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【数学点描vol.37 TIMSS2019の結果公開】

すうがくぶんかの広報担当神戸です。ようやく花粉が落ち着いてきて、とても過ごしやすい時期になってきました。

今回の数学点描は国際的な学力調査であるTIMSS2019の結果から、算数・数学のテスト結果と意識・態度の関係について相関係数を求めてみたお話です。

数学点描vol.37 TIMSS2019の結果公開

少し前のニュースですが、2020年の12月に文部科学省が国際数学・理科教育動向調査(TIMSS : Trends in International Mathematics and Science Study)の調査結果を公表しました。

国立政策研究所(NIER)IEA国際数学・理科教育動向調査
https://www.nier.go.jp/timss/#TIMSS2019
IEA TIMSS2019 Highlights
https://timssandpirls.bc.edu/timss2019/international-results/

国際的な学力調査としてはOECD学習到達度調査(PISA)が有名かと思いますが、TIMSSの方が歴史としては古く、小学4年生と中学2年生を対象に、理数系の教科内容をどれだけ身につけているかのテストをしています。

TIMSS2019の結果を算数・数学のテスト結果を要約すると、

・算数(小学4年生)は平均点変わらず(593点)、順位は変わらず5位(※ただし、前回のTIMSS2015はより参加国は増えている49→58)
・数学(中学2年生)は平均点7点上昇(594点:前回との統計的有意差あり)、順位は1つあげて4位

TIMSSではテストの実施だけでなく、教科に対する意識・態度のアンケート調査も継続的に行っているのですが、そちらの方は以下の結果です。

・「算数・数学の勉強は楽しい」との質問に「強くそう思う」「そう思う」と答えた生徒の割合は、小学4年生77%(2%上昇), 中学2年生56%(4%上昇)※国際平均:小学4年生84%, 中学2年生70%
・「算数・数学は苦手だ」との質問に「まったくそう思わない」「そう思わない」と答えた生徒の割合は、小学4年生65%(3%上昇), 中学2年生40%(1%上昇)※国際平均:小学4年生69%, 中学2年生47%
・「数学を勉強すると、日常生活に役立つ」との質問に「強くそう思う」「そう思う」と答えた生徒の割合は、中学2年生73%(1%減少)※国際平均:中学2年生81%
・「数学を使うことが含まれる職業につきたい」との質問に「強くそう思う」「そう思う」と答えた生徒の割合は、中学2年生23%(2%上昇)※国際平均:中学2年生49%

これを見ると全体的に、学力も向上し、教科に対する意識・態度の方も概ね良い推移をしているといえそうです。ただし、意識・態度について、国際的平均と比べるとかなり低いことがみてとれます。
これはずっと言われていることなのですが、日本の学生は算数・数学の学力は国際的に見てかなり高いのですが、意識・態度の面では逆の傾向が見られるわけです。なので、資料の終わりにあるように、文部科学省からの提言も、日本の数学教育を改革しよう。もっと授業の魅力を高めよう、教科書を改善しようとなるわけです。
しかし、よくよく見てみると、実はこの傾向は日本だけのものではなく一般に「数学がよくできる国ほど、意識・態度はよくない」ということがわかります。これはなかなか面白い現象です。

ちょっと大雑把ではありますが、各国の数学の平均点と、数学が楽しいと答えた生徒の割合の相関係数をみてみると、中程度の負の相関!となります(ただし例外的にシンガポール(今回1位)などは数学の点数も意識・態度も両方高い)。これは今回の調査だけでなく、継続的に観察されていることです。つまり、日本でなくても数学ができる国は、数学に対してあまり良い印象を持っていないわけですね。

TIMSS2019における成績(各国平均)
https://www.nier.go.jp/timss/2019/result.pdf


日本の数学の指導法は、よく画一的だとか、応用に乏しいとか批判を受けたりしますが、私はそうは思っていません。日本とさまざまな国の教科書を比較したことがありますが、どの単元も日本の教科書の方が、生徒に考えさせる問題が多く、また説明も丁寧であることがわかりました。先にあげたシンガポールのものよりも、私の目には日本の教科書の方が数段良いように見えました。
今回のTIMSS2019やシンガポールの例を見て考えることは、算数・数学に対する意識を決めているのは、教科書や授業そのものではなく、生徒や学校を取り巻く環境や雇用などを含めた社会的な構造なのではないかということです。学校に全ての責任を押し付けるような提言ではなく、社会全体の問題として分析し、改善に取り組んでいく姿勢が必要なのだろうと思います。

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