はじめまして、ボナミといいます。

菅原ボナミと申します。
挨拶がてらに、ずっと前に書いた拙文を載せます。
ビジネスに殺されそうな毎日がつらくてつらくてたまりません。


メトロ

発車標に赤色の「快速」が灯ると、女はゆっくりと立ち上がる。99戦99敗。100戦目はようやく勝てるだろうか。地下マイナス30メートルの国境の前で、女、静かに目を閉じる。

彼女の名前は「潮騒」。初めて誰かがくれた名前。満ちる潮(うしお)が奏でるいななき。雷雨の夜に産まれたその子は、今日、100回目の自殺をするそうです。

予感と共に、ふわりと空間が揺らぐ。とっさに発車標に目をやると「電車にご注意ください」が、紫色に点滅していた。色が嘘をつきはじめた!そのとき、ピンク色のプラットフォームの中で、女、額の汗と共に、もう一度手順を確認する!「オォーン」文明の咆哮と共に、130 km/hの熱風が女を包んだ。

「今だッ、今だッ、今だッ!」心臓の縮む音がする。それは、ぎゅるるんっと回りだすプロペラの音に似ていた。とっさに、右の手の甲を押さえる女。傷口に海水が混じったような激痛が走り、理性が生まれ、恐れが追ってきた。プロペラは回りだす。時代はいつも、女を置き去りにした。

ならばこの決意、Max130 km/hを超えねばならぬ。私は潮騒。満ちる潮が奏でるいななき。「最初に私に名前をくれたのは、誰だったかしら」プロペラは回りだし、永遠の女優志望の体を線路上に押し出した。

その時聞こえた「待って」という声。知らない声と共に引き戻される左腕と体。我に返る女をしり目に、最高速度をまとった銀色の電車がその胴体に敗北者の姿を一瞬だけ映し出す。「また置いていかれるのね」敗北感と共に映る情けない自分の姿は、やはり人生で一番美しかった。女は泣きながら笑っていた。

PM11:49 女は100回目の自殺に失敗した。
PM11:49 揺らめく自分の奇跡であった。

以上です。

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