戒厳信仰
早朝4時。健全な人間ならこの時間に起き出して、ランニングの準備にでも取り掛かるのだろうか。だが自分は健全では無い。故にこの時間は床に入るのを考え始める時間であり、しかしテンション自体は深夜のソレだから、ピンピンしているのに生み出すものは全て目を覆いたくなる様なイタさを孕んでいるという、創作には一切向かない時間であった。4月の東京はまだ黒々とした空で外出を拒む。
1時くらいならまだ平時と変わらないテンション。2時も、まぁ。3時以降になると途端に人前に出られなくなる。いや、対面で話す分には理性が働くのでまだ良いがこれが通話とかになるとてんでダメだ。文章もダメ。一気に素面じゃない内容を放出してしまう。では何故その4時に文章を書いているのかと言うと、味噌汁の話がしたいからだ。
味噌汁の話がしたいと言っても、自分は別に特段味噌汁が好きな訳では無い。人並みの嗜好。猫舌なので汁物を一番食べる癖があります、という程度しか、味噌汁に対する感想はない。
しかしマルコメ、君は大変に優秀だ。ダシ入りと言うのがパッと使えてありがたい。一休さんという商品名を裏切らない子坊主のキャラクターも早朝4時にはいたくチャーミングに映る。
味噌汁には特に拘らないが、深夜から早朝に掛けて食べる不健康メシを愛する者として、手軽に作れる即席味噌汁というのは心強い味方なのであった。
以下、味噌汁作り実況。
まず味噌を掬う所から。椀の様に気の利いたものは持ち合わせていないのでマグカップに。スプーンも無い。ええい、箸で掬ってやる。カレーもアイスも箸で食べる人種なので、これには特に痛痒を感じない。小鍋にキチンと作るのであれば、味見だとか調味だとかいう工程も踏むが、今回はマグカップに即席不健康味噌汁を作るのが目的である。味は濃ければ濃いほど良い。マグカップの大きさに対し、ちょっと冷や汗が出るくらい味噌を掬ってカップにダイブさせる。
この辺りで丁度電気ケトルがカチッという小気味のいい音を立てて湯が沸いた事を知らせてくれる。計画性を持って事前にセットしておいたのだ。ふふふ、良い感じだ。ヌタヌタとした味噌を最初は少量のお湯で溶かす。溶け残りを防ぐ為だ。味噌がシャバシャバになったら追加でお湯を投入。3回くらいに別ければ綺麗に溶けてくれる。こういう過程を飛ばさないのが美味しい不健康メシを作る為には必要であり、こういう過程を飛ばしたくなるのが深夜のテンションである。今日は深夜テンションよりも不健康メシへの情熱が勝ったみたいだ。
ここで飲んでも良いのだが、しかし自分は具無し味噌汁を許さない。不健康メシは塩分を摂ってナンボだ。とろろ昆布を投入する。もし自分と結婚してくれれば具無し味噌汁を飲ませる様な真似はしませんよ、と虚空に話掛けるのは深夜だから。具といっても、とろろ昆布ですが。
さて、出来上がった深夜の味噌汁くん。味噌さえ溶かせば味噌スープじゃろがいというあんまりな理論で「味噌汁」を名乗らされた彼は、なんというか、詐欺師みたいな顔をしている。だって具が……と真実に辿り着く前に一啜り。う〜ん、薄い。というか、味噌の味をとろろ昆布が完全に殺している。これでは味噌汁というよりとろろ昆布汁だ。それでは困る。先程「結婚してくれれば具無し味噌汁は飲ませない」と虚空に宣誓したばかりなのだ。具有り味噌汁ですよ〜と言ってとろろ昆布汁を出されたら、自分ならちゃぶ台をひっくり返す。勘弁して欲しい。
とろろ昆布汁を早々に飲み干してもう一杯。
深夜だからね。味噌汁だけ何杯飲んでも怒る人はいない。丁度ケトルのお湯ももう一杯作れそうな量残っている。
先程と同じ様にマグカップに味噌を、今度は明らかに冷や汗が出た。背中がジャブジャブ。しかし先程とろろ昆布汁を飲まされた前科があるのでここは冒険するに限る。そもそも自分は味噌の味が大好きだ。箸やスプーンに付いた味噌は必ず舐る。行儀の良し悪し以前に味噌が好きなので。
カップの底を見ない様にしてちょっと緩くなったお湯を注ぐ。さっきは不健康メシへの情熱が勝ったが、今回は一刻も早く味噌汁を飲みたい気持ちが優って最初から並々注いでしまう。分かってたよ。案の定溶け残った。
ここで具(とろろ昆布)を入れるのがセオリーだが、しかしとろろ昆布君、君は先程味噌汁を台無しにしてくれたね。大人しく冷蔵庫で眠っててくれ。さっきの宣誓は撤回。具無し味噌汁を提供する事もあります。
チャッチャッチャッと音を立てて味噌を溶いていく。薄々分かってはいるが、この色……う〜ん、濃ゆすぎ。
という訳で惨敗に終わった今回の不健康メシ。
濃ゆすぎた味噌の味を忘れる為に絶賛チョコを舐めながら文章をしたためている。血圧と血糖値を爆上げさせながら深夜に書くnote程楽しいものはない。食後の頭痛に悩まされるのもご愛嬌だ。
チマチマと校閲を挟んでいて思うが、この文体、どうも誰かに影響を受けている気がしてならない。普段の文章が借りて来た猫なら、深夜の文章こそ本当に自分の文章と言えるのではないかしらん。
さて、7時を過ぎると深夜の魔法が解けてすっかり正気を取り戻す。そうなると折角したためた文章もナイナイされてしまうだろう。なのでこのままウッカリ公開してしまう事にする。性癖の話も下ネタも話していない、終始味噌汁オンリーなので傷口は浅いというものだ。
明日の朝、自分の悲鳴が楽しみである。
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