起業することに負けた私

「私はカラーセラピストをしています」
「私は、ハンドメイド作家をしています」
次は私の番だ。
「私は、専業主婦です」
控えめに、小さな声で自己紹介した。

第一子を妊娠し、育児休職中のことだった。
今まで、朝から晩まで働いていたのに、急に時間がぽっかり空いた。幸い、娘は手のかからない子で昼間はほとんど寝ていた。だから余計に、社会と関わっていない私がたまらなく嫌で、娘が寝ている間は、パソコンで育児休暇中でも何かできないか、探しまくっていた。

そんなときに見つけたのが、先のママ向けのコーチングセミナーだった。そこで出会ったママさんたちは、同じように子育てもしているはずなのに、起業をし、仕事をしている。しかも、聞いたことのない仕事の名前ばかりだ。イキイキしているなぁ、すごいなぁ。
その時は、そう思っただけだった。

あれから数年経ち、第二子を出産した。上の娘と乳飲み子、一人の時とは違う忙しさはあったが、働いていない、自分でお金を生み出すこともできない、社会からも離れている、そんなことばかり考えていた私の心の中はぽっかり穴が開いていたままだった。

そんな時、Facebookで前職の仲間の投稿を読んだ。
「ベビーマッサージ教室です!」とかわいい笑顔の赤ちゃんと一緒に写真に写っている。
なに?ベビーマッサージって何?え?何をするの?
私に、ビビッと衝撃が走った。すぐに、前職仲間のNさんに話を聞かせてくれとメッセージを送った。
子を託児に預け、Nさんの自宅へ向かった。Nさんのベビーマッサージ教室は自宅だった。
自宅で?教室?知らない人を家に入れるの?
私の頭の中は好奇心で一杯になっていて、聞きたいことは山ほどあった。

しばらくして、Nさんは「養成講座をしてくれる、私の先生」に変わった。
そしてほどなく、私はベビーマッサージ教室の先生になった。

ずっとお家で赤ちゃんと二人きりでいるママの、一歩外に出るきっかけになる、そんな教室にしたかった。市の広報誌に募集を載せたら、少しずつだが、参加してくれる親子が増えてきた。
しかし、売り上げは、というと、てんで駄目だった。
私は「次の予約はどうしますか?」の一言が言えないのだ。自分が言われると困るから、相手にも言えない。全然ダメだった。
「もっとほかのアイテムを取り入れれば、継続につながるかも!」と、同じ協会の、ベビーマッサージとは別のアイテムを取得した。

ベビーマッサージの教室をして、ママと赤ちゃんに会えるのは楽しいし、やりがいもある。ただ、その準備や会場の確保、当日の進行、そして帰宅後のフォロー、とやることは満載、それに見合う対価を頂けているか、と言ったら、残念ながら当時の私のやり方ではマイナスだった。

同じ頃、ベビーマッサージ仲間の先生は、イキイキと、楽しそうにブログをアップしている。その先生の教室はいつも満員。
どうして?私のお教室には来ないの?
嫉妬ともとれる、嫌な気持ちが私の中で渦巻きはじめていた。このままではよくない。

そうだ。私にはSNSでの集客の力が足りないんだ。
今度はSNS集客セミナーに行った。そのセミナーでは、とりあえず手あたり次第フォローをしろ、いいねを押せ、というアドバイスだった。講師の言う通り、会ったこともない、起業をしている人を手あたり次第フォローし、知らない友達が100人単位で毎日増えていった。いいねも、ろくに記事を読みもせず、バンバン押した。
お茶会があると聞けば、名前を売るためにいそいそと参加しにいった。
さて、私のベビーマッサージ教室にお客さんは来てくれただろうか。

来るわけがない。
そんな、小手先のテクニックでお客様が来てくれるはずがない。今なら、冷静に答えらえるのだが、当時は必至、藁をもすがる思いでいろんなことを試していた。

一人でも多くのママと赤ちゃんに来てほしい。最初はそう思っていた。でも、同業の先生のブログを見ては焦ってばかりいた。私も「私の教室はいつも満席よ」と周りに見せたかったのだ。勝手に人と比べ、「できない私」を見せたくないために、いろんな武器を装備してみた。でも、的外れな武器ばかり持っていて役には立たず、結局お金だけがどんどん飛んでいったのだ。

Facebookの友達が知らない人に埋め尽くされていたのを見て、「私は何をやっているんだろう。それって本当に自分の為になることなのだろうか。」そう考えた。
顔も名前も知らない方は、お友達を外し、本当に面識のある人だけを残した。

私は、ママ向けのコーチングセミナーで出会った、キラキラしているママさんのようになりたかった。私もできるかも、と思ってチャレンジしてみて、気づいたことがある。

私が個人事業主に向いていないのだ。
起業なんて、甘いもんじゃない。成功している方は、見えない所で努力をしているはずだ。何かに頼ったり、すがったり、誰かのせいにしているうちは、絶対に成功しない。パートで働いたほうがよっぽど稼げる。

私は、本当のやりたいことを無視して、人の目を気にし「完璧でできる私」になりたかったのだ。そして、そんなことばかり気にしていた私は、「起業する」ことを甘く見て、負けてしまったのだ。

でも、それでいい。と私は思っている。
自分の弱い部分が見えたと同時に、大事なことに気付けたからだ。
人と比べる必要はない。比べるのは、過去の自分。

あの頃と比べてみても、今の私は、私らしく働けている。
大丈夫。そう感じている。

《おわり》

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