「一点モノ」という葛藤
音楽・文学・漫画・アニメなどと比べて「美術」が広く普及しないのは何故でしょう。
私は、美術作品の持つ「一点モノ」という性質が関係していると考えます。
「物体」なのです。
パフォーマンス、デジタルアートなど、そうでない美術作品ももちろんありますが。
ここでは「物体」のあるアート、絵画や立体作品についてのことを。
例えば音楽には、物体がありません。形がありません。いくらでも、複製して増やすことができます。音源とか、動画とか。
私も好きなミュージシャンのCDや音源を部屋で流しながら生活しています。
生演奏も、「たった一人のために、一度きりの演奏」でない限り、通常のコンサートやライブには客席がいくつもあって、何度も開催すればそれだけ「届ける」ことができます。
文学、漫画やアニメも同じで、複製していくらでも増やすことができます。
価格も安く、誰でも買うことができるのです。
なにより重要なのは、複製しても「そのもの」であるということです。
小説はいくら印刷しても、それは全て「本物」です。
「物語」には物質がないからです。
形のない作品は、「本物」を増殖させることが可能なのです。
対して多くの美術作品は物質であり、基本的に一点モノなので、一つの作品は一人の人しか持つことができません。
また、一つのものを作るのに時間も材料費もかかってしまうので、どうしても値段が高くなります。
音楽・文学・漫画・アニメ等に比べて「美術」が世の中に普及しない理由はどうしてもここにあるのではないでしょうか。
絵画の中でも、私が専攻している「日本画」は一点モノとしての性質が非常に強い絵画です。
日本画は、写真で撮影しても、印刷してコピーしても、全く違うものになってしまいます。
日本画に使われる岩絵具の粒子は、天然の石や鉱物や、ガラスを砕いたものでできているので光を反射してきらきら輝きます。
絵の具を厚くのせる「盛り上げ」という技法もよく使われ、立体的なマチエールは日本画の特徴的なところです。
日本画をみる機会がありましたら、ぜひ実物を近くでご覧になって写真には映らない触覚的なマチエールに注目すると面白いと思います。
(触っても楽しいのです。触ってはいけませんが笑)
絵画の中でも、水彩画や鉛筆画、アクリル画などと比べて、日本画はかなり「物質的」な絵画だと思います。
立体作品ならば、平面とは違って写真で伝わることはもっと少なくなります。
「一点モノ」という特別感は大きいですが、そのぶん多くの人にとって「身近なもの」にはどうしてもなりにくいのです。
複製することができず、本物は一つしかない。
どれだけ気に入ったものができても、それはひとつしかない。
一度発表したものは旧作となり、「届ける」ためには毎回新作を作り続けなくてはならない。
日本画を描いていて自分でも葛藤するところが多くあります。
自分がしているジャンルが、「芸術」という大きな括りの中でどのような特性を持つものなのか、を客観的に分析することで様々な発見があります。
このことについては、もう少し掘り下げたいのでまた続きを書きたいと思います。
急に暑くなりましたので、どうかお身体ご自愛ください。
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