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映画『シノノメ色の週末』感想─平成ヒトケタ生まれの女性におすすめ、20代後半あるあるに共感

 東京・池袋のシネマ・ロサにて、2021年11月5日公開の映画『シノノメ色の週末』を一足先に鑑賞。都会に生きる20代後半が陥りがちな人生の岐路を、アングルにこだわった映像と「女子のノリ」で描いた良作だ。

閉校した母校という装置でタイムスリップ

 篠の目女子高校の放送部だった3人が、母校が取り壊されると聞いて10年ぶりに集まる。卒業するときに埋めたタイムカプセルを探そうと、時が止まったような校舎に忍び込むところから物語が始まる。

 廃校になった母校に裏門から侵入+制服に着替えるというスイッチによって、週末のたびに高校生に戻る3人。その無邪気なはしゃぎっぷりに、男性の私ですら女子高生の気分になる。 平成一桁生まれの女性なら、きっとリアルに懐かしい青春を思い出すのではないだろうか。監督・脚本の穐山茉由氏が女子高出身だからこそ、描けた空気感と言える。この雰囲気は、男性にはなかなか演出し難いだろう(特に学生映画に熱中していたようなタイプには…)。

女子高を卒業して10年、美玲(桜井玲香)はモデルを続けているが、いつの間にか雑誌のグラビアを飾ることはなくなった。そんな中、放送クラブで一緒だったアンディ(三戸なつめ)から、部長だったまりりん(岡崎紗絵)と3人で、取り壊しになる母校にタイムカプセルを探しに行こうと誘われる。

超マジメで目立たなかったまりりんが広告代理店に就職し、デキる女ぽくなっているのを見て焦り、相変わらずカメラ好きサブカル系のアンディにホッとする美玲。裏門から忍び込んだ3人は、廊下を走り、笑い転げ、やりたい放題。結局、タイムカプセルは見つからず、また週末に集まることになる。何にでもなれると思っていたあの頃の自分に戻ったつもりの3人だったが、事態は全然! 違う方へと転がっていく──。

(映画『シノノメ色の週末』公式サイト:あらすじから引用)

実に東京的な20代後半3人組

 本作は時が止まった母校での週末と、容赦なく時が進む普段の平日を交互に描くことで、自分の可能性の限界を意識せざるを得ない、20代後半の葛藤を描き出している。仕事も生活も、勢いだけで乗り切れなくなってくるタイミングである。

 田舎町出身の筆者からすれば、メインの若者3人は、実に東京的なキャラクターだ。東京の典型的な20代後半と言えるかもしれない。読モをきっかけに28歳までモデル業を続けられる美玲も、大学を出て広告代理店で忙しく働くまりりんも、会社員として働きながらフォトグラファーになろうか迷うアンディも、夢を追えてしまう環境にいるからこそ悩みが生まれている。以前テレビ番組でマツコ・デラックスが指摘したように、東京はこじらせたままでも生活できてしまう。

 冒頭の場面で、スーツ姿でポージングする美玲と、撮影するカメラマンのやり取りが象徴的だ。カメラマンにOLの経験があるかと問われ、美玲は「高校を卒業してからずっとモデルです。バイトしながら」といった旨を答える。彼女はモデルの需要が十分にあり、アルバイトの時給も高い東京ならではの存在と言えよう。明るい茶髪+派手めメイク+グレースーツという違和感のある装いの狙いは後半に明らかになるが、要は”そっち系の広告”に使われる写真だと、美玲は気づかずに肖像権の権利書にサインをしてしまう。全盛期が過ぎた女性モデルに降りかかる現実であり、夢を追い続ける難しさが伝わってくる。

 いよいよ校舎の解体工事が始まる最後の場面で、美玲がある行動を取る。筆者には、美玲たちが、もはや擬似的にも戻れなくなった過去の自分たちに踏ん切りを付ける行為に見えた。

幸運にもトークイベントに巡り合って

 全体的に爽やかな作品だが、惜しい点は、物語の流れがやや無難な点か。サスペンスではないにせよ、だいたい展開が読めてしまった。一方で、下手な波乱要素がなく安心して観られるので、疲れて癒やしがほしいときにおすすめだ。

 鑑賞当日は、映画も公開直前イベントの存在も知らず、晴天に浮かれて散歩していたら劇場のポスターに誘われた。幸運にも当日予約で座席を確保。イベントには三戸なつめさん、桜井玲香さん、穐山監督の3人が登壇し、ブーツの脱ぎ方などガールズトークに花を咲かせた。合言葉は「タイムカプセル」。楽しい時間をありがとうございました。


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