薦めを訊かれたので、キャサリン・ウィリアムズを薦めたらすごく気に入ってくれて、次に来たときはいろいろ試聴してもらったんだけど、山田稔明さんを薦めたらそれも大絶賛してくれて。あんまりポップな曲よりも静かなものがいいと言っていたのに、結構ポップな曲も入っている山田さんを気に入ってくれたから、そうなるとじゃあほかにも……ってなりますね。

──薦め甲斐がありますね。

ヤスイ あとは音楽が好きの常連さんで、テクノとかそっちのほうが好きで、こっちのジャンルは知らない人がいて、そのかたはいつもカフェメニューを頼んでじっくり聴いていってくれるんですけど、5枚くらい選んでどういう気分かを訊いてお薦めをする、っていうのを繰り返していて、すごく楽しんでくれてますね。いつもは「お薦めどれ?」って訊かれても、全部!って感じなんですけど(笑)。

──何が好きかを教えてもらえると薦めやすいですよね。

ヤスイ 前にお薦めを1枚、って訊かれて薦めたのはバリーですね。これは間違いないと。

──バリーの『Happy To Be Here』。いいアルバムですよね。私も大好きです。

ヤスイ でもうちの場合は新規で入れられてないんで、こういうのを次に仕入れるのが大変で、もったいないな……と思ったりもします。ちなみにこれは自分のですけど。

──それこそ一期一会ですよね。

ヤスイ 多分よくないんでしょうけど、インスタに短い音源をつけて出してるんですよ。それを聴いて買いに来たお客さんもいたりとか。でもそういうのが嬉しくて。仕掛けに引っかかった、よっしゃー!みたいな(笑)。それも極力マニアックなものは出したくなくて、定番っぽいものを出したいですね。

──普段は音楽はCDで聴いているんですか?

ヤスイ 普段は車で聴いているのでサブスクだったり、あとはiPodですね。昔のをずっと使ってますね。サブスクにないものはiPodに入れているし。iPhoneにも少し曲が入ってて、そこに入っていないものをiPodに入れて、たっぷり持ち歩いている状態ですね。で、あとで自分で楽しむためにCD-Rに落として、20曲ぐらいにして楽しむのを遊びでやってます。聴きかたが変わると違った印象を受けたりするから。だから友達に作ってもらったCD-Rもずっと聴いてるし、捨てられないんですよ。


・最近のお薦めの音楽

──最近のヤスイさんのお薦めを教えてください。


画像8


ヤスイ 最近というか、いろいろ持ってきたんですけど、まずはスピン。リヴァプールのバンドで、すごくノリがよくてポップなんですよ。あとはヤング・ガブ。これはトロントのベン・クックのソロプロジェクトなんですけど、90年代の懐かしい匂いがする感じの音楽をやっていて、これも大好きでよく聴いています。あとはデイ。これはドリームポップで結構キュンとくる感じの。ビーフラワーのアルバムもすごくよかった。それからローラスというパワーポップのバンド。今でも活動してますけど、この作品がすごく好きで。あとスウェーデンのアルパカ・スポーツもむちゃくちゃよかったですね。あとは……きりがないんだよなぁ。

──お店に来ればわかるってことですよね。お店はまだまだ続けられそうですか?

ヤスイ いやあ、どうかなぁ。初めは1年持てばいいと思っていて、次はまた1年、って感じですね。この街が蘇るまでというか、新しく何かを始めたい若い人たちがこの街に集まってきて、いろいろ変わっていくまでは続けたいなと思ってますね。それが5年後なのかどうなのか、そのときにはここがなくなってるかもしれない。

──だんだんレコードのコーナーが狭くなっていったり。それか反対に広くなっていくとか。

ヤスイ いや、それはない……。売れないのは売れないし、やっぱりサブスクがあるので。ただ自分もデジタルで聴いてきたけど、それだと思い入れがなくなってきちゃって。実はCDを1回処分したことがあったんです。確か5~6年前かな。でもCDをセットして聴きたいとまた思うようになって、そこから買い直しを始めたので。ってことは自分みたいにそう思っている人がいるんじゃないかなと思って。やっぱり便利になり過ぎちゃうと、不便だったことが楽しかった、みたいなところもあるし、物足りなさを感じて。だからいいものであれば売れるんじゃないかと思うんですよね。レコードはブームもあるし、ジャケットも飾りたいというのはありますけど、CDでもしっかりセレクトすれば売れるんじゃないか、なくなることはないんじゃないかと思っています。

──私もそう思います。みんなが買う時代ではないけど、欲しい人は買って、今の状態でも残り続けているから、まったくなくなることはないんじゃないかと。

ヤスイ 若い子はうちのお薦めを見て調べて買わないっていう人もいるし、それはそれでよくて、でも若くても買う人はやっぱり買うんですよね。

──ヤスイさん的にはレコードとCDはどっちに力を入れてますか?

ヤスイ CDですね。レコードのほうが求められてる感じがして、探してくる人も多いです。ただそれはレコード好きの人なんで、うちに普段来ている近所のお客さんはレコードを持っている人が少ないんですね。サブスクもやっていなくて、CDなら聴けるっていう人が多いので。

──音楽好きじゃない人を音楽好きにしてみたいということですね。

ヤスイ そうですね。うつわを見ている人を振り向かせるのがまず狙いなんで。今かかっている曲が気になる、そういう風に思ってほしい。この空間でちゃんと音楽もいいなって思ってくれれば。無理矢理じゃなくて自然に、ですね。



2021年 9月某日
場所 雑貨と音楽 amist

写真提供 amist

画像1


雑貨と音楽 amist


埼玉県川越市霞ヶ関北4-22-14

東武東上線『霞ヶ関』駅下車 徒歩13分

Instagramはこちらから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?