#22 ただいま朝日が埋葬されました

これより、自分は「うぶな少年」または
「羞じらう少女」となる


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深夜2時をとっくに過ぎた頃でしょうか。
真暗にした自室には、私と、美しい友人が在りました。
友人は私と同い年の女性で、大学1年の時からの付き合いでございました。彼女は長い間交際相手の男性と同棲しています。程よくオタク基質で、性に前向きで、聡明な女性でした。
以前より、お互いを「そういう目」で見ていたのは自覚しておりました。彼女は私の姉のような人で、いつも私が欲しい言葉をくれる、大切な友人です。

ですから、ベッドの上で裸で戯れるのも何らおかしくない行為だと
そう思うようにはしていましたが、戯れどころでは済まなくなったその時、当然頭は困惑するわけです。

女友達と"寝た"のは初めてでございました。

彼女が私の家に泊まりに来るその前月、私たちは休日丸々使ってラブホテルで遊びました。その時から予感はしていたのです。次に会った時は遂に私たちは「そうなる」だろうと。
私の引越ししたての新居に泊まりに来て、いつも通り普通に飲んで遊んで…
客人用の布団はしっかり敷いたものの、彼女が私のベッドに入ってくるまで5分もかかりませんでした。
廊下の明かりが少しだけ漏れていたので、完全に暗いという訳ではない部屋。直ぐに私の目は暗闇に慣れ、上に跨る彼女を捉えました。

美しい彼女を前に、私は為す術もなかった。

自分は饒舌だと自負していましたが、何も言葉など出てこないのです。私は情けない童貞そのものでございました。
出会った時から彼女に言っていましたが、私は彼女の顔が大好きなのです。あの好みのお顔で微笑まれ、優しい声音で話しかけられようものならもう夢心地。

白状しますと、私という奴は彼女と「こうなる」ことが分かっていて、前日の夜爪を切っておりました。彼女の綺麗な躯を傷つけまいと、…いいえ、猫を被るのは止めましょう。彼女の「なか」に自身の指が入ることを想像しながら、いつも長く伸ばしている爪たちを処刑しました。

暫く、上に乗る彼女の好きなようにさせ、時折此方からキスをしたりしてむず痒い時間を楽しみました。
しかし彼女の触れる手の、なんと優しいことか!
自分が硝子細工にでもなったような気分でした。「そんなに優しくしなくても」とは言ってみたものの、彼女の手はきっと乱暴にするなんてことを知らない手だったのです。

私の上半身を遊び尽くした彼女の興味は当然下の方に向きます。私の下は、先日サロンで時間をかけてまっさらな状態にしてもらったばかりです。ブラジリアンワックスなるものを初めて体験してくる、というのは事前に彼女にも報告していたので驚かれはしませんでした。
当然まっさらになった其処を触られる覚悟もしていましたが、彼女の興味は予想以上のものでございました。

先程述べた通り、何も言葉など出てこないのです。このままだと俗に言うマグロ状態。
男と寝る時はこうはならない。むしろ自分が優位であるよう最善を尽くすというのに。

彼女の美しい顔が、可愛らしい唇が、私より少し小さめの指が。
大分長い時間をかけて、私は腑抜けにされました。

男とする時とは違う、温泉にでも浸かっているかのような心地良さにずうっと甘えていたくはありましたが、ふと我に返りました。形勢逆転を試みたのです。今度は私が彼女を見下ろす番となりました。
先月ホテルの浴室で初めて見た彼女の裸体は、暗闇でも変わらず美しいものでした。汚いところなどない、大事にされてきた躯。彼女の胸の突起は、私のものとは全く別物でございました。夢中になってしゃぶりつくと、彼女の口から今まで聞いたことがないような声が出ました。そんな、同居人の男くらいにしか聞かせていないはずの彼女の喘ぎ声を聴けるなんて。それくらい心を許してもらっているのだ、という特別を感じました。好奇心旺盛な童貞の如く高ぶっていた私はその時、しっかり「優しく」できていたでしょうか。
「そこはね、弱いの」と快感によってか、震えた声で弱々しく私に言った彼女の言葉が演技ではなかったことを願います。

その興奮状態のまま、彼女の下へと手を運ぶと「下は駄目」と止められてしまいました。私はお預けを食らった犬以上にショックを受けました。散々私のものは弄り回したというのに、狡い女です。整えられた黒い繊毛に覆われた彼女の秘所に、触れさせてもらうことは叶わず終わってしまいました。綺麗に短く爪を揃えた努力も虚しく、私は未だ童貞のままです。

それからも行為自体は続きました。2時間ほど経過していたはずです。気がつけば外は次第に明るくなっておりました。私は明るい中するというのが嫌いでしたので「もう明るくなってきたから、やめよう」と前後不覚になってしまう前に、彼女との行為を中断させました。


私は男と寝る時、相手に痕をつけるのが好きです。噛みちぎらんばかりに、暴力的に自分の痕跡を残したがります。しかし女性の肌の前ではとてもそんなことは出来ないのです。男相手なら遠慮なく体重をかけられるところも、女性相手だとどうも難しい。「顔の上に乗って」と彼女に言われた時は、逃げ出したくなりました。貴女の綺麗な顔の上に跨るなんてそんな無礼なことしたくはない、逆ならいいのですが。

女同士の行為は「奉仕する」感覚というのが特に強いらしく、確かに彼女に抱かれている時それを強く感じました。無意識ではありますが、私自身も彼女を「奉仕する」気で爪を切ったのでしょう。彼女にはこれ以上ないくらい優しく扱われ、愛でていただきました。けれど、その温泉にでも浸かっているかのような快感が少し怖く感じたのです。きっと夜が明けていなくても、何かと理由をつけて私は彼女の手を止めていたに違いありません。


終わってから、私という奴は、数ヶ月前まで愛し合っていた男を思い出して、彼女の胸で少し泣きました。全て事情を知っている彼女は相変わらず私をなぐさめ、それはもう甘やかしてくれました。気持ちよくなれて、甘やかしてもらえて幸せ、とかそういった幸福感は確かにずっとあったのです。それでも「私はなんて失礼な奴なんだろう」という罪悪感が勝ってしまいました。

やはり私は「女の体を持つ自分」が裸の女性と交わる、というのに抵抗を感じてしまうのでした。美しい女体に触れたいけれど、私は自分が男となってその体に触れてみたいのです。
男との行為は問題なく出来るようになったというのに、結局女性を前にするとどうしても自分がおかしくなってしまいます。違和感や罪悪感がどうも拭えないのです。これもまた経験を積めば変わるものなのでしょうか。

押し花のように粉々になるくらい抱き締められたい
これは私よりずっと背の高い、好みの顔の男に向けて思うこと

女性には、そうだな
死者に送るようなキスをされたい
高校時代に読んだ川端康成の『眠れる美女』をよく思い出すのです
老父になって太陽のような女体に葬送されてみたい

今の私の、若気の至りという形容で済まされてしまうような生活を乗り越えて、悟りでも開いた先に、この浪漫を実現する術は果たしてあるのでしょうか
今はまだ、その人と寝たという「経験」だけが残り、その人という人間を想い思考を巡らせるなんてことはそうそうないのです    
寝たという経験だけでは足らず、深くまで食らいついてしまいたくなるのが所謂"身を焦がすような"恋愛なのではと最近は思うばかりです

不自由な女神のスカートの中でのたうちまわっているような私の迷走期に、早く終止符を打ちたいと
もう何人が寝たか分からない客人用の布団を仕舞いながら願いました。





今年中に経験人数2桁いったら年末年始の帰省で母に赤飯でも炊いてもらいますかね


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