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【読書記録】美少女奇譚/薔薇館の神々(北原綴)

「北原綴」という作家をご存知でしょうか?
と偉そうに書き出してみましたが、私自身先日古本屋のチョット=オタカイ=ゾーンを漁っていたときに(どんな本棚かと言うと、塔晶夫名義の虚無への供物が2〜3冊並んでいるような棚です)、タイトルが気になり手に取ったという、面白みのないきっかけで知っただけなのですが。

絵本や童話を発表しながら、今回取り上げるような「美少女奇譚」「薔薇館の神々」――タイトルから想像するような、ロリータ文学でありゲイ文学(しかもエロ描写盛り盛り)――作品を出版し、そして偽札事件と強盗殺人により無期懲役刑になり服役している、とんでもない経歴の持ち主です。

作品はいずれも創林社という出版社から刊行されていましたが、この出版社自体、一連の事件のせいで社長が逮捕され倒産してしまったようです。

そんなわけで、もちろん作品は現在一般流通にはのっておらず、古本で探すしかない状況です。

※Amazonで「薔薇館の神々」が2万円くらいで出品されていますが、メルカリや実店舗だと流石にもうちょっと安く手に入るよ!これだからAmazonは……!

美少女奇譚

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現代のロリータ物語
歌手志望の美少女<のん子>と宝石商をめぐるエロスの舞い。近親相姦、少女姦、屍体嗜好など、鬼才・北原綴が「薔薇館の神々」につづき放つ、瞠目のセミ・ドキュメント書き下ろし長編小説。
(「美少女奇譚(創林社)」帯より)

発行順ではこっちがあとなのですが、先に読んだのでこちらに。

帯に書いてあるとおりの、現代(昭和)のロリータ物語。この場合のロリータは令和の私達が想像するようなロリ……でもあるけれど、どちらかというとナボコフの「ロリータ」のほうが近いでしょう。ロリータのヒロインがドロレスであるように、美少女奇譚のヒロインはのん子なのです。

のん子は想像も出来ないような田舎で生まれ育ち、その美貌を悪い大人にたまたま見い出され都会に連れ出されます。その年12歳。宝石商をしている主人公は、その昔歌手やら芸能人やらを売りだすような仕事をしていたこともあり、その美しい少女を引き取ることになります。のん子を引き取り、同居するのにあたり、一緒に住んでいた恋人は呆れて家を出ていってしまいます。2人だけの生活で何も起きないわけもなく、当たり前のように少女と主人公は肉体関係を結び、彼女を歌手として売り出すわけでもなく淫蕩な生活に溺れていくのでした。そして2人の行き着く先は……。

何はなくとも、少女姦のリアルな描写がヤバい。私はポルノ小説を読んでいるのか?(しかも相手が12歳って、これ逆にエロのレーベルでは書けないよ、文学の顔してるから許されてる)と思うような熱心な描写。しかもこれが「セミ・ドキュメント」ってどういうこと……?(困惑)のん子の瑞々しい若い肢体を貪る中年の図が、生々しくも浮かんできます。

この主人公、哲学かぶれで哲学の話題で話をけむに巻くことが多いのもかなり目に付きます。あ〜、こういう男いるよね、というのはさておきながら、「12歳のロリと堕落セックスにふけりながら何言ってるの?」という気持ちで一杯になること請け合い。
哲学の話題だけではなく、詩の引用や自作の詩が多いのも頭に残る。これも「12歳のロリと堕落セックスにふけりながら(以下同文)。

物語冒頭から、結末後の描写で始まる作品なのでここに書いてしまいますが、主人公は最終的にのん子を殺し、バラバラにし、なんなら冷蔵してあった彼女の女性器部分だけを解凍し<使用>したりもします。もちろんそんなことは明るみになり、逮捕されることになります。刑務所の中から昔のことを回想している――そんな作りの作品です。

要素だけを抜取れば、こうハードでダークでうええ〜〜〜となりそうなものですが、読み応えは決して悪いものではありません。どちらかというと、少女が男に都合が良すぎるほうが鼻につきます。

孤独な男には、こう都合のいい天使のような娼婦であるロリータが必要で、しかしそれは一生を共にし救いになるような存在では、決してないのです。

薔薇館の神々

美少年とジャズメン、そしてゴーゴーダンサーをめぐる危険な関係のブルース。60年代の懐かしのビートにのせて、ホモとミュージシャンの世界を活写する鬼才北原綴のセミドキュメント長編小説、獄中書き下ろし700枚。

最初のページの第一文からインパクトの塊だったので見てください。

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HOMO!

こういう言語センスが昭和の俗っぽさで、今読むと面白く感じてしまうのですが、私より上の世代的にはどうなんでしょうね。ジャズバンドのリーダーをしている主人公ですが、バンドメンバーたちと話すときは言葉をひっくり返す(まさにザギンでシース―みたいな)ようなワードセンスです。

そんな彼らが新宿歌舞伎町のジャズ喫茶「ポニー」でラリりながら管を巻いているときに、たまたま隣にすわった美少年「薫」との出会いが運命を狂わせるのでした。女とも男とも言い切れない、まさに中性的な美少年。その場では声をかけることも出来なかった主人公でしたが、栃木での出稼ぎの際にたまたま入った喫茶店で運命の再会を果たします。そして今度こそ美少年「薫」に声をかけ、そのまま自分のバンドのバンドボーイに誘う……どころか一気に肉体関係!同居!2人の彼女(2人?)と同時交際しつつ薫と同棲!薫を歌手にすべく奮闘!薫ラブ♡でありながら2人の彼女と♀♀♂の3P!なんだこれ!!!

こう書くとかなりただのポルノBL小説なのですが(実際、主人公と薫の性行為の描写も強い)、いやポルノBL小説かもしれない……。

閑話休題。主人公たちが愛用していた歌舞伎町「ポニー」、これは実在したお店です。コマ劇場近くのビルの地下一階にあったようです。コマ劇場も今となっては存在しないわけですが。山尾悠子の短編集に京都の喫茶店がたくさん登場する作品があるのですが、あれを読んだときも今となっては存在しない店が多く、とても寂しい気持ちになりました。文学の中にだけ残っている名店。今私たちが当たり前に通う店も、誰かが作品に登場させて、30年後、50年後にその作品を読んだ人が今の私のように寂しく思うのでしょうか。まあ、この記事を書いているのはいい喫茶店ではなくドトールなのですが(ドトールも好きですよ!)。

そんなこんなで、稀代の美少年を歌手デビューさせるべく奮闘する関係者。しかし、当の薫本人はあまり乗り気でもないようで、「オニイサンとえっちしてるほうがいい」とのたまう始末。主人公本人も、2人の彼女との進退問題に薫の浮気疑惑とプライベートはひっちゃかめっちゃか。そして……。

薫と主人公という男同士のカップルが(出版当時なら今よりもなおさら)目に付きますが、この物語を牽引しているのは主人公の2人の彼女であるミミとまゆみです。ミミはゴーゴーダンサーとしてかなり売れっ子で、まゆみは歌手。2人はお互いのことも知り合っていて、どちらも主人公のことを愛しながらこの二股生活のことを許容しています。彼女たちは薫を売り出すために小さな芸能事務所を立ち上げます。主人公が薫とともに住むために借りた、薔薇あふれる庭のアパートの1部屋――ゆくゆく「薔薇館」と呼ばれるアパートの一室を事務所として借ります。

二股を許し、薫のようなわけのわからない美少年を連れ込んでも許し、そして最終的にあんなことになっても、彼女たちは強く生きる。

薫という美少年が、ただひたすら主人公に都合がよく(最後以外)セックスシンボルで受け身なキャラクターに描かれているのに対し、女性陣は逆に自分の生を、人生を満喫しているように描かれます。二股を許容してくれる時点で都合がいい気もしますが。

ジャズの素養がないのでそのあたりはいまいち情景が浮かばなかったのが残念なのですが、それでも面白く一気読みしてしまう作品です。ゲイポルノだなあ、と思って読んでいたので、途中から逆に「えっ、女性讃歌じゃん」とびっくりしてしまうのでした。

おわりに

北原綴こと、武井遵の半生についてはこんな本があるようでして。

こちらも気になるので、近々読もうと思っているのです。

「薔薇館の神々」も獄中小説で、発表されている作品は1985年〜1987年という短期間のみ。若いうちから犯罪行為に手を染め、逮捕歴もある作家が、童話(全国学校図書館協議会推薦図書となったこともある)を書き、同時に少女姦にポルノみあふれる男性同性愛作品を作品を書き、そして偽札と強盗殺人で無期懲役になる。

どうやら、薔薇館の神々については愛蔵版の出版の話もあったらしく、調べればその予定だった表紙イラストなども出てきます。それがめちゃくちゃ<イイ>んだよなあ〜〜〜〜。もう出版されることはないのでしょうが、なんとも空しい気持ちになってしまうのです。

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