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【AOTY2020アドベントカレンダー Day21】 Gotch 「Lives By The Sea」

「誰の真似もしなくていい」「自由に楽しんで」と、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文はここ数年の間ステージ上で何度と言い続け、自らそれを体現してきた。2020年、ライブの自由を奪われた代わりに生まれた時間で、これまで音楽の現場で語り継ぎ、育ててきた想いを3枚目のソロアルバムに込めた。1曲目の後半で歌われているように、この音楽は"誰のためでもない、それぞれに生きるため"に鳴り響いている。それぞれの日々に寄り添うようにささやかに、かつ誇り高く。

今作のゴッチのモードの中心にあるのはヒップホップとゴスペル。その象徴とも言える先行シングル「The Age」では"表通り進むパレード 彼らの声が届くまで 僕は並ぶよ 最後尾"というフレーズが印象的。「マーチングバンド」という楽曲があったり、パレードの先頭を引っ張ってきたアジカンのイメージとは対照的だ。それぞれの日常を生きる一人の生活者としての親しみやすさをもって"この世は生きるに値する 大丈夫""Life goes on"と普段着な声でそっと背中を押す。

困難に困難を積み重ねたタフな時代と向き合いながら、そんな日々の閉塞を緩やかに解放する穏やかなフィーリングが、彼のソロ活動を支えてきた仲間たちの声と共に降り注ぐ。彼の周囲を取り巻くアーティスト達との緩やかな繋がり、コミュニティ感が溢れ出ているのも今作の心地よさの大きな要因だ。

例えば、華やかなコーラスと共に愛をささやく「Nothing But Love」を聴けば、アジカンのサポートメンバーとしても活躍するthe chef cooks meの下村亮介とタッグを組んでいるのが容易に想像出来る。

4曲目の「Endless Summer」ではコーラスとしてもはやお馴染みのYeYeと軽快なハーモニーを生み出す。USインディの香りが漂うギターは11月にゴッチも一部を手掛けた新アルバムをリリースしたばかりのTurntable Filmsの井上陽介によるもの。緊急事態宣言下でリリースされ今作にも収録されているチャリティソング「Stay Inside」でトラックを提供したmabanuaは8曲目「Worthless Man」の終盤でアグレッシヴでテクニカルなドラムを響かせる。それぞれ別のホームがある中で結びつきを強める"Gotchバンド"としての成熟も、これらの楽曲がいつかライブで披露される時の楽しみだ。


個人的なハイライトは今作の一番の先駆けとなったシングル曲「Taxi Driver」からの終盤3曲の流れ。ストレイテナーなどで活躍している日向秀和による太いベースラインと、トラップを駆使したタイトなビートに乗せて、ゴッチは街を歩きながら歌っているような抜けの良い声を聴かせる。要所でポロンと鳴らされるギターの音色から感じるオアシスっぽさも堪らない。

そして「Taxi Driver」のB面にするのは勿体ないぐらいに素晴らしい「Farewell, My Boy」へ。ささやかに広がるクワイアは悲しみを優しく受け止め、傷を癒すように、或いは寄り添って共に涙を流すように心に染み入ってくる。ラストはカモメの鳴き声や波の揺らめきが静かに広がる表題曲。輪郭のぼやけたYeYeとのコーラスワークに包まれ、最後はゴッチの歌ではなくJJJの力強いヴァースが締め括る。

JJJと共にラッパーで客演した唾奇もBASIも、それぞれの参加曲で綴っているのが、このビートは一人ひとりの心臓の鼓動であり、日々の歩みと繋がっているということ。ゴッチがステージから言い続けていた「誰の真似もしなくていい」というメッセージも、それぞれが自分のペースで音を感じ、その先にある日々を自分らしく進むためのものだと思う。人の数だけ存在するビートに伴走するように、人の数だけ存在するありふれた日々を抱きしめるために、音楽はすぐそばにある。

12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。



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