無い!からのリカバリー
ロバート秋山さんのクリエーターズファイルに出てくるウェディングプランナーは、発注漏れによって牧師が来ず、プランナーが牧師役をしてその場を切り抜けるといったありえないシチュエーションだったが、
実際、使おうと思ったら無い!という危機はあって、それはそれは背筋も凍るほどの恐ろしさなのである。
明日の席札どこですか
繁忙期、怒涛のどんでんが終わって明日のセッティングをする段階になって「あれ?明日の席札は?」
いつもだったらもうすでに手元に届いているはずだが、保管している予約課もきっと忙しいに違いない。そう思いフロントまで取りに行くと、
「え?! あ?! 席札?!」
これは完全に頭から抜け落ちていたに違いないリアクションだ。
補足をしておくと、今でこそ席札は印刷物だが、その当時は席札や招待状の宛名など、人の名前はすべて毛筆の手書きであった。印刷では失礼というか手抜きというかそんなニュアンスだった。(葬祭部門の花輪も含む)
明日の婚礼は5件。ざっと1500枚の席札が、無い。
急いで筆耕さんに電話。時刻は21時。筆耕はシルバーさんなのでもう眠いお時間である。とりあえず一回寝て明日の朝から書くという。いやいやいやいや、そこを何とかお願いします、半分でもいいから、、、
私たちセッティング班は、無いものはセッティングできないので帰る。
翌朝、会場に入ると高砂のステージの上に席札が所狭しと散らばっていた。
いや、散らばっていたのではない。乾かしていたのだ。(毛筆だからね)
もう乾いた?と確かめつつセッティング。で、どんでんの分は?
「今から書く。」
今から書くんかい!!
1回目が終わるまでにちゃんと乾かしてテーブルごとに左回りに並べてゴムで止めてねお願いだから。
明日のグラスを派手に割る
グラスは洗浄機で洗ったらすぐに1個1個拭き上げ、ラックに入れて台車に乗せる。背の高さほどに積んだ台車を会場内に入れる、その時。
バックヤードと会場の間には少しの段差があることは重々承知している、にもかかわらず台車をひっかけてガラガラガシャン、きゃぁー。
日本酒を飲む小さなぐいのみは1つのラックに81個入っている。ざっと見て5ラックが割れた。社長に報告に行かねばならない。
社長は例によって悪人相のうえ苦虫を嚙み潰したような顔で「ああ?」と言った。そして大きなため息をつくと「おい、明日間に合うのか?」と上司に聞いた。「いえ、足りないです。」
「おい、酒屋に持ってこさせろ。」
社長かっけー。
「おまえな、台車は押すもんじゃねぇ、引くもんだ。」←格言
上司に始末書を書くようにと言われた。かつら事件の時は始末書は書いてないがグラスを割ったら書くんだ、と思った。
存在感がゼロ過ぎる
結婚式の記録係といえばカメラマン。
撮影は写真と動画があるが、写真のカメラマンは時にムードメーカーとなる位明るく楽しくみんなの輪の中に入っていく。一方、動画のカメラマンはいつの間にか撮っていることが多く、なるべく自然な動きや表情を捉えるためにその存在感を消している。と思う。(個人的な見解)
この「いつの間にか撮っている」に慣れ、新郎新婦入場してしばらくたってから「あれ?ビデオ屋さんは?」となった事件。
ん?どこにいる?いない??
受注発注の原本を見直すと確かにビデオ発注済である。
それにしても気づくの遅くね?もうすぐ乾杯なんだけど。
ビデオ屋さんは乾杯の後くらいにやってきた。
さぁ、入場と祝辞撮ってないぞ。テイク2はできないぞ。
リカバリーできるのか?
後から聞いた話では、ゲストが撮っていた動画をかき集めて編集したそうで、何とか記録を残すことができたらしい。
思えば写真もつい20年前までは36枚撮りのフィルムで10本、360枚納品だった。もちろんその場でチェックなどできず、むやみに連写もできず、失敗も許されない、それはそれは緊張したであろう。今のカメラマンに「ネガで撮ってみて本番」というと怖すぎて絶対できないとの返答であった。
今出す料理をみな落とす
バックヤードの仕事にランナーというのがある。
厨房から会場まで料理を運ぶ、という裏方だ。
大概、神殿で巫女をやったらその後ランナー。巫女が料理だしてたらいかんだろうとの理由。
料理はテーブルごとの大皿で、和洋折衷8品ほどを次々と会場裏まで届けなければいけない。料理が遅れると披露宴も延びるので「早く出して!」とサービス側を煽り気味にサポートする。
しかしここでも私はやってしまう。今度は台車ではなくワゴン車だ。社長の格言をすっかり忘れワゴンを押してしまったがために、同じ原理によって段差でワゴン車をつまずかせ、その拍子に大皿の料理が前方に飛び出した。慣性の法則である。
今度は社長の前に料理長だ。
今出さなければいけない料理が、無い。
そりゃ、作り直すしかない。料理の順番を変え、次のを出してから作り直したものを出す。合間に床に散らばった料理と皿を掃除する悲しさよ。
終わった後、改めて料理長に謝りに行く。
料理長はこっちも見ずに「おぅ」とだけ言った。(かっけー)
シェフも料理をぶん投げる
そんな料理長もキレたら怖い。
アクシデントなら百歩譲ってくれるが、追加注文は別の話だ。
何かの展示会の軽食でサンドイッチを出していたら、担当者さんが「すみません、予定より人が多く来ちゃいまして、サンドイッチを追加していただけませんか?」と言ってきた。
私は無理だろうと思ったが「少々お待ちください。確認して参ります」と言って厨房へ行き、その旨を伝えた。
その時だ。そこにあった大皿料理が(たぶんエビチリ)私に向かって飛んできたのだ。厨房内がしーんと静まりかえる。
だって研修で教わったもん。。
お客様にはいいえと言うな。どんな事でも一旦はいと言えと。
断るにしてもワンクッション置くんだと。
今だったらバックヤードに一旦下がり、たばこの1本でも吸ってから「今確認して参りましたが難しいとのことで大変申し訳ございません、小皿に取り分けましょうか」くらいなことを平気でするが、その当時は未熟者のためバカ正直に厨房に確認するからエビチリが飛んでくるのだ。
「サンドイッチは手間がかかるんだぞ!材料もねぇし!」
いやエビチリはいいのか?作るの簡単なのか?と思ったが言わなかった。私もそこまでバカではない。
夕方、料理長から呼び出された。
恐る恐る行くと、「さっきは悪かったな」……ツンデレか。
お客様と厨房の間でサンドイッチなのは、まさに私なのである。
一瞬ないけど用意する
一瞬ないけど用意する話【無いからのリカバリー】
思いのほか長くなったので一旦終わります。
続きはこちら↓
【次回】ケーキ入刀の時にケーキがない/指輪交換の時に指輪がない/常温のビールがない
現場からは以上です。
※ちなみに見出しはあるある探検隊風に読んでください。
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