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学習効果を上げる “Revoicing”

学習は共同作業

学習は、個人の独力で行われるものではありません。子どもは、コミュニケーションを通じて、わかり合ったり、共にできるようになったりしながら、知識を生成し、理解を深めていきます。

学習内容を丸暗記してしまうような勉強をしていたら、その知識は生きた知識として日常生活で使っていくことができなくなってしまいます。

学校教育の目的は「転移」

教育の目的のひとつは、学習したことを、日常経験文脈へ転移させることです。簡単に言うと、知識を、日常生活でたくさん活用できるようにすることです。そのようにするためには、子どもはどのような学習を目指していけばいいのでしょうか。

リボイシングって何!?

リボイシングという学習テクニックがあります。リボイシングとは、”Re”に”voice”が加わってできた言葉ですが、voice (声化)にRe (再)の意から日本語では「再声化」と訳されることが多い言葉です。単純には「オウム返し」のことを指します。

「リボイシング」、つまりオウム返しは大人でも子どもでも、対話中によく見られます。例えば、相手が発した言葉の意味が、よく伝わらないときなど、相手の言葉の中からキーワードだけを切り取り

「え?(相手が言った単語)?」

と聞き返すことがあります。さらには、相手の言葉だけでなく、自分が説明活動をしているときに、自分で同じ言葉を繰り返しながら、自分自身の言葉を「リボイス」することもあります。

この「リボイシング」と学習はどんな関係があるのでしょうか。

研究①「教師から小学生へのリボイシング」

教師対児童へのリボイシングについて、2009年の新潟大学の一柳先生の研究では、小学校の理科の授業に着目し、リボイシングの分析を行いました。教師のリボイシングには「言い換え」「要約」「精緻化」など、さまざまなリボイシングの種類があることがわかり、教師が思考を凝らしながらリボイシングを活用していることが示されました。

しかし、学力テストの記述問題で最もよい成果を上げたのは、児童の言葉を「言い換え」たり「要約」したりしない、ごく単純なリボイシング(研究論文上では「非誘導的リボイシング」と記載)をしている教師の授業であることが明らかになりました。

一柳智紀 (2009). 教師のリヴォイシングの相違が児童の聴くという行為と学習に与える影響 教育心理学研究, 57, 373-384.  (Ichiyanagi, T. (2009). How Do Teachers' Revoicings Affect Students' Listening and Learning?. Japanese Journal of Educational Psychology, 57, 373-384.)

研究②「教師から中学生へのリボイシング」

教師対生徒へのリボイシングについて、2008年の東京外語大学の田島先生の研究では、中学校の理科の授業に着目し教師のリボイシングの分析しました。そこでの結果も、一柳先生の結果と同じように、教師が短く繰り返すだけのリボイシングが多く確認された授業を受けた生徒の方が、学習内容をより応用的に理解していることが明らかになりました。

田島充士 (2008). 再声化介入が概念理解の達成を促進する効果―バフチン理論の視点から― 教育心理学研究, 56, 318-329.  (Tajima, A. (2008). Educational Intervention Based on "Revoicing" and the Understanding of Concepts : From the Standpoint of Bakhtin's Theory. Japanese Journal of Educational Psychology, 56, 318-329.)

研究③「子ども同士のリボイシング」

そこで、この学習効果を他にも応用できないかと考えたのが、筆者と、横浜国立大学の有元先生の2016年の共同研究です。(詳細は、以下書籍から)

研究では、子ども同士の対話に注目しました。教師のリボイシングに学習効果があることは前述の研究から明らかだったからです。小学3年生の漢字学習でのグループ学習を分析しました。

子どもは自分が解いた漢字テストの解答が正しいかどうかをグループのメンバーと話し合いながら丸つけをします。そのようなグループ学習を続け、そこで現出したリボイシング学習の定着率を分析しました 。

多くのリボイシングが確認されましたが、定着率の高い子ども

1.自身の発話の中で「自分の発話のリボイシング」が占める割合が高い

2.「自分の発話を他者にリボイシングしてもらう」回数が多い

ことが明らかになりました。

自分が説明をしているときに、友だちにリボイシングしてもらったり自分で頭の中を整理するために何度もリボイシングしながら説明を繰り返したりすることが、学習定着率を大きく引き上げることがわかりました。

くわえて、学習定着率の低い子どもの傾向も明らかになりました。学習定着率の低い子は、「他者の発話のリボイシング」ばかりしていました。言いかえると「リボイシング」ばかりする、相手の話を聞くだけの活動は、学習効果が高くないということです。

話を聞くだけの受動的な学習をすることは、グループ学習においても、効果があまり見られないのです。受動から能動へ変えていくプロセスに、学習の本質があると考えられます。

家庭学習へのリボイシングの活用の仕方

家庭学習ではどのようにリボイシングを活用すれば、よいのでしょうか。

リ ボイシングを家庭学習で応用させることは、とても簡単です。家庭学習の中で生まれる対話に「リボイシング」を意図的に混ぜ込めばよいのです。

注意点は「単純なリボイシング」を意識すること。

評価的な語尾を付けずに短く繰り返すだけの単純なリボイシングの方が「何か付加したくなる」モチベーションを引き出します。自分なりの理解の定着を図るためには、親の解釈による「よい」とか「悪い」とか、物事の正誤を決めつけずに対話を続けることです。

他者の解釈に影響されずに、自分で思考をまとめることが、家庭学習での深い学びを可能にします。このような「対話的で深い学び」をご家庭でも実践されてみてはいかがでしょうか。きっと学習の成果があらわれます。

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