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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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#春

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【グリーンハイツ201】

下町にあるその建物は、レンガ色の茶色い外壁で囲まれていた。 「グリーン…ハイツ…外観は緑ではないんですね…」 不動産屋で間取りと駅からの距離だけ確認していたサトシは、その建物名とのギャップに違和感を覚えた。 「こちらのオーナーさんが、住居は樹の幹みたいなモノで、住まわれる皆さんがイキイキとキレイな緑色の葉になるとの思いから、この名称にされたようですよ」 「へえ〜」 3階建て、ワンフロア3世帯の小振りな昔ながらのアパート。 「1階部分は共同玄関と管理人室があって、ファミリー

短編:【イメージで生きている】

「やっぱりここの桜キレイだね〜」 春の心地よい日差しの中、彼女は青い空を見上げながら嬉しげにつぶやいた。 「そお?」 僕はテンション低めの返答をしていた。 「桜キレイじゃない?」 「う〜ん、キレイ…なのかな?」 「色も形もキレイでしょ?」 「いや…桜って儚いからキレイなイメージがあるけれど、花単体で見たらそれほどキレイじゃないかも知れないなと思うことがあってね…」 「そうなの?」 「この季節に一瞬だけ華やかに咲きほこって散っていく…その後散った花びらは迷惑なゴミとなって、飛び