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2020年間ベスト

 2020年によく聴いた音楽を思い出すために自分のライブラリを見つめていたところ、どうやら2020年の私は2019年に発売された音楽ばかりを聴いていたようだと気づいた。

 年の瀬に年間ベストを選出するのは楽しい。楽しいけれどフェアじゃないなといつも思う。だって先週のことだって既に忘れはじめているのに、1年前からの記憶を順に辿ってみたところで取りこぼすし、あげく血迷う。数年前の年間ベストを改めて見返して、ん?と首をかしげることもしばしばあって、結局10月あたりに発売されたアルバムがいちばん有利なのでは、と思ったりもする。リリースされて1年以上経ってもなお聴き続けていた作品や、誰も騒いでいない頃に少し遅れて出会ってしまい、自分の生活の中にじっくりと時間をかけて浸透していったもの、それこそが真のベスト・アルバムで、いい音楽と呼べるのではないか、とそんなことまで考え始める始末。

 ということで、ひとまずここで2020年によく聴いた2019年発売のアルバムをいくつか紹介したくなったので載せておきます。せっかく個人のnoteで書いているんだし何でもありで、それが強みで、つまり私は自由だから。

・Right Moment/Fumiya Tanaka
・Welcome Home/Hannah Cohen
・Happy To Be Here/Barrie
・Wool In The Pants/Wool &The Pants
・Both-And/Luke Temple

 真のベスト・アルバムともなると何というかこう、面構えが違うっていうんですか、ジャケットからして素晴らしい。全部レコードで聴いたので、その空間を含めた思い入れも少なからず作用しているかもしれない。

 しつこく書くけれど2020年に私がいちばんよく聴いたアルバムは田中フミヤの「Right Moment」だった。私の好きなダンス・ミュージックの躍動感が随所に詰まっている作品だから。本当はこのアルバムが2020年に世界中のクラブでプレイされていたはずだと思うと本当に悔しい。昨年の秋に出たEPの「Dance Tonight」も同じくターンテーブルに乗せたまま暫くずっと聴いていた。いい音楽は必然があって生まれる、だなんてカッコ良すぎる。

 Hannah Cohenのアルバムは2019年から年を跨いで何度も聴いた。彼女はモデルで写真家でもあるうえにこんなに質の高い作品を完成させるシンガーソングライターって、どれだけ美的センスに恵まれているんだろうか。しかもアンニュイときたら文句なし。セレクトショップの片隅で見つけたアンティークの宝石みたいにモダンでキラキラと輝いていて眩しい、奇跡のようなアルバム。アートワーク含め全部がお気に入りで、やっと手に入れた日は抱えて眠りたくなるほど嬉しかった。

 ブルックリンのBarrieは一聴したらよくあるドリーム・ポップのような軽さと甘さでスルーしそうだったのが、聴き込んでみると他とは一線を画す緻密な音作りで虜になったバンド。粒ぞろいの全10曲の中でも「Geology」の間奏部分の丁寧に音を重ねてリズムが跳ねていくところが堪らなく好きで、多分50回位は聴いた。最近になって中心人物のBarrieさん以外が脱退したという悲しい情報を知ったのだけれど、ライブ映像を見る限りどうやらドラムの人(この人がまた良くて)は残っているみたい。その後の詳細が知りたい。

 Wool &The Pantsは昨年PヴァインからCDを出しているので2020年の作品と捉えてもよかったのかも。もの凄く暗くて煙たいファンク。懐かしいと新しいのぎりぎり瀬戸際あたりの未知の感覚を刺激してくるような音と言葉の乗せかたに、日本のバンドでこんなに心底格好いいと痺れたのは久しぶり。夜中に聴いてると道連れにされる感じなので大変危険です。

 Luke Templeのこのアルバムは1曲聴いただけじゃわからない多彩な魅力が詰まっていて、全体を通して味わう流れの良さに再生する度にいちいち驚き、聴き始めるといつも止まらなくなった。フォークでアンビエントな音色、肌触りは穏やか、でも時折エッジが効いていてなんかもう多分この人、センスの塊。画像だとわかりにくいけどジャケの写真をよく見ると唾を垂らしていたりと、姿勢から何からやたら素敵。

 アンチ・メディアの旗を掲げていた23歳位の私なら「2020年間ベスト」というタイトルをつけておきながら2019年に発売されたアルバムを紹介してここで終わるというトリッキーなことを平気でやったような気がするけれど、流石にもうできない。だって勢いがない。勢いはないけれど自由だから、両方やる。

☆2020年間ベスト・アルバム

順不同でよく聴いたもの。このジャケを並べる作業が楽しくて、楽しくて。

・The Neon Skyline/Andy Shauf
人当たりの良さそうな抜群のメロディとは裏腹に非常に暗い歌詞。半分以上の曲にEマークが付いてるのでラジオでは流せなかった。

・北へ向かう/寺尾紗穂
日本語を乗せた「歌」で心から欲しい!と唯一感じた貴重なアルバム。優しくて芯の強い歌声を支えるゲスト陣の豪華さを通して、孤独や共生のあり方やいろんなことについて深く考えさせられた。

・Sixteen Oceans/Four Tet
家で聴くプラスαの刺激をずっと提供してくれるFour Tetにまたもや身を委ねてしまった2020年の春。CaribouやTame Impalaの曲のリミックス業も相変わらず良かった。

・Beginners/Christian Lee Hutson
Phoebe Bridgersのサポート・ギタリストのアルバムをPhoebeがプロデュースしたもの。Phoebeのアルバムで気に入った曲のクレジットにもちゃんと彼の名前があった。定期的に現れるElliott Smithの生まれ変わりの本命がついに出た!と本気で思う。

・Mutable Set/Blake Mills 
ビート重視でギターがどうのこうのとあまり言わない私ですらギターの音がものっすごく良いことがわかる。心地いいサウンドなのに程よく緊張感があって、聴いているとだんだん不安定になっていく暗さが好き。プロデューサーとして関わった作品も大体良いから恐ろしい。

・Float Back To You/Holy Hive
シカゴのWhitneyっぽい質感の歌声で、ニュージーランドのLeisureにも通じるメロウな音。つまりレコード棚のTame ImpalaとD.A.N.の間に入れておきたい感じってこと。

・Pain Olympics/Crack Cloud
まずこのご時世に40人もの集団である時点でどれだけアナーキーなのかが伝わってくる。メンバーそれぞれが思い思いのパンクを提案し合い、全部採用して詰め込んだような足し算の美学に溢れたやかましい音。幻の来日公演がどうしても観たかった。

・Carender/Baseball Gregg
AIっていうのは優秀で、逐一私にこういう宅録ローファイ・インディー・ポップを薦めてくれる。Fromカリフォルニアのゆる~い風を感じる不思議なアルバム。

・Inner Song/Kelly Lee Owens
もはやUKのミュージシャンの通過儀礼とも言えるレディオヘッドのカヴァー(なのにインスト)から始まり、ジョン・ケールが歌う「Corner of My Sky」などあくまでプロデューサー然として鎮座しながら、時折あの美ヴォイスで歌いはじめるバランス感覚にまいった。

・Lianne La Havas/Lianne La Havas
1位を選ぶとしたらこれ。ハスキーな歌声と叙情的なギターでR&Bをベースにより生っぽくナチュラルにエレガントに自分を表現していて、そりゃあセルフタイトルも付けたくなるよなという納得の素晴らしさ。ギターを弾く姿がパワフルで本当に美しくて、佇まいも含めて2020年度憧れの女性No.1(2019年度はクルアンビンのローラ・リー)。Oscar Jeromeとの曲も好き!


 何に対しても言えるけれど、最初は珍しがって、面白がれて、注目した分の反応が自然と沸き上がってきても、それを続けるほうはもちろん、受け止める側も同じような情熱を持っていつまでも応え続けるのはなかなか体力がいるものだなと思う。静かに心は離れていくし、思っていてもなんとなく躊躇して言葉や態度で示すことができなくなることもある。それでも何かを続けている人の動向はしっかり見守り続けたいし、心を動かされるような瞬間があればきちんとその時にリアクションを起こすことをなるべく少しでも続けたい。やっぱり私は新しい音楽が好きで、その流れが続いて欲しいからこそ今は強くそう感じていて、あとになってしまえば多分伝えることはできないと思うから。2018年や2019年に夢中になっていたものを既に少しずつ忘れてしまっている。その時の気分にはもう戻れない。

 世の中の流れが一変してしまい、なかなか厳しい日々を過ごしたけれど、とはいえ2020年は音楽をたくさん聴いた。ここ数年でいちばんレコードやCDを買った。元気はなかったけれど、時間があったから。ライブを観たのはたったの1回で、払い戻しになった公演のチケットは3枚。クラブには3回行けたからまだ良いほうか。クラウドファンディングで交換したドリンクチケットが手元に残っているから、今年中に使い切ろうと心に決めている。

 年間ベストの1曲を選ぶなら坂本慎太郎の「おぼろげナイトクラブ」。夢想と現実の狭間で酩酊するような悲しさをこんなに優しく面白く曲にできる人は他にいるのかな、と感動しつつ、深夜イベントでアングラバンドのなんとも陰気なファンクでみんなとダンパしたい……と少し泣いた。

☆2020年間ベスト曲50

 AppleMusicにあるもので作成した年間プレイリストです。

 聴き返してみて、私はほんっとD.A.N.っぽいシルキーな歌声が好きなんだなーと思った瞬間に、はっ、D.A.N.を入れ忘れていた!と痛恨のミスに気付くという。年末に配信リリースされたD.A.N.のライブ・アルバム良かったですよねー。ライブ映えする「Tempest」のヤバさがちゃんと音源に封じ込められていたし、当日の配信も観ていたけど、家でも擬似体験できるような凝った演出もされていてね、そして1曲目がまさかのね……と、D.A.N.の話になると止まらないので、この辺で終わりに。





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