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47歳で、結婚はされてないって

「長谷部さんがうちの部署に来てくれて良かった。」
「本当にそう。最初は静かそうな人だと思ったけど、親切だよね。でも、ダメなところはダメと言ってくれる。」

長谷部カナは47歳。独身でこじんまりとしたアパートに住んでいる。

今から30年前。
「カナ!お前のせいで私は不幸なんだ!出ていきな!!」
ボサボサ頭の母親に蹴られ、家の外に放り出された少女がいた。
少女の母親はシングルマザー。夫が不倫し、離婚。養育費も貰えず、貧しい暮らし。母の心は荒み、アルコール依存性になってしまった。
母親の楽しみは娘のカナを虐めること。それだけだった。
カナは玄関の前で土下座をしながら、母の愛を求める。
「お母さん、生まれてきてごめんなさい。いっぱい働いてお母さんを幸せにします。どうかどうか許してください。」

ー自分にひれ伏す人間がいる。それがこの娘だ。
母親は娘を締め出す度に満足した。

家に帰ることを許されたカナは、部屋で参考書を広げた。母親の夢は娘を良い大学に行かせて、お給与の良い会社で働かせること。カナは母親に好かれたい一心で、必死に勉強をした。

カナには秘密の趣味がある。
母親が寝静まった後、カナはタンスから人形を取り出した。

長い髪に大きい目、細くてスタイルのいい身体。そして、流行りのワンピース。カナは17歳でお人形遊びをする。人形の髪を梳かし、新しいお洋服を着させる。カナは人形になりたいのだ。人形は媚びなくても、愛される。母親にあれこれ制限をかけられるカナと違って、長い髪でいられるし、新品の洋服を着ることもできる。そして、何より可愛い。

カナはお人形遊びをしながら、国立大学に合格した。母親はカナに初めて「生まれてきてくれてありがとう」と言い、ディナーに連れて行った。

カナは自分が大学生活に馴染めるか不安だった。なぜなら、カナは高校時代、部活も友達付き合いもせず、勉強ばかりだったからだ。
しかし、カナはすぐに友達も彼氏もできた。なんでも言うことを聞き、どんな嫌なことを言われても怒りもしないカナ。そんなカナは都合のいい人間だった。だから、意地悪な人に人気だった。

しかし、カナは鈍感ではない。1年で自分が良いように扱われていることに気づいた。傷ついたカナは家に引きこもった。
カナは人形を見る。
何もしなくても愛される存在。美しい顔。暗転したスマホに映ったカナの顔は人形と全く違う。
ー今どき、整形なんて当たり前だよね。
かつて友達だったあの子が言った言葉。

カナはバイトの日数を増やして、貯金した。
自分で貯めたお金で、最初の整形。腫れがひくと、生まれて始めて「可愛い」と言われた。
ーこんな私でも褒められるんだ。
いつの間にか夜の仕事を始め、2回目の整形、3回目の整形・・・と繰り返していく。
当然、カナの母親は気に食わない。
髪をのばし、厚化粧をしたカナにこう言った。
「可愛くない子。」
カナは家から追い出された。

カナの仕事は容姿を褒められることもあるが、貶されることが多かった。
カナは傷ついたが「私は何を言われても平気。」と自分に嘘をついた。

カナは大学4年生になったが、就職先は決まらなかった。
対して、かつての友達が母が「入りなさい!」と推していた会社の内定をもらった。カナを良いように扱った、顔が可愛い子だった。

カナはアパートで独り、浴びるほどお酒を飲んでいた。カナはふらつきながら、あの人形を取り出した。
「ッブス!」
カナは初めて人形を罵った。細い身体を握りしめ、怒鳴った。
「お前が苦しむのは、お前がダメな人間だからだ。」
もちろん人形は何も言い返さない。美しい目でカナを見ている。
「自分を可哀想だと思うなよ。」
カナは人形投げようとしたが、できなかった。

やがてカナは歳をとり、昔のように稼げなくなった。
初めて入院するほどの病気になり、カナは仕事をクビになった。
貯金を切り崩して、過ごす日々。暇になったカナはあの人形のことを思い出した。
人形は何年も箱に入っていた。
少し薄汚れているが、顔立ちは昔のままだ。もちろんシワもない。
「この子になりたかった。」
カナはそう呟いた。けれども、部屋は静かなまま。
ー 私はこんなに頑張ってるのにどうして?
カナは人形投げた。

見てくれだけ、何も言わないし、人の言いなり。
ー これが昔の私がなりたかった姿?

人形は次のゴミの日に捨てられた。近所に人形供養をしてくれるところもあったが、しなかった。すぐに捨てたかったのだ。
その次の朝、カナは就職先を探しに出掛けた。

カナは今年で48歳。資格をとりながら、細々と暮らしている。

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