お宅訪問プランナー②よほどのこと
プランナーが新郎新婦の新居やご実家に訪問する、というのはよほどの事でもない限りないのだが、その【よほどのこと】が起こらないとも限らない。
Case1:送迎バス、事故る
田舎の結婚式は送迎バスがつきものだ。最寄りの駅や指定の場所にバスをチャーターしゲストにご案内する。ある日、家族親族を乗せ到着したバスがレストラン入口の縁石に乗り上げた。その拍子に後部座席の窓ガラスが割れ、破片がバスの中に散らばった。
乗客は皆急いでバスを降り、青ざめた顔で会場に入ってきた。ビックリした、怖かった、と口々に言う中で、ガラスで手に怪我をしたと憤慨しているおじ様が。手を見ると爪の間が土で汚れている。私はそのおじ様が今朝も畑仕事をしてから結婚式に来たトマトのおじ様だと直感した。
手の切り傷は応急処置をし、嫌な雰囲気のまま披露宴が始まった。ゲスト全員が浮かない顔をして重い空気に包まれている気がして、何ともいたたまれなかった。
やはり怪我をした方はトマトのおじ様だった。前日に新婦さんから預かったトマトを一晩かけて絞り今日の料理に使っていた。地元も太鼓判、おじ様自慢のトマトだ。
お開きのあと、私は会場の責任者とともに新婦さんのご実家に赴いた。親戚の方々が集まって二次会をしているとのことだった。
お父様、トマトのおじ様、そしてバスに乗っていた方々が一同に会している居間に通され、座布団を断って深くお詫びをした。
居間の中央にドンと座るお父様も怖かったが、そっぽを向いているおじ様もまた怖かった。お母さんや周りの人がまぁまぁと収めてくれて、ご飯やお酒を勧めてくれたがとても喉を通らなかった。
この時、新郎新婦さんはとても寛容に受け止めてくださったのだが、改めて思い知ったのは10年後の事だった。結婚記念日にお子様と一緒にレストランに食事に来てくださった際に「うちの妹にも子どもが生まれたんですよ」と教えてくれた。そして
「あの時実は、妹は不妊治療を乗り越え妊娠していたんですが流産したんです」
バスの事故が原因かどうかは分からないと、今まで10年間黙っていてくれた。私は言葉もなく、ただ頭を下げるしかなかった。
Case2:引出物をつけ間違える
その日の引出物はたった2種類だった。一見同じように見えるカタログギフト、しかも袋はその当時私が推していた無漂白コットン製のエコバッグに入れてクシャッとした感じがおしゃれ且つSDGs、しかし扱いにくかった。
夜も遅くなったので、席に置く作業をバイトくんたちが手伝ってくれた。2種類あることは説明したのだが一部が間違ったらしい。確認不足は私の責任。
今まで間違ったことはない、というよりも間違っても発覚しにくい。ゲスト同士で中身を見比べたりしないし、カタログギフトは尚わからないだろう。でもご家族が気づいてくださった為、お詫びと対応について新郎新婦のお宅に伺った。
偶然にも新郎のお姉さんの結婚式を担当したのも私で、会場も違うし勧めたわけでもないのに弟がたどり着いたのだと、お姉さんは凄く驚いて連絡をくれた。なんかお父さんの名前に見覚えがあるな~とうっすら思っていた私も大変びっくりした。
なのでいつも以上に張り切っていたのだが結果、最後の最後にミス。悔しい。誰にどの引出物が渡ったのか、ゲスト一人ひとりに聞くわけにもいかず確かめようがないし、正しい引出物を贈り直すということにした。特に予定よりも値段の低いものが渡ってしまった可能性のある方へ、お詫び文を添えて宅配し、先にご両家から贈られたものはそのまま使っていただくことにした。
考えてみれば、カタログ50個とかテーブルに飾るお花10万円分とか、人生でそんなにいっぱい買い物をすることは無いだろう。プランナーも自分でその買い物をしていると思わないといけない。
Case3:マグロを食べていない
パーティー内でマグロ解体ショー、その後マグロ料理がいろいろブッフェに並ぶという演出をしたが、終わった後「俺はマグロを食べていない」とお父さんが怒っているという。30kgのマグロ1本、解体、調理一式で20万円の演出だ。
司会者も「マグロ料理はこちらです!」とアナウンスしていたのだが、会場後方のご家族席にはお持ちした方がよかったのかもしれない。もしくはマグロ料理の中の1品だけでも全員にお配りした方がよかったのかもしれない。いろいろ反省しながら、とりあえずマグロのサクを1本持ってお宅訪問。
お母さんは「ごめんね。。お父さんが。。」と玄関で出迎えてくれた。
今となっては引っ込みがつかなくなったお父さんの言い分を黙って伺い、「余った分は明日のランチで売るんだろう」との意見には、解体ショーをする前に実はもう半身仕入れてすでに調理し時間内にお出ししています的な裏事情は説明したかしなかったか忘れたが、この流れで真空パックにしたマグロのサクを出そうか出すまいか迷った末、そっとお母さんに手渡した。
披露宴の後すぐに旅行に出かけた新郎新婦さんは事の顛末を一切知らず、私はそのまま知らなくてよいと思っていたが、新郎新婦さんは旅行後にサロンに来て「ほんとうにごめんなさい!」と顔を赤らめて言ったので「はて?なんのことですか?」ととぼけたがお母さんから聞いたとのことだった。
お父さんと絶対喧嘩したよね。。もう済んだことだし家族円満を願う。
(今度からは鉄火丼を皆に配る)
Case4:支払いするから来い
結婚式が終わって2~3日経った日、お父さんから呼び出しを食らった。
「支払いするから家に来い!」
お父さん。
お支払いは会場に来ていただくか銀行振込とご説明をしたはずですが。
何百万も払うんだぞ!来い!ってことなの?
それか何か怒られるの?私何かやらかしたの?
恐る恐る、領収書と印紙、おつり等を持ってお宅訪問。
ピンポン、ごめんください……
「おーー、来たか!あがれあがれ」
???
お邪魔しますと家に入ると、居間のテーブルいっぱいにご馳走が並んでいた。お父さんはこれを私に食べさせたかったらしい。
実はこの手の方法はお父さんお母さん世代はよくやる作戦なのだ。
「席にあったメニューカードを忘れたから取りに行きたい」と次の日に会場に来たお母さんもいたなぁ。私がメニューカードを差し出すと「よかった〜記念のアルバムに一緒に貼るの」と言ったがメニューカードなど本当はどうでもよくて、一升瓶をかかえてきたっけ。
私はそれから「ありがとう」と言わずにありがとうを伝える方法、というのを考え始めた。感謝の手紙を読んだりする以外に、どうやって相手に気を遣わせずにその気持ちを表現し、さりげなく伝えるか。上級編の演出を。
長くなりましたが、現場からは以上です。
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