空回るエモーション(編集後記)

どんなインタビューでも毎回必ず、ああ、この答えを聞くために話を聞いていたんだな、と思う瞬間がある。流れていく会話のなかで一瞬だけ時間が止まって、しん、と空気が静まりかえり、言葉がはっきりと伝わるような感覚が。
今回の『Lisztomania!』のインタビュー「蘇るパッション 循環するエネルギー Mikio Kaminakamura インタビュー」では『Midmorning EP』のくだりがそれだった。しばらく休んでいた連載をなかなか再開できずにいたときに、ちょうどあのEPを聴いて心を動かされ、この音楽を誰かに知ってほしい、この人にゆっくり話を聞いてみたい、と急に思い立ち、すぐに声をかけたのが記事を作る経緯だった。しばらく重い腰が持ち上がらなかったわたしのやる気を奮い立たせてくれるきっかけになったその曲がどのように生まれたのかをそこで初めて知って、数年前に彼の師匠(一方的な)のブログで読んだ言葉や、ここ最近考えていたことのすべてにも繋がるような気がして、ひとり静かに感動していた。


そもそもいちばん最初にこのインタビュー連載をはじめたのは、選曲を担当していたラジオで紹介してもらうためだった。その選曲の作業は本当に楽しくて、普段は別の仕事をしているわたしにとって時間的にあまり負担がかからない点でもちょうどよかったし、できる限り続けたいと思っていた。ただ、音楽ライターとして依頼されたのに、数年前に発売された本のことぐらいしかいつも宣伝することがないのが気になっていた。だったらいっそのこと自分でなにか紹介してもらえるようなことをやればいいのでは、と思いついて、いろいろ考えたうえで試してみたのがことのはじまりだった。音楽好きの知り合いのお店や活動を後押しできるような記事を、どこにも属さずに自分の力で女性ひとりで作り上げることが可能かどうか挑戦してみたいと考えていたのもあった。元々文字起こしは大好きだったので、インタビューであればレビュー原稿ほど頭を使わずに作業に集中できるだろうと思いこんでいた。

いざ取り組んでみたものの、思った以上に時間や手間がかかってしまい、やる気だけが空回りして、回を重ねるごとにかなり疲れが出てしまった。記事は思った以上に多くの方々に読まれていたのに、協力してくれたお店やイベントにほとんど効果が見られなかったことの申し訳なさ、面白い記事を作れば協力してくれた方々へのお茶代くらいは払える程度のサポートをしてくれる人がもしかしたら出てくるかもしれない、という見込みの甘さとその結果(読者からのサポートは5回の連載を通してゼロ)、自分の不甲斐なさに落ち込んだ。それでもラジオで宣伝してもらえるコンテンツを維持するために番組の稿料を充てるつもりで乗り切っていたけれど、昨年9月に残念ながらラジオ番組自体が突然終了してしまい、そこで心がポキッと音を立てて折れ、行く先を見失ってしまった。

けれど得たものはたくさんあったから、少し休んでまた続けようと思っていた。4回目のマキノさんの記事を手がけた際に学んだこと、手応えを感じたことが大きい。再開するためのリニューアルとして、音楽に関わる人の話をもっと伝えたい、というビジョンがはっきりと見えていて、相手を女性に限定して探し続けたけれど、なかなか思うように見つからず、つまずいてしまった。でもそこからたった1枚のレコードを聴いたことで、急に考えが変わった。なにも女性に執拗にこだわる必要はなく、わたしが自分の視点でやれることをやるのが重要で、まずそこに意味があるのではないか、と気づいたのだ。振り返れば、音楽に突き動かされてなにかをはじめたことは自分にも何度かあって、そのうちのひとつは今回のインタビューに登場したミキオさんの師匠(一方的らしい)のDJを約30年ほど前に聴いた頃だった。若い頃の衝動めいたものを思い出せば、なんでもできるような気になった。
久しぶりの編集作業は思った以上にはかどり、夜も寝ないで没頭した。インタビュー中の「出来上がってくると楽しいっていうのはすげーある。そこに尽きるね。」というミキオさんの言葉に自己を重ねながら、家族が寝静まったあとのリビングの仕切りのないスペースでPCを叩き続けた。自分の内側に潜んでいるシェイクスピアの妹を蘇らせるような、ほとんどそんな気持ちで。

記事を作っている最中に後悔したことがある。せっかくドイツのレーベルからリリースされているミュージシャンの記事を作るなら、海外からでも翻訳機能を使えばある程度読めるような文章と内容にすればよかった、と途中で考えこんでしまった。しかし時すでに遅し、そもそも自分の今の力量ではそんなことは到底難しく、最初から目的をしっかり定めて作らないと無理なので、今回はきっぱり諦めてとりあえず日本人向けの記事を作ることだけに専念した。これを機に今後はもっと良識あるメディアに取り扱ってもらうのがベストだけれど、誰もやらないのであればわたしがスキルを磨いていつかまた挑戦すればいいかな、とも思っている。長年〈とれまレコード〉周辺のサポートをしている DJ の吉田タロウに24年前にはじめて仕事でインタビューをした頃に比べると、もう少しいろいろ出来るようになった気もするし。相も変わらず似たようなことを続けているという自負はある。愛と言われればそうかもしれない。

再開するにあたって、協力してくれたインタビュイーに還元できるような記事を作ることを自分のなかでの目標に設定していたので、今回はじめてインタビュー記事のサポートを数名の方々にしていただいたことが本当に嬉しかった。改めて、ありがとうございます。
今回のサポート金は Mikio Kaminakamura の新しいEP の購入に使うことに決めている。まずは〈Sundance〉のあの酔っ払いふたりに少しでも還元したいと思って。
もしこれから記事を読んで興味を持ってくれた方がいたら、ぜひミキオさんの音源を聴いてみて、EPを購入するなり、パーティーに足を運んでみるなりしてみてください。いいエネルギーが循環して、新しい空気が生まれ、大事なものがしっかりと継承されていくことを、わたしはいつも願っています。






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