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【AOTY2020アドベントカレンダー Day20】 17歳とベルリンの壁 「Abstract」

フェスのない8月に想いを馳せて盛り上がった作品として、当年間ベスト企画ではキラーズディスクロージャーの新作を取り上げてきたが、実際のところは何もなかった夏の個人的なムードに最も合ったのはこの作品だったかもしれない。

17歳とベルリンの壁は深みのあるシューゲイザーを軸に、男女ツインボーカルがポップな響きを生み出す4人組。男女ツインボーカルと聞いて真っ先に思い浮かぶスーパーカーやバンド名の由来にもなっているBase Ball Bearの系譜も感じられ、ジャンルの割にとてもフレッシュですんなり聴き入ることが出来た。

2015年のデビューから6曲入りのミニアルバムをコンスタントにリリースし、4部作の最後を締めくくる「Abstract」は同期音をふんだんに盛り込み、シューゲイザーとチルウェイヴをブレンドしたような低体温の質感でとても気持ちが良い。曲名からも伝わってくる、人の気を感じない海の幻想的な美しさと少しのディストピア感も、2020年の8月というタイミングにピッタリだったと思う(いずれの楽曲も2018年から徐々に制作された楽曲で、今年の情勢を踏まえて作られたものではない)。

打ち込みを取り入れたツインボーカルのシューゲイザーということで、歌とギターとシンセがまるでイルカのように水面と深海を行き来するような体験を味わえる。アップテンポの「パラグライド」ではシンセのリフとポップな歌メロがメインを担い、ギターは分厚い音が聴こえるがバッキングに徹している。サビの歌声が極上の恍惚感をもたらす「街の扉」はギターは最小限に、ドラムもエフェクトがかけられていたりドラムマシンに置き換えられていたりと、シンセサウンドが前面に出た甘美なナンバー。続く「凍結地」では、カッティングギターを軸にしたミニマルな音像から深いリバーブのかかったシューゲイザーへと雪崩れ込む。先にMVを載せた「誰かがいた海」では歌とギターとシンセ全てが混ざり合い、淡くて且つ重層的なサウンドスケープに心地よく包み込まれる。


冒頭で比較対象としてスーパーカー等の名前を挙げたが、メンバーは今作の楽曲の中で「パラグライド」はくるりの「ワンダーフォーゲル」を、「街の扉」はサカナクションの「ナイロンの糸」をリファレンスに挙げている。個人的にはアルバム全体を通してGalileo Galileiの「POTAL」のエレクトロな質感や、そこにドリーミーなギターが加わった次作「ALARMS」とも共振する部分があると感じた。こういったポップとオルタナティブの架け橋を担ってきたバンドの名作とも合わせて是非聴いてみて欲しい。

12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。



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