見出し画像

ある夏のこと

あまりに幸せすぎて、寂しくなってしまうことがある。

つい最近、高校時代の「推し」と再会する機会があった。
1年間だけ同じクラスだった、笑顔が爽やかな男の子。
私は密かに(もはやみんなにバレバレだったようだけれど)彼を見ては、
素敵だなあ、と思っていた。
話すことなんてほとんどなかったけれど、
イベントで一緒に写真を撮ってもらうだけで十分だった。

同級生より1年遅れて大学生になって初めての夏休み、
私はいつもよりちょっとだけハメを外して彼をご飯に誘った。
ほとんど話したことがない人
ましてやかつて推していた人を誘うだなんて、
今までの私だったら絶対にしないこと。
「大学生の夏」が私を少し大胆にさせた。

待ち合わせの時間の少し前にお店の前で待っていてくれたり、
お肉を焼いてはせっせとお皿に運んでくれたり、
小さく頷きながら静かに話を聞いてくれたり。
スマートに少し多く払ってくれたりもした。

実際に目の前にいることが信じられなくて、
何度もまじまじと見つめては「そんなに見る?」って笑われて。
…あれ、もしかしてこれは夢?幻?
10分に1回くらいそんなこと思ったりして。

勝手にアイドルみたく思っていたけれど、
高校の頃の先生とか友達とか、お互いが知っていることを話していると
やっぱりクラスメイトだったんだなって思う。
もしかしたら、推している、で自分をごまかしていただけで、
ほんとは好きだったのかな、
なんて思い出を改ざんしようとしてしまったりもする。

帰り道。
夜の匂いがするぬるい風の中、のんびり家まで歩く。
さっきまでのことを思い返しながら、
今日のことはずっと忘れないだろうなとしみじみ思う。

これが青春なんだって、思う。
夏が始まって、またひとつ終わっていく。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?