マガジンのカバー画像

★【作者と読者のお気に入り】★

28
◉たくさんのビューとスキを頂いた作品と、個人的に好きなモノだけをギュッとまとめてお届け!30作品程度で入れ替えしながらご紹介。皆様のスキが集まりますように(笑)お気に入りの玉手箱!
運営しているクリエイター

#お仕事小説部門

短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【隣】

「ママ、見て!落とし物!」 「落とし物?…じゃないわね」 「ケーサツにとどけないと!」 「なんだろうね…あ!触っちゃダメよ!」 最近、公園や街の中で、こうしたバッグを見かけることがある。 「ちょっとパパに…」 写真を撮って、ショートメールで送る。 「あ、パパから…」 会社のパソコンで検索してくれたようだ。 『格安ポスティング業者』 これはどうやら、家やマンション・集合住宅などのポストに入っている、ビラやチラシ広告を投函する業者が置いていることがわかった。 「え、これ…ここ

短編:【職を決める】

「農業は天候に左右される。漁業も自然の影響を大きく受ける。どちらも鮮度が重要視され、収穫から消費者へ届けるスピードが求められる。流通はそのスピードが命である。物を製造する場合は、職人の技術力や大規模な機械導入がある。在庫管理する場所の確保も必要で…」 郊外型の広いファミレス。向かい合わせに座る男性ふたり。 「で、何やるか決まったか?」 スーツ姿の男性が、ホットコーヒーを飲みながら聞く。 「そこなんだけどね…」 白いパーカーにジーンズの男性がアイスコーヒーのグラスに口をつけず

短編:【クレーム、または罪深い人類へ】

「だいたいさ!オタクの商品、効果が無いんだよ!」 『そんなことはございません…』 「うるおいをもたらし、命を救う?」 『…はい』 「サラサラで、無味無臭?」 『そうです』 「安価でお得?すべての国民に必要だと?」 『その通りでございます…』 「過大広告だろう!謝罪しろ!」 『お客さま…いま、お試し頂けますか?』 「い、いま?」 ゴクゴクゴク… 『いかがですか?解約されますか?』 「…」 『良いんですよ、この世界から“お水”と言う、万能な商品が消えて

短編:【営業電話は受け付けない】

さあ今回は私が実践している営業方法をご紹介しましょう。 「あいにく担当者は在宅ワークでして…」 近年、代表電話に連絡を入れても『担当者に直接連絡して欲しい』だの、『個人情報は教えられない』だのと、結局は知っている人間同士しか連絡を取り合うことが出来ない、負のスパイラルに陥っていると感じませんでしょうか。 一部の個人情報を違法ギリギリの手法を使って抱え込んでいた会社が幅を利かせ、公務員が持ち出したUSBメディアが泥酔と共に紛失してニュースになる世の中。個人情報が違法な高値で売

短編:【最初から結論ありき】

「そのお話…、エビデンスは何ですか?」 「エビデンス?」 「根拠です!」 「いやいや、意味はわかっていますよ。エビデンス、なんて…ありません」 立派な応接ソファーに座った男性は静かに足を組む。 「いいですか?…そもそも人類は朝と夕方二食で暮らす生き物でした。それをトースターを考えた偉い発明家さんの思案で、朝昼晩の三食にすることで、トースターも売れて、パン屋も儲かった」 「ああ、まあ、有名なお話ですよね」 「土用の丑の日。夏場にウナギ。これだって、そもそも冬場に脂の乗るウナギ