【詩】夏は地下鉄に乗って   

脚をひろげて
少女が座っている
澄川の午後の光の中
脚をおおきく開いて
白いソックスをはいた
少女たちが座っている
 
手に手に
ケータイとコーラを
ミラーとブラシを持った
セーラー服姿の少女たちが
喋りながら
笑いながら
歌いながら
胯間を見せて座っている
 
移動する
青空
積乱雲
マンションビルの群れ
をバックに
少女たちが澄川から南平岸へ
いま大開脚で夏を横断してゆく
 
四股を踏むような姿で座っている少女たちの向いで
履歴書片手にわたしは〈かまわぬ〉いう屋号について考察している
いったい何がかまわぬというのか?
 
南平岸から平岸へ
地上からアンダーグラウンドへ
君たちの背景は
青空から疾走する闇へ
 
ほら、地下鉄の中、いま
首切りのジェットが飛んで行く
 
開いた窓からの、風がさらさら
スカートの中、ここちよさそう
そんなふうに無邪気に
大胯びらきで毎日やっていけたなら
どんなに風とおしがいいことだろう
って思うのは想像力の貧困かい?
 
でも、君たちはまだ知らないだろうけれど
やがて火刑の夏
そうさ、眼の眩む夏の綱渡りには
きわどい技術と忍耐が必要らしいのさ
 
幌平橋から中島公園へ
ドスコイ、ドスコイ、と君たちは四股を踏むが如くに準備体操
化粧も入念に
地下鉄は君たちの支度部屋
 
「まもなくススキノぉ、降り口は左側です」
ドアが開くや、どっと繰り出して行く君たちの今日のコースは
狸小路か大通公園?ゲーセン、ドンキに4プラ、マックにそれともブックオフ?
一方(君たちには関わりのないことだがね)
居酒屋〈かまわぬ〉ではわたしに皿洗いの仕事を与えないだろう
面接で名前の由来について質問できないわたしに謎は永遠に残されるだろう
いったい何がかまわぬというのか?
 
さて、今年の夏と
どう折り合いをつけようか
いずれ君たちにも訪れる
火刑の夏
 
ほら、地下鉄の中、また
首切りのジェットが飛んで行く







  *『びーぐる』4号(2009年)投降欄掲載

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