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きいろちゃんの短歌まとめ 09

不意打ちのパクチーみたいな恋だったどうして言ってくれなかったの

全力で生きることなほ難しく時おり休み犬を撫でたり

年下のちひさきあなたへ教えたるきつとわたしが先に死ぬこと

あの人が抱いた衣服を無造作に洗濯籠に放り込む夜

猫による洗脳である見返りを求めず尽くす幸せがある

愛なんて大仰なこと言うよりもたまにプリンを買ってきてよね

頭が高い わたしは今日も朝起きて満員電車に乗れたオンナぞ

タワマンに住んでも月はまだ遠くわたしあなたと三階がいい

遠き日の破瓜の痛みも忘れゐて私は母にならぬのだろう

窓際に置いた小壜に月明かり満ちてわたしは眠りに落ちる

身の丈に沿って生きたい小さめのバッグに物は入り切らない

お父さん、嘘つきだったねありがとう 本当は無敵じゃなかったんだね

はつなつの向日葵畑の幻想が消え去るまでは隣にいます

多すぎる業務を席へ置いたままタイムカードも切らずに海へ

この街の不幸をすべて捏ね丸め黒い子猫に作り替えてる

夢ならば起きたら終わる 本ならば閉じたら終わる 死んだら終わる

人類は火を忘れてくIHヒーターで煮込むシチューも美味しい

マンションで飼育可能な最大の動物としてわたしはいかが

ひと時の晴れ間のやうに君が来て博多みやげを渡して去れり

ルナルナを共有するより盈月を共有できる恋人がいい

紀伊國屋書店の袋を持って新宿を歩く時しか得られぬ栄養

今度からミートパスタに納豆を合わせて食べる君の真似する

夜夜中微かに聴こえる鳴き声よ 冷蔵庫きみも生きているのね

この歌もあの小説もわたくしのためのものだと信じて生きれば

尻尾だけ残されているプレートでエビフライらの不在はひかり

数独の升目を埋めていくように生きる 時おり使う消しゴム

満たされた洋盃(グラス)のなかでひつそりと人魚を飼つた少年時代

故郷の土には龍の鱗など埋まっていたが、今はもうなく

エゴとエゴがぶつかり合って爆発し生まれたものがこの宇宙です

淋しさといふスパイスを振り掛けて初夏のモヒートかくまで苦し

色々な形を見せる月だから今夜いっしょに見たいのですと

恋人と飲めば0キロカロリーのお酒の名前を劣情という

雨上がる 傘は武器へと意味を変えぼくらは帰途でサムライになる

ひとつずつ次元を昇り宇宙とか理解した日も食べたい肉じゃが

きのうまで穴場だった定食屋にTikTokerの気配がしており

コンビニでいつものチョコを買うあなたを見つけて喜ぶいつものわたし

背の順に並べ端から食べていくアスパラガスよ運命を知れ

罠だった 強く賢く美しく育ったわたしに「隙がないね」と

いいニュースも悪いニュースも聞かないでぬか床で眠るトマトを思う

いつの日かあなたの事も消化する わたしは上位捕食者として

跳躍の能力を隠しカンガルーは初夏の午後におじさんになる

一昨年に他人だった友達と恋人だった友達と飲む

昔より自由で、やっぱり不自由で 権利があっても飛ばない天使

本日も茶色しかない弁当に抵抗として緑のバラン

ツナ缶があれば生きれて東京で見る満月は他人行儀で

丁寧に生きていきたいと願ってもまた包装紙が破れてしまう

多目的トイレの中でひとしきりええじゃないかを踊って戻る

鶯の声だけ頼りに引っ越したばかりの町を歩いた土曜

仮初の恋人として始まったあの日からちょうど十年が経つ

最初からやり直してもまた君とダメになりたい朝五時の松屋

ヨシ!これで君と私が出会わない世界に分岐したのね 夏は

一斉に飛び立つ鳩には見えたのか桜の香を嗅ぐ浮遊霊たち

すこしずつふたりのルールを増やしてく 喧嘩をした日は近所の寿司屋

悪い癖 言葉の裏を妄想し勝手に泣いてさよならを言う

ややあってクリームブリュレのカラメルを割って休みは終わってしまった

百年後わたしのことを気にかけてくれたらいいなと白百合の露

「十九時に繁華街の駅前でこちら黒髪スーツです」どれ?

偏愛を集めてカフェを開きたい 古書、水晶、猫、紅茶、謎、君

おそらくは隠喩であろうあの虹も 別れを告げる手紙を送る

向日葵のようなひとにはなれないが明日もわたしは黄色を纏う

あの人も月を見上げているだろう 連絡先は消してしまおう

やわらかな獣性だった 眠るときわたしを掴む腕のつよさは

春雨に耐えず桜は散りぬるを曇る眼鏡に張り付く別れ

寂しさの成れの果てのぼくたちはアンモナイトの小さな呼吸

つまらない私ですけどおにぎりのレパートリーは五十あります

一番の番号札を受け取ってあなた地獄へ行くのね(後でね) 

だいたいは終わらせるために付き合ってただ果てるために挿入をして

エンディングみたいな歌を背景に駅へ駆け込む四月三日は

楽しい日はつぎの日さみしい またねの魔法を信じて起きる

遠くまでお鮨を食べに行くんだよ そうだよひとりで生きてけるから

繰り返す「なんで?」を高く積み上げて届くだろうか君の星まで

催花雨にほころぶ私の肉体にぽつんと咲いた君の痕跡

ひと以上神様未満のわたくしは未来だけしか変えられなくて

たった十日遅く生まれたあの人が下級生らしい眩しさで手を

企画部が桜あんぱん買い占めて社内の一部で春が渋滞

花霞 思えば遠く来ましたねせかいが二人きりのようです

もんごりあんわーむがむしゃむしゃしているよるるるるうたをらららたべるよ

人生のアウトラインに描かれないケーキセットを食べる(必要)

片方の羽を無くした天使だし プッチンプリンのぷっちんが下手

しあわせをしやわせと言う人だった しやわせにしてやれなくてごめん

わたしたち始祖鳥だった 子をなさずここで進化を止めてしまおう

もう修羅場は明けましたかと猫が来て猫砂の上で踏ん張り出した




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