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【読書記録】レオナルドの沈黙/飛鳥部勝則

「飛鳥部勝則しか読んでないの?」という疑問を覚える読書記録ですが、色々読んでいるので!!本当ですので!!

「私は遠隔のこの地にいたまま、目的の人物を思念によって殺してみせる」降霊会の夜、霊媒師によって宣言された殺人予告と、その恐るべき達成。すべての家具が外に運び出された状態の家の中で首を吊って死んでいた男。密室状態の現場。踏み台にされたレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿本と鏡文字の考察。第二の不可能犯罪の勃発。そして読者への挑戦―。本当に犯人は霊媒師なのか、違うとすれば果たして犯人は誰なのか?“さかさま”尽くしの大胆不敵な事件に挑む美形の芸術家探偵・妹尾悠二の活躍を描いた、鮎川哲也賞受賞作家の鮮やかな本格探偵小説。(Amazonより引用)

東京創元社からの創元クライムからの発行の当書は、さすがのミステリのお膝元!と思うような、これまで読んだ飛鳥部勝則作品の中で最もミステリとして面白いなあ〜と思う一冊でした。

ただ……

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「本書は名探偵・妹尾悠二シリーズの第一弾となる。」という裏表紙の記載が悲しさを誘います。これからの未来はともかく、2004年発行のこの作品以降、現在までシリーズ第二弾は出ていないわけです。
こう考えると、この「名探偵・妹尾悠二」は1990年代〜2000年代に流行ったシリーズミステリの探偵役像として「いかにも」に作られてるなあという気もします。

年齢不詳の男が黒い革張りの椅子に掛けている。長い足を組み、手を顎に当てていた。面長の端正な顔には、東洋のイエス・キリストといった、神秘的な風情がある。それも現実に想像される貧相な救世主の容貌ではなく、かつて西洋で美男子のモデルを使って描かれた、典雅なイエスの肖像画から抜け出してきたような雰囲気を漂わせていた。(レオナルドの沈黙 75ページ)

飛鳥部勝則らしい絵画のイエス・キリストに例える描写が面白くもありますが、いかにも「美形の名探偵」。職業はコンテンポラリーアーティスト。
しかも、本作のワトソン役とは別に(ワトソン役についてはひと悶着ある作品なので、表現が難しい…)、なんとなくシリーズが続けば女性人気が出そうな「なぜ警察をやっているのかわからない」と称される警察官・影屋というキャラクターも登場するのです。
「ああ……第一弾、ね……」となんともいえない顔をしてしまうわけです。ホント。

さてはて、この「レオナルドの沈黙」は、降霊会の夜に霊媒師・波紋が宣言した殺人のとおりに、気難しい芸術家が離れた場所で死んでしまうという不可解な事件から始まります。
降霊会は元テレビプロデューサーで美術の蒐集家でもある清水氏の豪邸で行われました。参加者は「北陸ジャーナル」に勤めているメインの語り部である真壁や先輩の朋江、他には氏とつながりがある人たち。降霊会に参加していた参加者はもちろん、当の霊媒師本人には鉄壁のアリバイがあるのに、どうして件の芸術家は死んでしまったのか?
しかも、その死の状況は家中の家具が外に出され、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿本を踏み台に首を吊るという不可解なもの。
名探偵役となる妹尾悠二は、真壁とともに関係者から話を聞き始め――

「降霊会」!「遠隔殺人」!いやもう、それだけで胸が踊りますよね。しかもこの作品は、ミステリマニアが大好きな「作中ミステリ談義」も豊富なんです。冒頭から「ワトスン女性説」から始まり、ハードボイルド論、そしてみんなが愛してやまないノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則から派生させた「探偵小説作法十三箇条」をつくってみたり。
他の飛鳥部勝則作品だと美術に関する知識で構成されそうな部分が「探偵小説」の知識になっているのもにくい(堕天使拷問刑ではホラー小説だったりもしたけれど)。
私はそこまで好きじゃないんですが、みんなはこういうのが好きなんでしょ?の代表格である「読者への挑戦状」まで完備されているという完璧さ。

これまで他の飛鳥部勝則作品を読んだからこそ、この本格感にたまらなく感じてしまうのです。もしかすると、この作品をこの著者の最初の作品として手に取ると、また感じ方が違う気もします。

閑話休題。

私はミステリが大好きで、それこそ中学生の頃に新本格と出会ってから本の虫になったという経歴があります。
どういうわけか、ミステリファンの多くが「名探偵になりたい」と思われている気がします。読者への挑戦が実際に多くの読者に好かれているのは、実際に名探偵になりたい読者が多いからでしょう。「ミステリは知的遊戯」といいますものね。

でも、私はそうじゃないのです。私がなりたいのはワトソン。
カッコよくて、頭が良くて、ハチャメチャで、わけがわからない名探偵に振り回されながら情報を集め、整理し、ときには間の抜けた行動が事件解決の糸口になる(実際問題、そんなThe典型的な助手役なかなかいないけど)。

自己認識が低めなので「私ごときに解ける謎はつまらん」という、すごく後ろ向きな理由もあるような気もしなくもないのですが……。

なんでこんなことをここに書くというかといえば、「レオナルドの沈黙」は「名探偵」の物語ではなく「探偵助手」の物語だからなのです。
ネタバレになるので何も書けないんだけどな!!!

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本当に蛇足。

飛鳥部勝則作品にドはまりしている私ですが、考えてみれば理由がある気がします。ラミア虐殺を読んだときの「やばい、ハチャメチャなミステリ見つけたやwww」という興奮はもちろん大きいのですが、それだけではない気がします。
なんとなく作品(長編)に含まれる要素を考えると(すべての作品に全てが含まれるわけではないけど)こんな感じになると思います。

・絵画(絵解き、画家、モチーフとしての絵画)
・ミステリ・推理
・幻想文学(少しのSF)み
・グロテスクなまでのバイオレンス
・新潟(雪国)/ときに日本海
・世紀末的青春

21世紀に入ってから刊行された作品ばかりなのですが、作品の根底に「世紀末の女子高生」を時々感じるのです。そして私は20世紀末、そして21世紀のドあたまを、某日本海のそばの雪国で女子中高生として過ごしたのです。本を読みながら、不思議と地元で過ごしていた日々のことを、日本海を眺めながら帰省する車窓を、鬱屈としていた青春を想い出しているのかもしれません。

面白い本の購入費用になります。