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紅茶 / はるかとゆいさん

キッチンで紅茶をいれてくれているゆいさんの、透き通るような鼻歌が耳に届いた。
「それ、なんの曲だっけ。聞いたことある気がする。」
「CMで流れてたからかしら」
 耳に残るメロディーが再びゆいさんから流れ出す。どこか懐かしいその曲は、いつかテレビCMで聞いたことがあるのだろう。
 今日が紅茶の日だという事を話したら、ゆいさんは嬉々としてお気に入りのティーポットとカップを取り出し優雅なお茶会でも開く勢いでポットを温めとびきり美味しい紅茶を淹れてくれると言った。私は対面キッチンのカウンターに頬杖をつきながらその様子を眺めている。ゆいさんのしなやかな指先の動きはいつまででも眺めていたかった。
「いい香り」
「本日の紅茶はダージリンです。ストレートでいい?」
「うん」
 実は私もゆいさんもコーヒーが苦手だ。だから自然とキッチンには紅茶のセットが溢れていた。日替わりでフレーバーの違うものを淹れて飲むのが日課になっている。
「実はお茶請けにアップルパイが準備してあります」
「さすがゆいさん」
 私の好みはすっかり把握されている。冷蔵庫から冷えたアップルパイを出すとお皿に移し、先にダイニングテーブルへと運ぶ。間もなくしてゆいさんが紅茶のポットとカップを運んできてくれた。そしてゆったりとした動作でカップにダージリンティーを注ぐ。
「ではいただきましょうか」
「ありがとう。いただきます」
 夜の2人だけのティータイムはこうして今夜もふけていく。

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