マガジンのカバー画像

短編:【スエトモの物語】

147
短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!短い物語のなかに、きっと共感できる主人公がいるはず…誰かひとりに届くお話。自分と同じ主人公を見つけて頂け…
運営しているクリエイター

#恋愛小説部門

短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【夢の叶う夢】

「パパのおよめさん!」 「パパのお嫁さん?」 母は娘の私が何気なく発した言葉に乗っかった。 「マユが、パパのお嫁さんになったら、ママはどうなっちゃうの?」 「ママはマユのママだよ」 母は笑っていた。 「マユがパパのお嫁さんになったら、ママはパパのお嫁さんになれないのよ」 私は幼く、無知だった。 そしてパパもママも心から愛していた。 それから1年ほど経って、私は、大好きだったパパとママを同時に亡くした。 「あんな小さい子ども残して、両方とも亡くなるなんてねぇ…」 「交通事故

短編:【つぶらな瞳が映すモノ】

「オイラはさ、これまでに3回使っちゃったからから」 ぬいぐるみが喋っている。 「もうリプレイ出来ないんだよ」 言葉の意味がわからなかった。 「3回使っちゃった?」 そもそもぬいぐるみが喋っている意味もわからなかったのだが。 「オイラ達みたいな命を持たない玩具は、実は3回までリプレイ…つまり、生き返ることが許されているんだよ」 「許されている?誰に?」 「う〜ん良くわからないけど…神さんみたいなモノ?」 「カミさん?…あ、神様のこと?」 「何だかわからないけど、リプレイがで

短編:【ユメのない夢】

病院の診察室。白衣男性の前に座る若い女性が語る。 「ちょっと信じて頂けないかと思いますが…」 カルテにはスズキユミコ 27歳とある。 「夢を見るんです。あの夜寝た時に見る…」 「眠りが浅いんですかね…」 「あ、いえ…夢を見ることは良しとして…」 何か言いにくそうに戸惑っている。 「どうぞ気になることをお話し下さい」 「はい…その夢が…その…」 先生は親身に静かに次の言葉を待っている。 「すべてですね…その…ミュージカルなんです…」 言い終わると静寂が流れる。 女性はとんで