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【AOTY2020アドベントカレンダー Day15】 君島大空 「縫層」

"唯一無二"という表現はあまり使いたくないと日頃から思っているが、君島大空に関しては音にしても言葉にしても外から似てる要素を見つけ出すことが出来ない。鮮烈なインパクトを与えた昨年のデビューEPでは午後の微睡みや夜をテーマにした楽曲もあったが、今年の2ndEPの多くは彼の心の中に描かれた心象風景にオリジナルな言葉を名付けて楽曲にしている。分厚い層となって積み重なるまで丁寧に紡がれた彼の世界観は、こちらから暴くことが出来ないからこそ神秘的で美しい輝きを放っているのだ。

スッと入り込んではパッと消えてしまうような儚い歌声と、夢と現実の狭間をさまようような幻想的なサウンドが広がっていく。多彩な音色を散りばめ丁寧に世界を描いていく楽曲の中で、歌とギターはどこにも染まることなく隙間を縫うように漂っている。繊細で煌びやかなアコースティックギターで揺らめくこともあれば、上に載せた「笑止」のようにメタリックな轟音のうねりに飲み込むことも。めくるめく曲展開に浸る一方で、その真相には決して触れられないような神秘的な世界。ゆえに心地よい。

ファンキーなリズムに乗せて爽快感と奥深さが繊細に咲き乱れる「散瞳」の最後で"ぎごちない小指で 世界を抱きしめてくれよ"と歌う。彼が彼自身のために描いている世界はそれだけ繊細で脆くて美しいのだ。

続く「火傷に雨」では、焼け石に水をかけた時に上がる蒸気のようにジュワッと広がる重厚なバンドサウンドを堪能。洪水のように降り注ぐノイズと、涙を流しているように聴こえる歌声は、乱反射と屈折を経て、聴き手一人ひとりに晴れ間が訪れなかったこの1年の心模様を映し出す。

作り込まれた音の世界が広がる一方で、歌声は儚げながら呼吸のように息遣いが生々しく聴こえる。そこに確かな手触りを感じるのだが、曲中で言わんとしていることの実体は掴めない。というのが彼のアートの素晴らしい魅力だと思う。


昨年のデビュー作で多くのリスナーにインパクトを与えた後の2020年。君島に大きな影響を与えた七尾旅人の「サーカスナイト」を羊文学の塩塚モエカと共にカバーしたのも素晴らしかったし、「縫層」にベーシストで参加したKing Gnuの新井和輝と共にプロデュースした高井息吹の「kaleidoscope」も幻想的な魅力溢れるミニアルバムだった。同世代のキーパーソンとしてこれからも美しい世界を紡ぎ続けて欲しい。

12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。


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