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[Lisztomania!] Case4: 内面を磨いてくれる音楽の話


各地に生息する音楽好きの方々にそれぞれの音楽遍歴や音楽にまつわるあれこれについて
お話を伺う連載企画です。

店内写真

 Rodentia Collective(ロデンシア・コレクティヴ)は東京都北区・王子にある小さなレコードショップ。取り扱っている商品は新品のみ。2017年にオンラインショップをスタートさせ、2020年の10月から不定期で実店舗をオープンしていたが、2021年7月現在はオンラインのみで営業している。サイトを覗くたびに、美しく整列されたレコードのラインナップや、添えられた言葉の端々に、店主のマキノさんの音楽に対する深い愛を感じて、いつかお話をしてみたいと密かにずっと思っていた。

 そんなマキノさんは私にZOOMでのインタビューを提案してくれた。"人に会いに行く"をコンセプトに企画を始めた私にはなかった発想で、おかげで新たなスキルを身につけたような気がする。初めて喋った気がしないくらい、テキパキとテンポよく答えてくれて、お店で取り扱っている商品を通じてイメージしていたように、芯の強い女性だと感じた。

 インタビューの途中でマキノさんは「発見したものとか、もっと聴いてもらいたいなと思う音楽を自分の中に置いておくのはもったいないと思って。」と話していた。私もその言葉に心から同意すると同時に、音楽に関わるすべてのものに対してそう願う気持ちがこの日を境により一層高まった。


~Case 4 : Rodentia Collective マキノさんの話


──マキノさんが音楽を聴き始めたのはどれぐらいの頃ですか?

マキノ 意識して聴いたのはそれこそ中学生とかなんですけど、でもやっぱり小学生の頃から結構テレビで音楽番組を観て、って感じでしたね。

──その時はどんな音楽番組がやってました?

マキノ 『うたばん』とか『HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP』とか。多分それが小学生かな。特に音楽好きって感じではなかったんですけど、ヤマハ音楽教室でエレクトーンをやってたんですね。幼児科コースっていうのがあって、そこで幼稚園ぐらいからエレクトーンを弾いていたんです。だから親がビートルズを聴いてるとか、音楽の義務教育みたいのは全然受けてないんですけど。

──いわゆる典型的な音楽の義務教育、ですよね。

マキノ はい。そういうのはないです。エレクトーンなのでクラシックとはまた全然違うんですけど、5~6人でエレクトーンに向かって鍵盤を弾く、みたいなのを幼稚園から高校生くらいまで続けていました。エレクトーンをやってるのと、今まで自分が聴いてた音楽はあんまり結びつかなかったかもしれないですけど、でも小さい時から音楽が身近にあったのかなあと。

──じゃあ小学生の時はテレビを観ながらいいなって思う程度で。その時はCDですか?

マキノ CDです。浜崎あゆみとか、そういうのを親が買ってきて、車の中で聴いてたりする感じで。

──流行ってるから聴くみたいな?

マキノ そうです。中学生くらいになるとポータブルのCDプレーヤーを買ってもらって、自分で聴きたいのを聴いてましたね。

──初めて買ったCDは覚えてます?

マキノ えー、なんだろう?覚えてないです。中学、高校の頃って部活動をやっていたので、特に音楽を聴きまくったとか、バンドをやっていたとか、そういうのじゃないんですけど、持ってる音楽機器は常に最新のものだったんですよね。中学生の時はCDプレーヤーで、高校生になるとMDになって。あんまりお金がなかったので、近くにあったブックオフのレンタル落ちの商品のを100円とか300円とかで買ったり。当時は借りるほうが多かったですね。

──じゃあ特に目当てのものがあるわけではなくて、プレーヤーを持ってるから、何かいろんなものを借りてみようかな、みたいな感じですか?

マキノ そうですね。中学生になると、多分テレビからの影響だと思うんですけど、その時に流行ってたアヴリル・ラヴィーンとかの洋楽ヒットチャートの曲を聴くようになって。今聴いてるインディーロックとかそういうものよりは、メインストリームのものをいっぱい聴いてました。

──なんとなくいろいろ聴いてる時と、音楽好きになる境目みたいなのっていつ頃でした?

マキノ 高校生になると結構周りにバンド好きの子が増えてきて、でも普段やってることは部活動なので、ライブに行くとかそういうのはないんですけど、いろんな音楽を知ってる友達がちょっとずつ増えてきて、CDを交換したり、MDで自分の好きなマイベストを作って渡したり……。

──はいはい、その文化ですね!

マキノ やってましたね。で、高校生になった時から、メジャーなものっていうより、あんまり周りの人が好きじゃないものを聴くようになったんです。タワーレコードのフリーペーパーの、うしろに載ってるレビューを読んで聴いたりとか。

──周りの友達はどんな音楽を聴いてました?

マキノ バンドだとB-DASHとか。でもあんまり熱心に聴いてるわけでもなかったですね。今ほどSNSもなくて、高校生の時はmixiの時代だったんですよ。

──mixiをやってました?

マキノ やってました!でもそこでめちゃくちゃ音楽の話をするっていうのはなくて、熱心になり始めたのは大学生になってからで、もっと洋楽を知ってる人が周りに出てきてからです。その頃ってみんなYouTubeとかを観るようになった時期で。BandcampとかFacebookとか、とにかくSNSでわーっと観始められるようになった頃です。

──その時期なんですね。じゃあ部活動も終わって、いろいろと聴いてみる時間ができて。

マキノ そうですね。小さい頃からいろいろ聴いてきたというよりは、大学生になっていろんな音楽を自由に聴けるようになった時に、もっといろんな方向に視点が向いたというか。そこからタワーレコードとかディスクユニオン以外のレコード屋に行くようになったので。そういう店に行き始めるとと、今まで聴いてたものと違って、わ、こんなのあるんだ!って驚くじゃないですか。それまでとは全然、桁が違うくらいいろんなジャンルを聴いていましたね。

──その頃のお住まいはどちらだったんですか?

マキノ 神奈川県です。地元にもタワレコとかユニオンはあったんですけど、やっぱり新宿や渋谷とは置いてあるものがだいぶ違うので。大学生になって都内のレコード屋に行くようになって、幅が広がった感じですね。

──マキノさんはあまり人に影響されずに自分で突き進んで調べるタイプですか?

マキノ あ、そうですね。自分で調べまくって、いかにみんなが知らないものをゲットするかみたいな。昔からそうでした。

──他のものに対してもそういう性格ですか?

マキノ いや、他のものに対しては特にないです。コーヒーとか、自分が好きなもので周りと違うものを試してみたいのはありますけど、音楽以外のもので何かを見つけてやろう、とはあんまり思わないですね。

──わざわざレコード屋に行って知らないものを探したりするタイプの女の人は周りにいました?

マキノ 全然。私だけでした。特に中学や高校で一緒に遊んでた地元の女友達には、レコード屋に行く人はいなかったですね。だから1人で。

──そうすると暗くなりそうですね。

マキノ めちゃくちゃ暗くなりましたね。

──そうなりますよねー。自分の世界に入っちゃうし、どんどん周りと心の距離も離れていくっていう。

マキノ 大学4年生の時に就職活動をして、卒業して普通の一般企業に就職したんですけど、失敗して病んじゃったんですよ。その時に心の支えみたいな感じで、今まで聴いてた音楽をわーって聴き直したりして。で、やっぱりその時だけじゃなくて、中学や高校の頃でも、挫折したり気分が落ちたりした時って、なんか音楽を聴いてたなってイメージがあって。だから全然マイナーじゃなくても、メインストリームの音楽でも勇気づけられたっていうか、そういう記憶が自分にとって強いんですよね。だからすごく音楽に対して勝手な使命感みたいなものがあって、これだけはずっと好きでいなきゃいけないんだよなあ、みたいな気持ちはあります。なんでかは知らないんですけど。

──そこで例えばライブに行ったりとか、外の人と交流を持つような場所に行ったりはしなかったですか?

マキノ 高校生の時に1回だけ地元のライブハウスに友達のライブを観に行きましたけど、大学生の時は好きなものを1人で観に行くことのほうが多かったですね。でもそこで知り合うとか人脈を広げることはあんまり……。そんなにコミュ力が高いほうではないので。無理矢理友達を連れてったりはしてましたけど、誰かが一緒じゃないと、というのも特になかったので。

──その時期ってもうフェス文化みたいなものが出てきてますよね?

マキノ 当時は大きいフェスにあんまり興味がなくて。結構インドア派なので。大きいステージで観るよりは、小さいライブハウスで全然有名じゃない人のライブを観ることのほうが好きです。多分ひねくれてるんだと思うんですけど。こぢんまりとした雰囲気のほうが好きだったんで、その時はフェスの良さはわかってなかったですね。

──なるほど。でも時代的にはそういうのが盛り上がってくる頃ですよね。そこの対比でまた、世の中との距離が開いてくるのかな、と。ではそろそろ、マキノさんの音楽人生の中で重要な3枚を教えてください。


⚫︎自分の音楽人生の中で重要な3枚

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・Let Go / Avril Lavigne


マキノ はい。さっき中学生の時にアヴリル・ラヴィーンを聴いていたと話したと思うんですけど、『Let Go』というアルバムです。2002年発売かな。その時は特に女の人が音楽をやってるからとはそんなに意識をしていなくて、流行ってるから聴くとか、近くのレンタル屋のヒットチャートにいるから聴いてみる感じだったんですけど、改めて名盤だなって思います。アヴリル・ラヴィーンだとこの作品を挙げる人が多いですね。今でもたまに、懐かしいって思いながら聴きます。

──自分の身に染みついているような感じですかね。何回も繰り返して聴くタイプですか?

マキノ もうめちゃくちゃ聴きますね。何十回も。寝る時にイヤホンで聴いたり。好きになるとずっと同じのを聴いてました。

──アヴリル・ラヴィーンって元気なイメージがあったんですけど、寝る前にも聴くなら相当好きなのかなって思いました。

マキノ でも結構、静かで暗い曲もあるんですよ。あとはミスター・チルドレンの『B-Side』という編集盤です。ミスチルはここ5~6年のものはあんまり聴いてないんですけど、昔から聴いていましたね。この『B-Side』は高校生ぐらいの時に聴いてたのかな。カップリング曲の編集盤なんで、テレビで歌うようなヒット曲は入っていなくて、結構マニアックっていうか……。


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・B-Side / Mr.Children 


──そういうほうが好き。

マキノ そうですね。この話をしても周りの人たちは知らないし、わかってくれる人も全然いなくて、自分の中でずっと育てていった感じで。

──ミスチルもやっぱりすごく売れているので、マキノさんのお店のイメージとはだいぶ違うんですけど、その編集盤はどういうところがよかったんですか?

マキノ ミスチルのイメージって、とにかく売れてる、ドラマの主題歌でみんな知ってるし、国民的なバンドじゃないですか。そういうバンドのあまり知られていないカップリング曲っていうところに惹かれてましたね。覚えてるんですけど、近くのレンタル屋にミスチルのコーナーがあって、今までのアルバムがずらっと並んでいたんです。で、端のほうに『B-Side』があったので、なんだろう?って思って聴いてみたら、自分が小さい頃に発売されたものとか全然知らない曲ばっかりで。ミスチルの歌詞も嫌いじゃないし、ヒットしてる曲でいいものもあると思うんですけど、この編集盤に入ってる曲は結構不思議な感じとか、危うい歌詞、ダークな感じのものもあって、あ、こんな面もあったんだな、と思いましたね。みんながミスチルの1位に選ばない曲ばっかり入ってるんで。

──ミスチルが本当に好きな人はそっちに行く感じですか?

マキノ どうなんですかね。

──そうか。ファン特有の、全部好きだから敢えて誰も知らない曲を推す、でもなくて、元々そこから入ってるわけだから、ちょっと違いますよね。

マキノ そうですね。ミスチルのヒット曲って明るくて、なんかこう、アイラブユーな感じのイメージがありますけど、全然ヒットしないだろうって曲のほうが好きです。変ですよね。

──ははは。 面白いです。性格が出ますね。これは関係ない話なんですけど、私の昔の知り合いで、ミスチルの桜井さんが大好きで追っかけすぎて人生が狂った人がいたので、聴くのが怖い!と勝手に思っていたんですよ。ミスチルには人生を変えてしまうぐらいの魔力があるんじゃないかと思って。

マキノ わーすごい。でも、いい言いかたではないかもしれないんですが、神様! みたいに思っちゃう人っているじゃないですか。別にそれが悪いとは思わないんですけど、自分的にはどんなアーティストも、神だ!とまでは思わなくて、一歩引いて見ているところはあるかもしれない。ミスチルに対しても死ぬほど好きだとか、そういう感じはないんで。

──やっぱり音楽が好きで、人に対してそれほど入れ込むわけではないと。

マキノ そうですね。でもある意味、冷めて見ちゃう分、逆にそういう人が羨ましいとも思いますけどね。

──ちょっと夢中になりたい気持ちはどこかにあるんですね、きっと。でもそうはならないのが面白いですね。


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・Fearless / Taylor Swift


マキノ もう1枚はテイラー・スウィフトの『Fearless』というアルバムで、調べたらこれも2008年だったんですよ。今聴いてるものと昔聴いてたものは本当に全然違って、自分の人生で重要なものって何だろう?って考えた時に、中学生や高校生の時の記憶って今でも結構残ってるんですよね。その時はまだそこまで音楽を自分で探していなかったんですけど、このアルバムはカントリー志向の時でよく聴いてましたね。テイラー・スウィフトは途中まではCDが出るたびに聴いていて、それからどんどんポップ路線に変わっていったので……聴かなくなっちゃいました。

──でも最初のほうに聴いてたものはちゃんと心に残っているというか。

マキノ そうですね。『1989』は聴きましたけど、まあポップになったね、みたいな感じで。でも最近また2020年辺りからのものを聴き直していたら、この『Fearless』の再録盤を今年の春にリリースしていたので、やっぱり自分が昔よく聴いていたアルバムを2021年に出されると感慨深いなって思いましたね。

──時を経て改めて聴き直すとわかるものもありますよね。今のお話を訊いて思ったんですけど、マキノさんみたいにマイナーな音楽を好んでる人って、最初はわりとメジャーな音楽をちゃんと通ってることが多いんですよね。

マキノ そうなんですか !?

──ずっとマイナーなものだけを追いかけてる人って意外と少なくて、メジャーものを知ったうえで、そこから自分の好きな方向を見つけてどんどん突き進んでいく人が多くて、だから説得力があるというか、今その3枚を聞いてすごく腑に落ちました。しかも時代の傾向がわかって、私の世代とはやっぱりピークがずれているところがすごく面白いです。

マキノ 最初にこのインタビューのお話を頂いた時に、自分の生い立ちじゃないですけど、あれを聴いて、これを聴いて、と思い出してみたんですよ。それがすごくいい経験で、すごく楽しくて。私の場合だと、歌番組を観てからはCDプレーヤーがあって、MDプレーヤーがあって、YouTubeが出てきてとか、時代の流れに自分が影響されていたり、形成されているのがすごく面白いなと思いました。

──確かに。どれを挙げてくるかも楽しみなんですよね。音楽好きの人に訊いてるからやっぱり母数は多いじゃないですか。あんなに聴いたうえでそれを選ぶんだ !? とか、いつも答えを聞く時はわくわくしてます。では、好きなアーティストや重要なアーティストになると、さっきの3枚とは変わりますか?

マキノ 変わりますね。重要なアーティストになると今やってるお店側の傾向に寄りますけど、さっきの重要な3枚はどっちかというと自分を作ってきたものというか。その時は意識してなかったですけど、アヴリル・ラヴィーンは女性アーティストで、ミスチルだったらマイナーなものが好きなところとか、テイラー・スウィフトはカントリーとかシンガーソングライターという面では今のお店で扱っているものに少し近いかなと思っています。

──なるほど。じゃあ重要なアーティストだと誰が出てきますか?


⚫︎ 自分の中で重要なアーティスト3組

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Natalie Evans


マキノ 1人はイギリスのシンガーソングライターのナタリー・エヴァンスです。ナタリーに関してはうちのお店でリリースをしたんですね。元々はディストロを始めた時に、みんなが知らないものや日本にまだ入ってきてないものを探していて、Bandcampで"シンガーソングライター"のタグから検索して見つけたんです。で、ナタリーはデモの曲をBandcampに幾つか上げていたのがすごくよくて、このアーティストはどんな活動をしているんだろう?って調べてみたら、日本の〈Friend of Mine〉というレーベルで取り扱っているレコードに参加していいて。それから〈Friend of Mine〉のレーベル主催である佐藤さんにコンタクトをとって協力してもらい、カセットテープのリリースが実現しました。

──ナタリー・エヴァンスはマキノさんが推してるのをいつも見ていて、すごく好きなんだろうなと思っていたので、名前が出てくるかな?と予想していました。

マキノ ほんとですか?あとはフィービー・ブリジャーズ。これは個人的にも好きなのと、インディーフォークのシーン的にも重要だなと思った節があって。レコードが売れてるのもあるし、メディアにもいろいろと出ていたり、ジェンダーの問題で発言したりとか、アーティストとしても、音も歌詞も、全部ひっくるめて自分の中で重要で、多分これからも重要になってくると思います。


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Phoebe Bridgers



──私はフィービーのサポート・ギタリストのクリスチャン・リー・ハットソンがすごく好きで、そこから入ってグッときたんです。フィービーを最初に見た時のイメージで、既に人気があったから何となくスルーしてたんですけど、やっぱりちゃんと聴いたほうがいいなと思いました。

マキノ わかります。私も同じで、みんなフィービー・ブリジャーズはいいって言ってるし、聴かなくてもいいかなとちょっと思ってたんですよ。でもお店にレコードを入れるタイミングで聴いてみたら、あ、めちゃくちゃいいじゃん!と思って、すごく聴いてます。レコードを出したあとにYouTubeでライブセッションを上げていたのをチェックして、やっぱり私も聴かなきゃ駄目だなって。レコードの完成度だけが人気なんじゃないんだなっていうことがわかりました。

──じゃあ、あと1人は誰でしょう?

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Gia Margaret


マキノ 最後はジア・マーガレットっていう〈Orindal Records〉のアーティストです。フォークとアンビエントが絶妙な感じで、うちのお店でもお客さんにすごく人気です。初めて聴いた作品はギター主体の歌ものみたいな感じで、まずそこでいいなと思ったんですけど、2作目に出したアンビエントっぽい作品もさらによかったので。

──なかなかああいうタイプの人っていないですよね。私は最初に聴いた時はよくわからなくて、でもなんとなく気になってて、しかもマキノさんがずっと押してるじゃないですか。で、実は今日、マキノさんにインタビューをする前にフェイ・ウェブスターとジア・マーガレットを聴いて、準備完璧! と思ってました。

マキノ ははは。すごーい。

──そうなのかなとは思ってたんですけど、やっぱり女性のシンガーソングライターが特に好きですか?

マキノ そうですね。好きっていう気持ちと、サポートしたいという気持ちの両方あって。だからといって男性アーティストをまったく聴かないということはないんです、私。両方聴くんですけど、でもやっぱり、私自身が女性というのもあって、音楽業界でもっともっと女性アーティストが出てほしいなって。今の段階でも、最近女性アーティストすごいよね、って言う人達もいますけど、全然まだまだだし、やっと最近出てきたなと思うんですよ。ロデンシア・コレクティヴで扱っているものは特に女性アーティストが多いんですけど、例えばその年の他のランキングを見ても、女の人が占めているかというと違うじゃないですか。だから積極的にサポートしていきたい気持ちは強いですね。

──こういう呼びかたはあんまり好きではないんですが、いわゆるガールズバンドというか、女性だけのバンドもたくさんいますけど、女性1人で活動しているシンガーソングライターのほうに気持ちが寄りますか。

マキノ 確かに。全然意識はしてなかったんですけど、言われてみると女の人だけでやっているバンドというよりは、1人で全部やって完結しているアーティストのほうが格段に多いですよね。自分で音楽を探す時も、シンガーソングライターや宅録をやっている人で探すことが多くて、もちろんいろんな人の協力はあると思いますけど、ベッドルームで完結するもの、ある種、完成しきっていない感じが好きなんですよね。でも例えばなんですけど、グライムスっているじゃないですか。彼女が最初に出てきた時って、多分詳しい誰かが側にいれば家でもできる音楽だったと思うんですよ。でも今はすごくお金を掛けて作られてる音楽をやっていますよね。グライムスも最初の作品はよく聴いていてすごく好きなので、有名になって壮大な感じのものを作るのは全然悪いとは思わないんですけど、私がいつも見てる方向って、一番最初の、デモから作ってみたような音楽なんですよね。だからアーティスト自身がそう話しているのを聞くと、1人で作ったんだ、もっと知ってほしいな、と思って仕入れることが多いです。

──グライムスは私が最初に見た時はもう今のような、仰るとおりお金が掛かっている頃で、エネルギーがすごいなと思って敬遠してたんですけど、何かの拍子に聴いたのが多分その初期の頃の曲で、すごくいい! と思って。原形はこれだったのが音楽はこうやってどんどん膨らんでいくんだな、と。最初の頃のその人の素の状態に近いというか、何も味付けされていない感じ、やっぱりそっちにグッときますよね。

マキノ わかります。グライムスにしてもさっきのテイラー・スウィフトにしても同じだと思うんですけど、小さい規模で活動していたアーティストが売れるってことはそれなりの影響もあるし、どんどん大きいレーベルに行けばプロモーションも派手になるし、そこはアーティストが生き残っていくためだから、嫌いになったりはしませんけど、見守る感じにはなりますね。グライムスに関してはイーロン・マスクと結婚したじゃないですか?ああ、すごいなって。それでも初期の作品は自分の中で大切にしていきたいなって思いますね。

──お金を掛けて派手になっていけば、今まで知らなかったたくさんの人に届くから、間口が広がるというか、そこから遡って初期の味付けされていないものに辿り着く人もいるかもしれないし、有名になるって多分そういうことですよね。だから初期のほうが好きな人は離れて見守る、みたいな。

マキノ ちょっと寂しいなあとか思いながら。

──でもそうするとやっぱり、ずっと変わらずシンプルなことを続けている人のよさがまたわかりますよね。マキノさんはそっちを応援したいんだろうなと思いました。音楽の聴きかたで影響を受けた人はいますか?

マキノ 全然いなくて、自己流です。まだSNSが発達してなかった頃は、レコ屋のフリーペーパーやフライヤーを適当に持って帰って、出演者を見て知らないものは調べてみたり、海外と繋がるSNSができてからは、Facebook、Bandcampとか、いろんなホームページを見るような探しかたをしましたね。

──知り合いじゃなくても、例えば一方的に名前を知っていて、この人が勧めているなら聴いてみよう、みたいな人は?

マキノ いないですね。レコ屋の店内で紹介されてるポップやレビューは小さい字でもちゃんと読んでましたし、そこから聴くのはありましたけど……。

──じゃあもう自分の判断で。言いかた悪いですけど、頑固っていうか。

マキノ ああー。頑固かもしれない。

──人から吸収するよりは、自分の世界を掘り下げるのが好きなんでしょうね。

マキノ でも駄目ですよね、人には勧めるくせに人の意見を聞かないって。

──ははは。でも結局誰かがどこかで勧めてたものを自分でチョイスして吸収してるから、どこかで誰かの力を借りてるんですよね。まったく信用していないわけではない。でもよくわかります。これから訊きたい話にも繋がっていて、そりゃレコード屋をやるよね、と思いました。ラジオは何か聴いてました?

マキノ 自分からは聴いてないですけど、小さい頃に車移動が多かったので、FMヨコハマとかラジオから流れてくるヒットチャートはよく聴いてました。でも音楽番組を探して聴いたり、そこからディグるわけではなかったですね。

⚫︎ 好きなレコード屋

──レコード屋さんに訊くのもなんですけど、好きなレコード屋はありますか?

マキノ 2つあって、両方とも東京じゃなくて、しかもここは1度しか行ったことがないんですけど、1つめは長野県の松本市にある〈Marking Records〉っていうところです。TwitterやInstagramで知っていて、ずっと行きたかったんですけど、なかなか長野県に行く機会がなくて、でも絶対に行かなきゃって思って、そのために行ってきました。

──そのために! 小さいお店なんですか?

マキノ そうですね。うちの店よりは大きいと思うんですけど、扱っているのはインディーロックとか、ポストパンクっぽいのもあったかな? オーナーが女性で、お店がすごく可愛くて、友達の家に遊びに行ったような雰囲気で、お勧めです。今はコロナで行きたくてもなかなか行けないんですけど、チョイスもすごく好きですね。

──今ホームページを見てみました。なるほど、いい感じですね。もう1つは?

マキノ 愛知県名古屋市の〈FILE-UNDER〉というレコード屋です。名古屋は私の中ではレコ屋がいっぱいあるイメージで、うちの店で買ってくれるお客さんも名古屋の人が多くて、なんか常に燃えてるというか、貪欲なかたが多いなって思うんです。オーナーが山田さんというかたで、すごく柔らかい感じで、いつもお客さんと話していることが多くて。はたから見ていても、お客さんと同じ目線というか。お客さんからめちゃくちゃ信頼されているんだろうなっていうマニアックな会話をしているんですよ。それってレコ屋のオーナーとして、とてもすごいことだと思います。〈Marking Records〉も〈FILE-UNDER〉も遠いのでそんなには行けないんですけど、セレクトしている音楽も好きです。

──レコード屋も、ここに行ってみなよ、と誰かに紹介されたわけではなくて、自分で調べて行くんですか?

マキノ はい。東京以外のレコ屋って何があるんだろうって、自分で調べました。ちょっと旅行に行く時も、近くにレコ屋があるかなって探して、中古屋でも行ってみます。

──とりあえずその土地の主要なレコード屋に行ってみると。楽しそう。お店の貴重なレコード袋を貰うのも嬉しいですよね。なかなか行けない場所だと気持ちもアガるし、扱っているものが関東とは違ったりするのもいいですよね。

マキノ そうですね。東京でもタワーレコード、ディスクユニオン、HMVとか、レコ屋があれば何でも行って、レコファンみたいなすごく大きいところでレコードを探すのもハマってました。


店内写真(1)


⚫︎ レコードショップをはじめた経緯

──今のお店を始めたきっかけを訊いてもいいですか?さっきの話だと、就職をして病んでしまった時に音楽を聴いてっていう、その流れですか?

マキノ 元々は一般企業に入るより、タワレコやユニオンに就職したいと思ってたんですよね。でもレコード屋に就職って結構難しくて、最初はアルバイトになっちゃうので、とりあえず社会に出ようと思って就職をしたんですけど駄目になって、辞めた時にじゃあ何をしようって考えて、タワレコでアルバイトを始めたんです。そこで2~3年くらいアルバイトをしたあとに、やっぱりもっとマニアックなほうに行きたいと思って、次にユニオンで働き始めたんですよ。

──へえー! そこを渡ってるんですね。

マキノ 渡って行きました。でもどっちがというわけじゃないんですけど、結構体力仕事が多くて、終電で帰ることや家でやらなきゃいけない仕事も多いし、体力的に削られていっちゃって。好きだからやっていた分、辞められないなと思ったんですけど、結果的には体調を崩して辞めたんですよ。でも就職したところを辞めてまで好きな音楽業界に入ったのにまた辞めるのもな……と思ってはいたんですけど、途中から自分でやっちゃえばいいんじゃない?って思い始めて。で、いつか辞めたらやろうかなぐらいの気持ちで働いてたら、そのうちに音楽業界とか流通のこととか勉強したいなと思って、普通のアルバイトの仕事以上に、お金のこととか、販売に関することを調べたり教わったりしてる中で、あ、これ自分でもできるかもしれないって感じたんです。それから体調を崩したタイミングで辞めて、その直後はやっぱり全然元気がなかったんですけど、今の主人と付き合っている時に「自分が好きなものがあるならウェブサイトからでもいいからやってみたら?」と言われて、私はホームページを作るのは全然できなかったので、教えてもらいながら今のウェブサイトを作ったのがきっかけです。なので無職になったから始めた、みたいなところはあるんです。

──なるほど。計画的にというよりは流れで始めて、結果的にはそれが順調に形になったということは、それがマキノさんに合ってたんでしょうね、きっと。

マキノ うーん。やっぱり……企業で誰かと一緒に働くのは、自分には難しいのかなって思って。ストレス耐性が低いというか、メンタル的に落ちることが多かったので、だったら自分でやったほうがいいんじゃないかとはすごく思ってて。タワレコやユニオンにいた時に聴いてた音楽の量ってめちゃくちゃ膨大なんですよ。昔に聴いてた量とは比にならないくらい毎日聴いて、勉強って言うのも変なんですけど、いろんなジャンルを聴いて学べるところはたくさん学んで、いつか自分でやるんだったら勉強しなきゃって思ってました。

──へえー。そこで挫折してもやりたいことはちゃんとやるっていうか、もう自分は音楽は趣味で聴いてるだけでいいや、とはならずに自分で始めるっていう発想にエネルギーが向くんだなって。すごいと思います。

マキノ 体調を崩して駄目だった時にも、別に誰に見せるわけでもなく、ノートにレビューを書きまくってたんですよ。やっぱり音楽を聴いて、その気持ちを自分の中だけにとどめておくのが嫌だったんですね。なんで音楽業界にいたかって言うと、自分がいいと思ったものを1人でも多くの人に聴いてもらいたいからで、その近道が関東で有名なレコード屋に入ればより多くの人に届くと思ったからタワレコやユニオンに入ったんです。でもその気持ちを世に出す場所がなくなって、まあ共感だけがすべてじゃないし、自分の中に閉まっておきたい音楽もあるけど、発見したものとか、もっと聴いてもらいたいなと思う音楽を自分の中に置いておくのはもったいないと思って。なので、仕事をしていない時はとにかく書きかたとか、表現の仕方とかを忘れないように自分でメモしてました。


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──お店のZINEをさっき読み返していて、形としてはレコード屋ですけど、いろんな形で薦めたりすることが好きなんだろうと思ったんです。で、前にラジオもやっていたじゃないですか。あれはもう今はやっていないんですか?

マキノ あー。いや全然、やろうと思えばできるんですけど、編集や準備が大変で……。でも「やらないんですか?」と言ってくれる人も多くて、そろそろやらないとな、と思ってます。

──マキノさんは喋りも上手いし、あれってすごく効果的だと思うんですよ。前のラジオ( Rodentia Collective Radio vol.2 )でステラ・ドネリーについていろいろと説明しながら、あまりポップじゃない曲をかけたじゃないですか。そこで私は、ステラ・ドネリーってこういう側面もあるんだ !? と驚いて。やっぱり自分でなんとなく勝手にイメージをつけてフィルターをかけてしまうから、ただ聴くだけじゃなくて誰かにひと言でも説明してもらってから聴くのは本当に大事だなと思ったんです。価値観も変わるし。

マキノ 確かに。

──その他にフェイ・ウェブスターの「Kingston」を最後にかけた回( Rodentia Collective Radio vol.3 )もよかったんですよ。だから紹介の仕方って大事だなと思ったんです。ちゃんと世に出ている音楽って大体がクオリティが高くて、そうすると自分にとって特別なものを見つけるのは出会いかたとかタイミングが重要で、じっくりフォーカスできる形がないとスルーしてなかなか入ってこないから、人の力やアドバイスが必要だし、ラジオはやっぱりいいなって思ったんですよ。だからさっきマキノさんがラジオをあんまり聴いてないって言うから、あれっ?と思って。

マキノ あー、なるほど、なるほど。

──そうか、ラジオをそんなに聴いていなくてもできちゃうんだな、と。形としてはラジオだけど、自分でそういうことがやりたい人だからできるんだな、って納得したんです。

(※インタビュー後に新しいラジオが公開されました)


マキノ ラジオをやろうと思ったのは〈Big Love Records〉の店主の仲さんがやっていた、Mixcloudに上がっているラジオ番組を聴いたのがきっかけです。それを夜ご飯を食べながらとか、仕事をしている時に流していて、喋りもすごいし、紹介する音楽もいかれてるし、なにこれ !? と思って。私はあんなに喋れないですけど。

──あの人、ホント面白いですよねえ。〈Big Love Records〉は好きですか?

マキノ あんまり行けてはいないですけど、好きです。入れてるレコードがユニークですよね。

──私も昔、仲さんが働いていた渋谷のZESTには何度か行っていて、今の〈Big Love Records〉は時々オンラインで買っているんですけど、勧めているレコードも大好きだし、グミと手書きのメッセージが入っていたり、そういうところにも弱いんですよね。

マキノ 私は昔の、渋谷にレコ屋がたくさんあった頃の雰囲気を知らないんで、たまに当時の話をブログなどで見つけると面白いなと思って読んでます。

──でも当時と違って、今はレコ屋の数も少ないし、どこでも買えるわけじゃないので、そこにしか置いていないレコードが見つかった時に、今のお店はどこも綺麗だし、店員さんの対応もよくて、オンラインでも買えるし、快適で素晴らしいなと私は思いますね。

マキノ 結構レコ屋側も差別化してますよね。いろんな所が潰れて、力のあるお店が拡大してるから、小さいところが独自の色を出そうとしているように見えますね。

──マキノさんのお店なんて本当にそうですよね。今日も着てるんですけど、私が最初にロデンシア・コレクティヴを知ったのは、確か〈Fat Cat Records〉のTシャツやトートバックが売っているのをTwitterで知って「え?」と思ったのがきっかけなんですよね。

マキノ 多分そうです。初めて海外のレーベルのものを入れたのが〈Fat Cat Records〉だったんで、超初期の頃です。ええと、2017年からなので……4年も経ってました!

── 〈Fat Cat Records〉は90年代のテクノ好きの中では知る人ぞ知るみたいなレーベルだったので、おっ!と食いついて、そこから気になっていろいろ見ていたら、ホームシェイクをすごく押しているのを知って。だってホームシェイクを押してるレコード屋なんてないですよね !?

マキノ ない、ないです。マック・デマルコはあるけど。

──そう! マック・デマルコも置いているけど、似たような感じでもっと内向的なホームシェイクのほうを押してくれているお店があるんだ、と嬉しくなって、4枚目のアルバムが出る前に、ホームシェイクの新しい作品が出たら絶対ここで買おう、と決めていたんですよ。

マキノ ありがとうございます。ホームシェイクはまた秋にアルバムが出る予定ですね。楽しみです。

⚫︎実店舗について

──このZINEにも書いてあるんですけど、昨年の実店舗を開ける際に「女性のお客様優先で」と言っていたのがすごいなと思ったんです。女の人もレコード屋に行きますけど、やっぱり男の人ばかりで行きづらいっていうのはありますよね。

マキノ むちゃくちゃありますね。

──女性のその気持ちもわかっているし、かといって女性を優先、とは言いづらい面もあるうえで、それをしっかりとできるというところがすごくて。平等にしようとすると結局どっちも来てね、になってしまう状況が多いので、女性優先で、と言うのは結構勇気がいるんじゃないかと思ったんです。

マキノ そうですね。私自身がお客さんとしてレコードを買いに行きますし、店員としてショップに立った時に思ったことは、まず女のお客さまが少ないのは第一として、やっぱりこう、入りづらい雰囲気とか、男の人が全員がそうではないんですけど、圧というか、目線みたいなものを感じることが多々あったんですね。私は私で1人で好きなものを探しに来てるんだから何とも思わなくていいし、考えすぎなんだろうなとは思うんですけど、マニアックなお店になればなるほど、来てるお客さんの熱が強いじゃないですか。やっぱり隣でレコードを掘っている時に、なんとなく居づらさを感じていたんですよ。せっかく遠くから好きなものを買いに来たのに、なんで嫌な思いをしなきゃいけないんだろう、と思うことが多かったんです。だから自分がいつかお店をやるんだったら、女の人には絶対にそういう思いをさせちゃ駄目だよなって思ったのが大きかったのと、あとは女性優先です、と言うことに関しては、やっぱりうちの店でも男性のお客さんのほうが圧倒的に買ってくれる人数が多いんですよ。

──オンライン上でもやっぱりそうなんですね。

マキノ はい。なので、女性優先って言うと逆に男性差別になっちゃうんじゃないかと少し思ったので、一応平日は女性のみ、土日は男性も女性も来ていいよ、にしたんです。でもみんなが思ってる以上に、女の人ってレコ屋に行くのがハードルが高いっていうのをわかってほしいのと、私のお店のお客さんなら理解してくれるかもと思って、ああいう感じに言いました。

──そう言えるのが本当にすごいと思うし、やっぱり私も若い時はレコード屋で知らない男性に話しかけられたりとか、リラックスした状態で探せるわけじゃなかったし、でも見に行きたいしで、それを乗り越えて今は全然平気なんですけど、それでも女性優先で、と言ってもらえると、なんとなく女の人が多いのかなという気持ちだけでほっとするというか、行く前に少しハードルが下がるじゃないですか。

マキノ うん。そうですよね。

──だから全部のお店がそうなればいいとはまったく思っていないんですけど、そういうお店がまずあることが素晴らしいと思うんです。で、ぜひ行きたい! と思っていたところでね、コロナでなかなかお店が開けられてなくて……。

マキノ そう!ごめんなさーい。実店舗はホームページを作って通販をスタートした時には考えてなかったんです。やっていくうちに、私自身もレコ屋に行くのが好きだったので、レコ屋という場所で見てほしいなと思ったのが大きかったです。やっぱりレコードが並べてあって、大きいスピーカーで音が流れている空間で買うとまたちょっと違うんじゃないかなと思って。お店を開けてから、コロナ対策の一環で1、2名様に限定していた時に、女性のお客様が来てくれて、ほぼ1対1の店内で「実際にかけてみたらどうなるか聴いてみたいんですよ」と言われて、その場でターンテーブルでレコードを聴いたうえで買ってくれたんですね。それって体験じゃないですか。通販だけじゃわからないことなので。

──その場に行って、気分が高まった状態で買って、持って帰って家で聴く、っていうレコード屋の一連の流れが楽しいですよね。

マキノ はい。すごく大事だと思います。

──じゃあ今、実店舗をやれていないのは残念ですね。

マキノ そうですね。残念だな……。行きたいと言ってくれるかたも多いので。情勢を見ながらですけど、秋頃には再開したいなと。

──いつもインスタを見て「ああ、ここに行ってみたい……。」とか思いながら、行った気分でポチってます、私。

マキノ 嬉しいです。何か気になるものがあれば、お気軽にお問い合わせください!


⚫︎ ロデンシア・コレクティヴのこだわり

──お店をやっていて、嬉しかったことや大変だったことはありますか?

マキノ 嬉しかったことは「あなたのところで扱っているものがすごくいいからうちの店に入れさせて」と気軽にメールをして、そこから何年も連絡を取り合っている海外のレーベルの人やアーティストがいるので、世界と繋がっている感じがするのがお店をやっていてよかったことですね。お客さんにいいものを届けることもまず第一ですけど。

──自分が入れたいなと思う商品は大体入れられます?

マキノ 入れられますけど、でも半分くらいは返事がないですねー。3か月後にいいよ、って返事が来たり。大変なことは、自分でめちゃくちゃいいと思って入れたけど、まったく売れないとか。

──これを入れたら売れるだろうし、みんな好きかもな、と思って入れることもありますか?

マキノ 自分もそのレコードが好きだったら入れることもあります。

──さっき言っていた、自分がいいと思って入れたものが売れないところを賄う感じで、これがあったら食いついてくれるかなーとかは?

マキノ ああー。たまにあるかもしれないけど、それも多分売れてないのかもしれない……。でもそれは結構自分の中の課題で、みんなが聴いてるからうちは入れないじゃなくて、シーンにとって重要な作品ってあるじゃないですか。今のインディーフォークとかインディーポップを語るには外せない、みたいな。今まではそれを自分の感情で入れなくてもいいかって思っていたんですけど、でもお店を続けていくんだったらそういう部分にもちゃんとアクセスして、自分なりに解釈していかなきゃいけないな、とは思いますね。

──本当はこっちを売りたいけど、その系列をわかってもらうために売れてるものを一緒に置いてみる、みたいなね。でもそれがなくて偏っているところも魅力的ですけどね。ちなみに今、お店の売れ筋はどんなものですか?

マキノ フェイ・ウェブスターの新しいアルバム『 I Know I'm Funny Haha 』は、思っていた以上にすぐ売れちゃいましたね。レーベルでいうと、フェイ・ウェブスターやステラ・ドネリー、スカルクラッシャーなど〈Secretly Canadian〉のレコードはすぐなくなりますね。

──その辺りが強い印象ですね。〈Secretly Canadian〉でもホイットニーやビーチ・フォッシルズなどの男性アーティストではなくて、やっぱり女性アーティストにフォーカスしてますよね。

マキノ その通りです。女性のインディーフォークでそんなに派手じゃない人が、うちのお店では受けている印象ですね。でも売れているものはもう少し先を見越して入れたほうがいいのかなと思っています。リリースされたあとでピッチフォークなどのメディアがプッシュしてくれたのを見て気づく人もいるから、そこまでちゃんとカバーしたいなと思います。

──ホームページを見ていても、アーティストの並びにお店の傾向が感じられるのが信用できるというか。どこでも買えるものじゃないものを置いているから、見ていて楽しくて。8割くらいが女性アーティストかなという印象ですけど?

マキノ 8割くらいですね。

──クルアンビンみたいな男女混合のバンドはいますけど、女性アーティストが圧倒的に多いなって。でもそこに無理な偏りを感じさせず、自然な感じで置いていますね。

マキノ そうですね。女の人しか入れないわけでもないし、かといってなんでもかんでも入れているわけでもないんです。男性だったら日本人でアンビエントをやっているharuka nakamuraさんとか、あとはボノボなどのエレクトロニック系はちゃんと押さえていて、男性のバンドはやっぱり入れてないですけど、女性メンバーがいるバンドは入れたりとか、そういうのは意識していますね。


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──今後はどんなお店にしていきたいですか?

マキノ やっぱり女性が入りやすいレコード屋というのはやっていきたいですね。綺麗なお店もいっぱいありますけど、私の中のレコ屋のイメージって埃っぽいとか、狭いとか、ネガティブな印象があるので。明るくて綺麗で誰かの家に遊びに来たような、居心地のいいお店にしたいですね。もっと女性のお客さんを増やしたいです。

──勝手にロデンシア・コレクティヴには女性のお客さんが多いのかなと思っていたので、さっき男性のほうが多いと聞いて、ちゃんと伝わるべきところに伝わるといいなと思いました。

マキノ ヘヴィーユーザーのかたでは女性も多いですけど、トータルの割合でみると少ないですね。それはうちの店だけじゃないと思うんですけど。レコードって身に着けて誰かに褒められるわけでもないけど、自分の内面を磨いてくれるものだと思うので、マニアックなところだけではなく、女性にももっと浸透して、気軽に接してほしいと思っています。

──お店にはカセットテープやCDも置いてますけど、その中でもマキノさんがレコードを推したい理由はどこですか?

マキノ 音質に関してというよりは、レコードを裏返して1枚丸ごと聴く動きというか、体験が大事なんじゃないかと思います。あとはジャケットが大きいところとか。レコードを聴くようになってから、私はほとんどサブスクを使ってないんですよ。そうすると片手間で聴くことがなくなって、アルバム1枚を通して集中して聴くのはレコードのことのほうが多くて。CDもパッケージが素敵なものもあるし、カセットもいいと思うんですけど、なんかこう、レコードの重さと紙の感じが好きですね。何年かしたらボロボロになっちゃうし、引っ越しの時は重いけど。でも面倒くさいなあと思いながらも愛着が沸きますよね。

──うちの子供は私がレコードを聴いていると「ここでしか聴けないの?不便だね。」とか言うんですよ。スマホみたいに持ち運べないから。ああ、もう考えかたが違うんだ! と思って。逆に「Wi-Fiがなくても聴けるんだ?」と言われたり。

マキノ へえー。面白いですね。でも昔はCDプレーヤーから始まって、MD、そのあとはiPodになって、iPhoneが出てきて、その時も常に電車に乗りながら聴いていたんですけど、やっぱり家で落ち着いた時間を取るのが今は結構大事というか。常に何かに追われたり、SNSをやっているよりは、もっとリラックスした時間を取れたら生きやすくなるんじゃないかあなと思いますね。

⚫︎ 最近のお勧めの音楽

──では最後に、最近のお店のおすすめを教えてもらってもいいですか?

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・Hildegard / Hildegard


マキノ はい。これは大久保さんも好きかな、と思って……。ヘレナ・デランドと、エレクトロニック方面のオウリというアーティストとのユニットで、ヒルデガルドです。中にも写真があって、ジャケットもエンボス加工みたいな仕様です。ヘレナ・デランドの作品はうちでも結構売れているので、ヘレナが関わった作品は入れたいなと思っています。女性2人で何かやるというテーマで作ったみたいで、モチーフとしてはヒルデガルドというユニット名も中世ドイツのフェミニズムの先駆者の名前で、作曲家、修道女でもあったそうで、そういう社会的なメッセージも込めていて、音はエレクトロニックでかっこいいです。


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──ヘレナ・デランドは写真で見た繊細なイメージと、レコードで歌詞を聴いてみた印象が違って、すごく芯が強いですよね。やっぱりそういう人が好きですか?

マキノ はい。自分の意見をちゃんと持っていて音楽に表している人も好きだし、それだけじゃなくてメッセージとしても発言している人はかっこいいなと思います。

──マキノさんが言うと説得力があります。あんまり何度も女の人が、と言うのは好きじゃないのに矛盾してしまうんですが、でも女の人が1人でレコード屋をやるのってすごくハードルが高いはずなのに、やるところまで辿り着いて、続けていることもすごいし、ちゃんと自分のカラーも出せて、それができる人なんだなと思うので。こうやって自分のやりたいことをやっている人の話を訊くと、ああ、頑張ろう、って思います。

マキノ ありがとうございます。


2021年 7月某日 
ZOOMにて

写真提供 Rodentia Collective

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