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”どんでん”を取り巻く風景

結婚式場でいう「どんでん」とは「どんでん返し」のことで、披露宴①から披露宴②へとセットチェンジすることを指す。
今はどうかわからないが私の見た昭和の終わりから平成のどんでんは、それはそれは修羅場だった。

どんでんタイムは容赦なし

同じ会場で一日に2~3回披露宴をする際のどんでん時間は1時間だった。主に150名~300名規模のパーティー。お開きになると酒屋さんも花屋さんも清掃さんも残飯バケツや食器ワゴンも一斉に会場に入る。高砂のステージに上りやたら煽るどんでん隊長(頼んでいない)と隊員たちは主に葬祭部門の漢たちであった。

1回目の披露宴が延びてしまうと、どんでん時間が短くなる。いくら急いでも普通のやり方では絶対無理である。次の披露宴が定刻に始められるように、私たちは様々などんでん作戦を練った。

片付けをしない

婚礼料理は昔ながらのお膳に加えてハイカラな折衷メニューが登場した頃。

流し卓・円卓、料理によって使うテーブルも違うので、どんでんで全替えとなる場合も。円卓から流しへのセットチェンジ辛い。。1時間あれば片付けもセッティングも普通にできるが30分しかない!そんな時は最終手段に打って出る。全替えを逆手に取り、片付けをしないのである。

会場はパテーションで2つに仕切ることができる。2回目の披露宴の人数が少ない場合は、会場の半分に円卓を全部押し込めパテーションを閉めてしまえばOK。

会場をフルで使う場合にはもう仕方がない。外に出す。
なるべくならやりたくない手段だが背に腹は代えられぬ。
食べ残しのお皿が乗ったままの円卓の天板をどんでん隊2人で持ち上げバックヤードから屋外へ。円卓の中央に木箱を置き、その上にまた円卓を重ねるのだ。(グラスは絶対割れるので急いで回収)なんとも恐ろしい光景である。

こうして五重の塔のような形に積み重ねられた円卓をご近所の人はどのような目でみていたのか知る由もない。

次の備品を会場内に隠しておく

あっという間に片付けが終わった(ように見える)会場にセッティング。これなら時短だ。

準備9割!ということで、前日から会場内に長テーブルを積み重ねてクロスをかけ、サイドテーブルにしておくとグッジョブと褒められる。片付けが終わり「テーブル!」といわれれば「はい!ここです!」とクロスをめくってみせるのである。

テーブルをまき、クロスをまき、お膳や箸やグラスをまく。
花屋さんが花をまき、酒屋さんが酒瓶をまく。
椅子をまいて、席札をまいて、引出物をまく。

業界ではセッティングする事を「蒔く」という。※漢字は合っているかわからないが、蒔くイメージ。手直しする時間はないので適当に撒き散らすのではなく1発できれいにまくことが重要。

しかし全部は蒔けない

和→洋の場合もあるが、洋→和のほうが大変なのは、セッティングに時間がかかるのだ。会席と違い2つのお膳いっぱいにのる和食の料理。小鉢・刺身・煮物・焼き物・揚げ物・お寿司・お赤飯・甘味まで、汁物以外は全部まく予定。だがしかし我々にはもう時間がない。10分押し、20分押し、、、ロビーがざわざわし始める。

「料理あと出しで~」「いいか~開けるぞ~!」
「ちょ、ちょっと待ってください、まだ引出物が合わな・・・」
「早くしろ~開けるぞ~」

引出物が1個余っている・・・半べそで迎賓BGMをかけ、お迎えしつつ引出物をチェックする。

お弁当タイム

本日2回目の披露宴の祝辞は若干長いほうがいい。なぜならスタッフは弁当を食べるからだ。施行→どんでん→施行 その間に休憩時間などあるはずもなく、社員食堂のおばちゃんが作ってくれた弁当をバックヤードで立ったまま食べるしかない。なるべく食べやすいおかず希望。

祝辞終わりの拍手を聞くと「今何人目?」「つぎ乾杯で~す」
!!!
サービス業の特技ともいえる早食い、終いにはご飯に水をかけて全部飲み込む強者も。次の瞬間「私はごはんに水をかけて食べるなんて事してません」という顔をしてシャンパンを持ち会場に一礼して入る。

音響ミキシング担当の私もできれば弁当を食べたい。祝辞が始まったらマイクの音量上げっぱなしでしれっと裏にはけて食べるのだ。

ちなみに司会者のお食事タイムはどんでん中。司会者だけはどんでんを一切手伝わず、2回目の始まる直前に涼しい顔で「お疲れさまで~す」と帰ってくる。きっとココスに行ってたに違いない。メイクもバッチリである。

ヘトヘトの向こう側

2回目の披露宴がほぼ無意識のうちにおひらきになるとダブルの片付けが待っている。ほら1回目のやつ、外に出したでしょ。
外はもう暗くなりかけている。早くしないと片付けも困難を極めるので、会場内と外、同時進行でお片付け。だいたい外は学生バイト君たち。

うん、若者がいつになくとても静かだ。

片づけを終えた我々、明日のセッティングをしようにも備品がないことは百も承知だ。夜中にグラスやシルバーを洗っているときの妙なハイテンションよ。心なしか学生バイト君たちの顔が引きつっている。用度課の人が引出物を詰めてくれ、予約課の人が席札をもって手伝いに来てくれる。
夜中0時を過ぎた頃、ヤバいテンションでキャッキャと騒ぎながら帰ると、決まって次の日近所からクレームが入ったと怒られるのであった。


GWなどは毎日毎日そんな状況が続き、今思えば結婚式場の黄金期と言えよう。式場はキラキラ光り、ゼクシィなる専門誌が創刊された。「夢のある仕事だね。きれいな絨毯の上で仕事できてイイね」と傍から言われたが、そんな人はゼクシィだけを見て、決してどんでんを見ないでください。

披露宴もどんでんも、ドンチャン騒ぎで無茶苦茶でドタバタ。
ヘトヘトなんだけどワクワクもしている。これは私の性分なのかもしれないが、野次馬根性というかお祭り好きというか。どんでん時にドリフの盆回りの曲をかけたりして部活みたいに遊んでた。

唯、どんでんのある風景に嫌なことが3つあった。
1)送賓の途中で椅子を片付け始める事
2)残った料理を手づかみで残飯バケツに捨てる事
3)新郎新婦の名前や顔を全く覚えていない事

どんなにヘトヘトでも良いのだが、これらは私を辟易させた。例えどんでんのない現場でも、この悪い癖は習慣になりつつあったからだ。この引っ掛かりに向き合わなければいけない。そう思いはじめていた。


現場からは以上です。

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