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短編:【スエトモの物語】

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短編小説・物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラを実践中!新作順にご紹介。短い物語のなかに、きっと共感できる主人公がいるはず…見つけて頂けたら幸いです。
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#新生活をたのしく

短編:【夏は鰻と、】

金がない。まったくない。いやウソだ。ポケットには374円ある。 「あちぃ〜」 なんて猛暑。いや酷暑。真夏日。記録的暑さ。殺人的な夏の日差し。どんな言葉に変換しても同じだ。 「あちぃ〜ょ〜」 暑いだけで涙が出る夏は、人生で始めてだ。いやウソだ。去年も、その前の夏も、たぶん10年に一度の異常な暑さだった。 公園の水飲み場で蛇口をひねる。チョロチョロと申し訳程度に水が出る。 「…節水制限」 脳裏に現れる四文字。そうですか。そうですよね。税金もまともに払っていない人間には、こういう

短編:【神が授けた一日】

目を覚ますと、あたりは真っ暗だった。 「3時?」 ベッド横のデジタル時計は3時5分を表示している。 「あれ?昨日…」 頭の中で記憶を辿る。 「有給消化をしないとペナルティになるからって…」 そう、溜まりに溜まった有給休暇を期限までに消化するようにと注意された。なので、すぐに申請をした。 「明日は休みだからって…」 よく行く居酒屋で呑んでいた。 「仕事終わってからだから、10時からだったっけ…?」 途中から記憶が無い。 「常連さんが来て…あのあとどうした?」 ケータイを探し、何

短編:【ガラパゴス】

「先輩…もう限界です!」 今年入社の新人さんが、1ヵ月も経たずに愚痴りだしている。 「なになにどうした?」 教育係の私は、愚痴を聞いてあげるのも仕事である。とはいえ、たかだか3年前に入社した私も、いまの会社に不満がない訳では無い。会社からちょっと離れた小洒落たカフェで、新人の彼女とランチを摂っている。 「この会社!もう終わってますよ…」 「なに、課長になんか言われた?」 「課長だけじゃないです!部長もそうだけど…完全にガラパゴスですよ!ガラパゴス!」 「ガラパゴス…」 最近

短編:【No Movie,No Life.】

僕には30年続けている“こだわり”があって。というか短いスパンでのこだわりはたくさんあって、例えば、土曜日は昼から餃子を作り夜はガンガンお酒を呑む。これは3年くらい続けたのですが、ある時に見たテレビ番組で「最強の完全食が餃子」という特集があり、確かに肉・野菜がしっかり入って、炭水化物の薄い皮に包まれた、素晴らしい食事で、主食がビールで、米食を制限していた僕にとっても完全食だと信じていた。この頃はスライサーとおろし金の二刀流で、毎週毎週週末にキャベツを切って、長ネギも細かくして

短編:【グリーンハイツ201】

下町にあるその建物は、レンガ色の茶色い外壁で囲まれていた。 「グリーン…ハイツ…外観は緑ではないんですね…」 不動産屋で間取りと駅からの距離だけ確認していたサトシは、その建物名とのギャップに違和感を覚えた。 「こちらのオーナーさんが、住居は樹の幹みたいなモノで、住まわれる皆さんがイキイキとキレイな緑色の葉になるとの思いから、この名称にされたようですよ」 「へえ〜」 3階建て、ワンフロア3世帯の小振りな昔ながらのアパート。 「1階部分は共同玄関と管理人室があって、ファミリー