私、いま教習所で働いてます

出勤してすぐ、電話が鳴った。
「〇〇の母なんですけど…」
教習生の母親からだった。
息子が事故に遭いまして。と続ける。教習が受けられないから運転の予約をキャンセルして欲しいとの事だった。
「もう教習は受けられないので…」
受けられない?不審がりつつも私は「朝の通学途中で怪我をしてしまった」のだと思い、でも怪我だったら教習期限もまだ余裕があるので、
「回復したらまた予定表をだして予約をとれば大丈夫ですよ。お大事にして下さい」
と言った。しかし、母親は焦りつつはっきりした声で、
「いえ、もう受けられないんです」
とぴしゃり。何か悪いことでも言っただろうか。
ああまた精算処理をかけないとだ。可哀想になぁと思った。一応、担当に報告しないとと思い、メモ書きを残して置いた。

夕方、担当から私に声がかかった。あの教習生は一体どうなったんだろう。昼間のクレーム電話の疲れもあって朝の記憶がうっすらしていた。

「さっき電話したんだけど、おじいちゃんが出て。耳が遠くてもごもごしてたんだけど、首を吊って亡くなっちゃったって」

そう言われて渡された原簿。日付スタンプから、昨日までちゃんと通ってたのだ。写真に写る顔も何度も見たことがある。

最期に教習した教官も、「よくしゃべる子だったんだけどねぇ」と寂しそうに呟いた。

私も頭がぐらぐらして「とにかくご家族が落ち着いてから、解約処理などの手続きにしましょう」としか言えなかった。

18歳。志望校の進学先に落ちてしまったという。

真意は分からない。その子の写真を何度も何度も見た。なんで助けてあげられなかったんだろう。なんで、なんで。

「苦しみや悲しみは本人にしか分からない」

そう思うからこそ、人前では気丈に振舞っていたかもしれない。母親が事故としか言わざるを得ない理由も、心の中でじわじわもがき始めて、なんでとしか言えなかった。(そのあと別の教習生の母親から、「階段で転倒し尾てい骨を骨折したので暫く通えない」という電話がきて更に萎える)

家路に着いて、「可哀想」と言いながら涙が溢れた。高齢者講習に当日来なくて連絡したら、奥さんの電話から「主人が亡くなってた」ということは何度もあった。
でも、若過ぎやしないか。命を絶つのが若過ぎやしないか。

18歳の4月。その時私は、親の莫大な貯金を崩し初めての東京生活、初めてのお芝居の勉強に胸を踊らせていた。不安よりも期待の方が大きかった。
当時と考え方が変わって「しっかり働きながらやりたいことに打ち込む」という今に、大きく大きく突き刺さった。

その時友人からLINEが来て、今度会う約束を付けてくれたのが本当に嬉しかった。でもTwitterでは別件でひとり荒れに荒れた。

こんな時、会いたい人にすぐに会えればと思った。

いつか誰かが知らないうちに死んでしまうかもしれないとかではなくて、好きな人達に会いに行くことでこれからも繋がりを持っていたい気持ちで満たされたのだ。
会いたい人が近くにいる恋人達はいいよなぁとか思いながら。私が大切な人たちほど、遠くにいるし、会いたくても互いの都合で会えない。
「スカイプで済ましちゃえば?」と思ったことがあった。「やっぱり会って飲んだ方がいいでしょ」と返されてそれには勝てないなと考えさせられた。

だから暇を見つけたら会いに行く。どんなにウザがられても(さすがにやりすぎはまずいけど)
私の大切な人たちの話を聞いて、自分の中に取り込んで良い作品作りが出来て、それが現実化できれば尚更最高だ。去年もいくつか舞台化されて本当に嬉しくて、全部見に行けないのが残念だった。
今までは反面教師のような作品ばかり作ってて「人間って〇〇」みたいなことしか出来なかった。
孫の顔がみたいとか親の気持ちよりも人間としての本能がそっちなんだ、私は。

救うとか救われたいとかじゃなくて、素直に「会いたい」という欲に。「また来年見に来てよ」って久しぶりの東京の舞台で言われた。来年しか会えないのかよ!(笑)と思った。来年必ず行けるなんて確証はないのに。七夕みたいなことやってたらいつしか本当に会えなくなるんだろうか。

「SNSとか繋がってないと疎遠になっちゃうものだよ」

本当にそうだった。槇原敬之の「遠く」が頭の中に流れた。成人式もそうだったけど、同窓会が嫌いだった。人の好き嫌いが激しすぎて、自分の素性を全体に知られたくなくて。大して仲良くもない人たちに久しぶり〜なんて言われたくなかった。

「アシタカは好きだ。でも人間は嫌いだ」といったサンの気持ちがよく分かった。

会いに行こう、ヤックルに乗って。

何の為に働いてるのか分からないって言われた時、どうフォローすればいいのか自分でもあやふやになったけど、
「大切な人に会って、その中で作品作りがしたいから働く」ってかなり自分の為にやってる感じがしてこれが答えだと思うんだけど、本当に感謝の気持ちしかないから明日の仕事も頑張ってきます

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