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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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#猫

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【それでも親なのだ】

公園のベンチに腰掛けていた。 小学校帰りの赤や黒、最近では茶色や水色のランドセルが元気に動き回っている。中には黄色い昔ながらの交通安全と印したピカピカの一年生もいるようだ。 先週の土曜日に、別れた妻と暮らしている、まだ幼稚園に通園する娘と会ったことで、子供の声がとても耳についた。美味しい、ちょっと贅沢な食事に連れて行き、遊園地で遊ばせても「パパとふたりは、つまんない」「パパといるより、ママといる方が好き」…悪気がないのはわかっているが、頼りない父親の愛情は受け止めてもらえな

短編:【そのまんま、ねこまんま】

たとえそれがそうだとしても、まあ仕方ないと思うことがある。 人も猫も歳を重ね、流石に今年のこの暑さは耐え難い毎日。耐え難きを耐え忍び難きを忍んで来た近年、贅沢は敵と頑張って来たもののいよいよ猫様の食欲も減って来た。 いつものご飯に少しだけ変化を加える。いわゆる味変。「花カツオ」と言う、犬猫専用の鰹節(減塩)を買ってみた。少しだけお水に浸した生食の餌を混ぜて、花カツオの削節をサッとかける。すぐに分かるカツオ節の柔らかい香。するとどうだろう。猫まっしぐらで喰らい付き離れない。

短編:【木の上の猫】

昨夜の雨も上がり、久々に日向であれば薄手のコートでも充分暖かく感じる、ある冬の昼下がり。たまたま入ったお店の、本日のランチが大正解で、満腹感プラスアルファーの満足感の中、公園の木々の間を歩いていた。 「あの~、あの、すいません…」 どこからともなく、中年男性の声がする。 自分の右手の方から聞こえた気もするし、後方からの気もする。 気のせいか?誰もいない。 「ちょっと、そこの旦那さん…」 やっぱり聞こえる。周りには人影はない。気味が悪い。それに私はまだまだヤングで、旦那と呼ば