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転ばぬ先の2つの定力

スーパーに買い物に行くと、買い物カゴを持ち前を歩くおばさまが、何を思い出したのか、くるっと後ろを振り返ることがある。

さながらアクセル全開でハンドルを切るドリフト走行のように気持ちも視線も買い忘れたものに一直線のおばさまは、同じく買う物にしか注意を払っていない私とぶつかり「すみません」「すみません」となる。

謝って済めば大した問題ではないが、歳をとってくると気持ちに身体が追い付かず、足がもつれて転ぶ。

本日は、いつも転んで顔にけがをしてくる生徒さんが転ばないためにはどうしたらいいのか、太極拳の先生がアドバイスをしたというお話。

定力は2つある。

その生徒さんは長いこと太極拳を習っていて型は習得しているので、それを日常生活に応用すればよいのではないか。具体的には「定力」だと先生は言った。

先生の師匠の教えによると、太極拳の定力とはまず「方向性を定める」こと。自分が行きたい方向にしっかりとからだを向ける。目線や顔、首、上半身だけではなく、からだ全体で行く方向に向くことが大事。やはり太極拳は身体をひねらないことが基本中の基本なのだ。

そして行く方向にからだを向けたらすぐに動かない。そこで一呼吸、バランスを整え「からだの軸を安定させる」こと。これが2つ目の定力。

そうして初めて次の動作に移るのだ。太極拳の動作はすべてこの行程を踏んでいるのだと知り、私はその日の太極拳を「定力」を意識してやってみた。
①行く方向を定める ②軸を安定させる
確かにバランスを崩して「おっとっと」となることはなかった。

人生に応用すると

太極拳の定力を日常生活に応用する。先生らしい提案だし説得力しかない。高齢の母親にもぜひ話して聞かせたい。
それで私的にはいつもの癖で「定める力」を哲学的に応用することにした。

1.方向性を定める。
自分が行きたい方向、やりたい事を定め、からだも心もそれに向かって真摯に正面を向くこと。今と全然違う180度方向転換をするならば、まずは一旦立ち止まってから回れ右だ。そうすれば足がもつれて転ぶ心配はない。

なにか新しいことを始めようとする時には当然ながらその場のノリや好き嫌い、やる気や勢いのみで急ハンドルしないこと。

2.軸を安定させる
回れ右をしてすぐに歩きだしてもよろけないのはそれなりの訓練をした集団行動の大学生くらいで、大概の人はバランスを崩す。行く方向に向いたらそこで一呼吸。ほんの一瞬の間(ま)によって遠心力をリセットできるのだ。

自分軸をしっかりと持っていれば、変わる際の負荷にも己を見失うことはない。やっていることは今までと違っても、自分は自分。自信をもって新しい一歩を踏み出せる。これから始まる挑戦にいくらワクワクしていたとしても、この間(ま)をとらずに急アクセルは禁物だ。


それでも多分、絶対に転ばないということは無いだろう。
転んだら痛いという事も知っている。

それでも、また歩く。


雪国育ちの芯の強さ

幼い頃、雪の降る寒い日にも母は、「ポケットから手を出して前を向いて歩きなさい」と言った。そうして両腕を大きく振りながら歩くとからだがぽかぽか温まると言っていたが、冷凍庫並みの冬空の下ではいっこうに温まらなかった。「お母さんの嘘つき」と心の中で思いながら、顔面に吹雪をまともに受けてまつ毛を凍らせ、滑って転んでも手をついてまた立ち上がり、学校まで歩いたものだ。

おまけに母は「寒いと言ったら10円」という罰金制度まで定めた。冬に寒いのは当たり前だし、寒いというから寒いのだという精神論で子どもを言いくるめようとしていた。

修行のような登下校で、私は弱音を吐かず我慢強く芯が強くなったのだと思う。フードをすっぽりかぶった頭や肩に雪が積もる。「ただいま」と家に帰ると母は、ほんのり甘い葛湯を作ってくれた。濡れた手袋は、次の日の朝にはこたつの中で温まっていた。ぽかぽかの手袋に手を入れると、「ほっぺを出して」と赤い頬にニベアを塗ってくれた。(CMか)

大人になった今では、寒いくらいで罰金も無ければご褒美もない。少々辛いことがあっても誰もニベアを塗ってはくれない。でも私はしんしんと降る雪の日が好きだ。


転ばない歩き方

方向転換をしたらいよいよ歩き出す。
先生は「今を生きているか」を、練功や太極拳の動作の中で見抜く。
右足を出してから左足なのに、右足を出しながら左足のことを考えている人のなんと多いことか。1つやってから次なのに、やりながら次のことを考えている。出かける時に鍵が見当たらない、スマホが行方不明、あれ?どこに置いたっけと探す人は大抵ココロ此処に在らず。

目の前にご飯とおかずと味噌汁があるとして、一口ご飯を口に入れてもぐもぐしながら味噌汁のお椀を手に持ち、目線はおかずをロックオンしているそこのあなた。
そんなに欲張りなさんな。急ぎなさんな。


転ばないように歩くには、
右足を地につけた時には、右足に100%の重心をかけること。
歩いているときは、常に片足で立っているのだと自覚すること。

今を生きるという事。



行雲流水






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