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さよならを言えなかった街で

先日、以前住んでいた街に行った。なくなった店、なかった店、いつもの長閑な雰囲気。

キッチンカーで店を出していたおじさんは、路面に店を持っていたし、角にあった煎餅と甘味のお店がなくなっていた。こぢんまりとしたカフェスペースがあって、電源やWi-Fiも使えて、少し頑張ったご褒美に、そこでクリームあんみつを食べながら、本を読んだりするのが好きだった。

カフェのお姉さんがよく、外に何かをねだりにくる鳩を指差して、
「あ、またきましたよ」と他の店員さんに話しかけては、二人で鳩に挨拶しに行って、ニコニコしていた。何か特別な関係だったに違いない。

長閑だけれど程よく活気もあって好きな街だった。好きなパン屋やカフェがなくなると寂しかった。どうか、後に来るのは美容院と、スマホショップはやめて、と思ったのに大体そのどちらかだった。ドラッグストアはありすぎて、増えようがなかった。

色々な人が会いにきてくれた。それは、母の店もそこにあったからで、夜な夜な、店を借りて、なんでもない会を開いていた。誰かが失恋したとか、ソーメンが食べたいとか、クリスマスっぽさを感じたいとか、そういうことでよかった。

またそうやって、集まれるのは、いつなんだろう。戻らなさをうっすらと感じてしまう。

思うと、街を出たのは留学がきっかけで、直前まで忙しくしていて惜しむ間もなく、街を出た。そして、その後海辺に住んだ。

東京へ行くのは不便だったけれど、とても肌に合っていて、空の広い場所で季節をしっかり感じられるというだけで、自分自身のことをいつもより少ししっかり見つめられる気がした。

また街を出る。きっかけは、本当に些細なことだった。近所の空き地だった場所の大好きだった謎の木が、住宅地になるために切られたのを見て、ここを出よう、と思った。他にも色々あるけれど。

今度もまたさよならは言わない。

またいつか、海辺に戻ろう。

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