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★【作者と読者のお気に入り】★

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◉たくさんのビュー&スキがあった作品と、個人的に好きなモノだけをギュッとまとめて、30作品程度入替え制でご紹介。皆様のスキがもっともっと集まりますように(笑)
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#生成AI

短編:【それでも痩せたい現代人へ】

『イクササイズ』が流行っている、と朝の情報番組で伝えていた。 『イクササイズ』は漢字で書くと一目瞭然『戦サイズ』である。戦いで痩せるという新しい発想のエクササイズ。 戦になれば、刀や槍を振り回し、弓を引き盾を持って動き回る。相手を倒す体力と持久力、そしてそれに対応できる筋力と忍耐力が求められた。 戦になれば、秤量責めや山道での潜伏など食事が出来ないという、ダイエットにとっては自然と最適な状況になる。 その『イクササイズ』を提唱したのは、とある国内大手の家電メーカー。そこ

短編:【お城に住むおじさん】

「ごめんくだされ!」 深い深い山の城。旅装束の若い男が立っている。 「はいはいはいはい…」 ずっと奥の方から返事を続けながら入口まで走ってくる人影。 「申し訳ない。旅の途中で道に迷い…」 「それはえらい難儀でしたな〜」 異常に頷きの多い“おじさん”。 「大変恐縮なのだが、一晩泊めてはもらえぬか?」 おじさんは、ニコニコと答える。 「ええ、ええ、ええ、ええ。ええですよ。この城にはぎょうさん部屋がありますからな、問題あらへん!」 さぁさぁ、と城内に招き入れる。 部屋へと案内をす

短編:【夏は鰻と、】

金がない。まったくない。いやウソだ。ポケットには374円ある。 「あちぃ〜」 なんて猛暑。いや酷暑。真夏日。記録的暑さ。殺人的な夏の日差し。どんな言葉に変換しても同じだ。 「あちぃ〜ょ〜」 暑いだけで涙が出る夏は、人生で始めてだ。いやウソだ。去年も、その前の夏も、たぶん10年に一度の異常な暑さだった。 公園の水飲み場で蛇口をひねる。チョロチョロと申し訳程度に水が出る。 「…節水制限」 脳裏に現れる四文字。そうですか。そうですよね。税金もまともに払っていない人間には、こういう

短編:【愛想笑いの彼】

彼が笑うと、私も笑顔になる。 彼が頷くと、私も知ったかぶりをする。 彼が語ると。私は夢の中にいる気持ちになれる。 だけど、私はまだ、彼の知り合いではない。 バスの中。つり革に掴まる彼は見知らぬ女生徒と話をしていた。 「センパイ、来週末は練習ですか〜?」 他校のブレザーを来た背の低い女の子。 「練習というか…練習試合?」 「そうなんですね〜強豪校になると他校の挑戦は断れませんもんね〜」 彼はバスケットボールをやっている。もちろんレギュラー。高校選抜。県のベスト4まで行く県内

短編:【3つのいえ】

「親だったら子の巣立ちを歓迎するモノだと思うんです」 暖色系のわずかな灯りが薄暗く、居心地の良いカウンターバー。冠婚葬祭帰りの黒スーツを纏う男性。首元には白か黒の色があったはずだが今は外されている。一杯目の細長いグラスビールに三口分の泡目盛りが刻まれた頃、男性は喋り始めた。 「実は今日、長男の結婚式だったんです…」 「それはおめでとうございます」 グラスタオルを慣れた手付きで回しながらバーテンダーが応える。 「ウチには、28歳、26歳、23歳の3人、息子がいましてね」 「

短編:【トマト、いかが?】

「ウチの小さい庭で家庭菜園をやってましてね…」 休日の昼前に突然の訪問者。マンション1階に住んでいるという50歳くらいの中年女性。正直見かけたことも挨拶をしたこともない。 「あ、そうですか…わざわざスミマセン…」 3階に住む僕は、面識のない人からいきなり野菜を持って来られて動揺していた。 「あ、あの…なぜ僕の部屋に?」 「あら、ゴメンナサイ…いつもゴミ捨てとかちゃんとなさっていて、帰宅も遅いのにエコバッグさげて、食材を買って自炊なさっているのかなと思ってね。…いきなりでご迷惑

短編:【巡り合わせの移動販売】

小さく静かな公園の、その脇に、ひっそりと移動販売車が停まっていた。 「どうぞ見て行ってください…」 まるで図書館の受付に座る静かなトーンで、こちらを見ずに女性が声をかける。 「希少…品?」 手描きで書かれた文字は、『貴重品』ではなく『希少品』だった。 「あ…キッチンカーじゃないんだ…」 話しかけるでもなくつぶやいた。 「ええ、希少品を扱う移動販売になります」 全面開いた車側面に突き出たカウンターには、大小様々なサイズのビニール袋が分類され、理路整然と並んでいる。 比較的小

短編:【この印籠が?】

「じーちゃん!じーちゃん!」 メガネを鼻にかけ、新聞を読んでいたじいちゃんは、玄関先から聞こえる孫の声に微笑む。 「おう、ケイちゃん!よく来た!ひとりで来たんかぁ?」 祖父の声がする居間に、孫息子のケイちゃんが飛び込んで来る。 「学校終わってすぐ来た!そこだし!」 この春、入学した孫は、小学校と娘夫婦が暮らすマンションを結んだ通学路のちょうど中間を、少し逸れたこの祖父の家に寄り道しながら帰宅している。 「ママにじいちゃんの家に寄って帰るとメールしたか?」 急いでお菓子とジ

短編:【夢の叶う夢】

「パパのおよめさん!」 「パパのお嫁さん?」 母は娘の私が何気なく発した言葉に乗っかった。 「マユが、パパのお嫁さんになったら、ママはどうなっちゃうの?」 「ママはマユのママだよ」 母は笑っていた。 「マユがパパのお嫁さんになったら、ママはパパのお嫁さんになれないのよ」 私は幼く、無知だった。 そしてパパもママも心から愛していた。 それから1年ほど経って、私は、大好きだったパパとママを同時に亡くした。 「あんな小さい子ども残して、両方とも亡くなるなんてねぇ…」 「交通事故

短編:【異空間からエール】

「あれ?いま花火の音聞こえた?」 放課後、教室の掃除をしていたマコトが、モップを握って言う。 「打ち上げ花火?」 「雷なんじゃない?ヤダ〜傘持って来てない〜」 女子高生仲良し三人組の、カオルとユミが話に加わる。 「でもさ、打ち上げ花火が禁止になって、どんな音だったか忘れた…」 ゴミ箱を持ったカオリが窓の外を見て言う。 いまこの国では、打ち上げ花火が上がらない。 「たぶん幼稚園入る前だわ、最後に本物見たの…」 15年前。とある地方都市で開催された最大級の花火大会。 「あの日、

短編:【バケモノ】

「コイツはとんでもないバケモノだ!」 「…ハイ、カット!」 来年公開予定、特撮ヒーローモノの撮影現場。 「もう一回行きましょう!」 台本を持った監督と助監督、ヘアメイクさんが近づいて来る。 「恐ろしさは、非常に良く伝わったんです。ただね…」 監督の台本にはビッシリと付箋。 「コイツはね、本当にバケモノだけど、…敵なんですよ、この後ヒーローと闘って、粉々に粉砕される…」 「あ、そうなんですか?!」 「台本読んで来た?!」 「あ、いえ、私はエキストラなので、さっきこちらの助監

短編:【癇癪玉の味】

「この薄い水色の玉は、どんな味ですか?」 若い女性客が声をかける。 「こちらは、3歳男児の駄々ッ子です」 カウンターにズラリと並ぶ小ぶりな小瓶。そのひとつ一つに、ビー玉くらいの丸くて色取りどりのモノが入っている。 「駄々子玉なので、親の気を引くための、申し訳程度な感情、欲求と涙が配合されています」 微笑の女性店員が説明する。 「薄い感情かぁ…」 色、大きさで感情が視覚化された、通称『癇癪玉』。それを販売しているお店『玉の家(TAMANOYA)』。 「少しだけガツンと来る感