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不審な客は撃退し、終焉を乱さない

老舗デパートが閉店することになった。定刻近くになり、従業員たちが片づけを始めたとき、一人の客が息せき切ってやってきた。

「やめないでくれ!皆まだ働きたいだろう?
 元気出してくれよ!疲れているんなら、栄養ドリンクもあるよ!
 頼むから、閉店なんて言わないでくれよ!」

「いえお客様、もう決まったことですので。もう終業ですので」

「ダメだよ!働いてよ!皆期待しているんだからさあ!」

・・・もしこんな客がやってきたら、従業員たちは「最後の最後に変な奴がやってきた」「早く帰りたいのに」「疲れているのに、更に疲れさせないでよ」「もうクタクタなんだから」とうんざりするだろう。
誰も喜びはしないはず。

延命措置のことを考える。
事件や事故や自殺未遂は別として、老衰等の人をながらえさせるのは、従業員(=細胞)を無理に働かせる質の悪い客(=延命措置)のようなものなのではないか、と思う。

「命は最後の最後まで生きたがる」「人は生に執着し、死に抗うものだ」という概念を、私はあまり信じない。終焉が近づけば、その準備をするのが通常だ。飛行機は着陸の時に高度と速度を落とし、内示が出たサラリーマンは引継ぎを始める。

疲れている従業員を無理に働かせようとすれば、却って現場は混乱し、雰囲気も険悪なものになるだろう。

自身の閉店の時が来たら、長年働いてくれた細胞たちに「ありがとう、お疲れ様」と言って、無理な残業はさせないつもりだ。

傍若無人かつ不審な客(延命措置)は、断固拒否する。

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