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大島弓子「毎日が夏休み」書評(2)(評者:山口莉乃)

大島弓子「毎日が夏休み」書評(『つるばらつるばら』(白泉社文庫)収録) 
評者:山口莉乃

 私達にはそれぞれの人生がある。その人生は人によって様々で仕事や家庭・価値観など全部同じ人はいない。私達は卒業を経てこれからどんな人生を築いていくのだろうか。仕事がしたいと強く思える日はあるのだろうか。この作品は私にとって人生について考えさせられる作品になった。
 彼らはほとんど会話をしないスクラップ家族であった。ある日登校拒否を行っていたスギナと失業した義父が公園で出会う。二人は母にそのことを話すが、見栄っ張りの母は受け入れようとしなかった。義父はスギナが学校に行きたくないなら働こうと一緒に働ける場所を探したが、それを受け入れてくれる会社はなく、なんでも屋を二人で設立する事を決める。スギナは仕事をしていく上で義父の事を良く知っていくのだった。ある日、元同僚のパーティーに呼ばれた家族三人。スギナはそこで自分と義父が彼等に侮辱されていると感じた。母はその次の日からいなくなっていた。スギナは一度なんでも屋をクビになる。母に帰ってきて欲しくて行った学校で義父に君が必要だと言われ、スギナは学校にさよならを告げた。二人はより仕事に力を入れるようになるが、おじいちゃんにけがをさせてしまう。そこに、仕事を得た母が帰ってきた。ある日の事、義父は背中にやけどを負ってしまう。それを聞いた母も仕事のストレスなどで倒れてしまった。家族三人は借金を抱えどん底に落ちてしまったがそこに助け船が現れる。そのおかげで三人の人生は良い方向に進んでいき、どんどん会社は大きくなりスギナは会社の社長になった。スギナはまぶしい永遠の夏休みを手に入れたのだとあの日を思い出すのだった。
 この漫画は、暗い場面も多いが一定にどこかほんわかした雰囲気を漂わせている。作者の何気ない言葉のセンスや絵柄がその雰囲気を生み出しているのだろう。そして、場面の展開が早く、タイトル付けがされている所も暗い雰囲気を生み出さない要因であると感じる。スギナの最後の言葉であった、計画する・実行する・失敗する・知る・発見する・冒険とスリル・自由とよろこびのこの物語の流れはサブタイトルを見るとより流れを掴みやすい。彼等が歩んだ人生は夏休みそのもののようだったことが良く分かる。
 もともとスギナと義父に血のつながりはなく、彼等はもともとスクラップ家族であった。しかし、彼等は真っ暗闇から二人でもがき、だんだんとお互いの事を知っていく。母もまた、見栄っ張りであったが家族の変化に影響されていった。そしてスクラップ家族はだんだんと本当の家族になっていく。数々の困難を一緒に乗り越えて、素直になる事ができたからこそ、彼等は家族になれた。もし、公園で2人が出会う事がなかったら、ずっとあまり話さない関係を続けていただろう。この物語を見て変化というものは良くも悪くも大きな影響を及ぼすのだと強く感じた。
 人生は人によってそれぞれである。この物語は非現実的な流れに感じるが、私は成功した人の人生の物語は、非現実的なモノが多いということを思い出した。だが、成功した人だけではないのだと思う。小さな事でも何かに挑戦したり、後悔したりして、私達もそれぞれの岐路に立たされて変化し、あの夏休みそのものの流れを辿った機会があるだろう。私達が卒業して、職に就くとき仕事をしたいと思える時が来るのだろうか。彼等は3人で支え合う事が出来たが、一人という場面に立たされた時に、義父のように強く心を持つことはできないかもしれないと感じた。変化は怖いものであると思うが、やりたいことや自分の気持ちを強く持ち、失敗してもその経験を糧にして突き進まないと成功は得られない。だが、真っ暗闇の中でも努力することで輝かしい未来を拓くことが出来るかもしれない。この作品はそんな未来に勇気をもらえる作品であった。

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