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「マクロス」と「ロボテック」の日米合意は、なぜ歴史的なのか

2021年4月9日に、「マクロス」シリーズとして知られるロボットアニメに関する日米3社の合意が発表されました。これが歴史的な出来事として、日米のアニメ関係者から注目を浴びました。
発表は“ビックウエスト、スタジオぬえ及びHarmony Gold USA 全世界的なマクロス及びRobotechの未来に関する包括的合意を発表”としています。
日本で人気の高い「マクロス」シリーズと、米国で人気の高い「ロボテック」シリーズのそれぞれの今後の国際展開で各社が協力するというものです。

合意内容は、こちらの記事と発表を参考にしてください。

「マクロス」「ロボテック」、それぞれの国際展開で協力 日米企業が合意
http://animationbusiness.info/archives/11178
ビックウエスト、スタジオぬえ及びHarmony Gold USA 全世界的なマクロス及びRobotechの未来に関する包括的合意を発表
https://macross.jp/b2b/

一見は日米協力という明るいニュースですが、公式発表には「20年に及ぶ不一致に終止符を打つもの」と何やら仰々しい言葉が書かれています。今回の合意は長年の確執を経ての和解なのです。
日米両サイドの確執、合意は一体どういう背景があり、何が画期的だったのでしょうか? 今回はこれについて少し考えてみます。

【「ロボテック」って何?】

そもそも「マクロス」は国内ではアニメファンによく知られてますが、「ロボテック」となると大半の人は「なに?」でしょう。
「ロボテック」は1982年にテレビ放送された『超時空要塞マクロス』の米国版と見られことが多いですが、実際は『マクロス』だけでなく、同じ時期に竜の子プロダクション(現タツノコプロ)が制作した『超時空騎団サザンクロス』、『機甲創世記モスピーダ』も含めた全く異なる3作品を編集し、ひとつの作品に統合したものです。
かなり乱暴な扱いに見えますが、この時期の米国での日本アニメの扱いでは珍しいことではありません。同時期には、『百獣王ゴライオン』と『機甲艦隊ダイラガーXV』をつなげた『ボルトロン』や、『宇宙海賊キャプテンハーロック』と『新竹取物語 1000年女王』を合わせた『Captain Harlock and the Queen of a Thousand Years』といった作品もテレビ放送されています。

米国側が欲しかったのは、「日本のアニメ」ではなく、廉価で面白いメカやキャラクターの出てくる番組です。オリジナルの状態を保持すべきとの意識は希薄でした。
日本側も当初の作品展開は日本で完結、海外でビジネスをするつもりはありません。権利は売り切りで、作品が編集されることも気にしません。作品が日本に逆輸入されることも想定しておらず、販売する権利は北米のみや、日本を除く世界とされていました。

しかし日本仕様の番組は米国の仕様に合わない点もあり、そのひとつがシリーズの長さでした。米国では週に一度でなく、毎日同じ作品を放送することもあり、当時日本アニメで一般的であった26話や52話では話数が足りなかったのです。
そこで番組を輸入したハーモニーゴールドが、3作品をひとつにまとめるアイディアを思いつきました。さらに作品を組み合わせるなかでストーリーに破たんがないように、年代記という独自の概念が導入され、それが後の「ロボテック」のユニバース(共通の世界観を持つ大河ストーリー)につながっていきます。

【ひとつの作品からふたつのユニバース】

問題は安易に結んだ契約には、現地向けの編集権だけでなく、そこから派生する作品、続編も含む権利を無期限・無制限で与えていたと見られたことです。担当者が契約に不案内であったというより、権利販売以外の海外ビジネスを想定していない時代を反映していたとみられます。

作品がそれほどヒットしなければ、こうした契約も存在さえ忘れられて歴史に埋もれていったかもしれません。
ところが「ロボテック」は大人気となり、その後カルト的なロングセラー作品になったのです。テレビシリーズの再放送、映像ソフト販売、再編集版制作、グッズ販売とビジネスはどんどん拡大していきます。
さらに契約をもとに2006年には米国独自の続編『Robotech: The Shadow Chronicles』が作られるまでになりました。そこから「ロボテック」シリーズは独自の歴史、世界観を持つ一大ユニバースへと発展していきます。

すでに日本では『マクロス7』、『マクロス ゼロ』といった『超時空要塞マクロス』の世界観を引き継いだ作品群が製作されています。日米でひとつの作品からまるで異なったふたつのユニバースが分かれていきます。
さらに2007年には、「ロボテック」のハリウッド実写映画企画が浮上しました。やはり日本のコンテンツに起源がある『トランスフォーマー』の実写映画がこの年大ヒットになり、それに触発されたものです。

【なにが問題だったのか?】

今回の合意のひとつに、ハーモニーゴールドが「マクロス」シリーズ続編の海外展開を認めることがあります。「ロボテック」海外展開で問題になったのは、オリジナルの「マクロス」の海外展開が阻害されたことにあります。本来のかたちで「マクロス」を届けられないことに関係者は歯がゆい思いをしたでしょう。

さらにビジネスでも問題が起きました。『超時空要塞マクロス』だけでなく、その後日本で製作された数々の「マクロス」シリーズ、『マクロスF』や『マクロス⊿』などが海外で一切ビジネス展開されていないことはあまり知られていません。人気アニメのほとんどが海外配信、映像ソフト発売、時にはテレビ放送されることを考えれば奇妙なことです。
これらの作品がハーモニーゴールドが海外で持つ「ロボテック」の権利を侵害したと見做されるリスクがあるためです。日本側は権利侵害の可能性はないとみていたようですが、ハーモニーゴールド側が訴訟を起こす可能性はかなり高いと考えていたようです。訴訟になれば、費用や手間、時間が膨大で他の業務を圧迫します。

【日本側の事情】

他にもこの問題に長年手をつけなかった理由に、日本国内での著作権問題もあったと考えられます。アニメビジネスは映像ビジネスであると同時にライセンスビジネスの側面があり、大ヒットとなれば映像そのものより各種ライセンス許諾・販売が大きな収入をもたらします。
このため著作権の帰属を巡ってしばしば争いが起き、裁判にまで持ち込まれるケースもあります。『宇宙戦艦ヤマト』や『キャンディ♡キャンディ』の著作権や原作を巡る裁判はよく知られています。

『超時空要塞マクロス』でも国内著作権の帰属を巡って、いくつもの裁判が行われています。製作に関わったビックウエストに著作権があるのか、製作・アニメーション制作の竜の子プロダクションなのか、あるいは企画・コンセプトを担ったスタジオぬえ かです。さらに続編シリーズ製作に参加したバンダイビジュアル(現バンダイナムコアーツ)なども関わる裁判が続きました。
ハーモニーゴールドは竜の子プロダクションと契約しましたが、そもそも日本での権利が異なれば有効になりません。日本側は国内の裁判に手いっぱいで海外に目を向ける余裕はなく、また国内での権利が確定しなければ、海外での権利主張、調整は不可能です。

【「ロボテック」ハリウッド実写映画企画が起こした状況変化】

ではなぜ長年放置されていた問題がいま解決に向かったのでしょうか。ひとつは国内の権利問題が解決したことがあるでしょう。
もうひとつは、「ロボテック」実写化企画の存在です。2007年に発表された実写映画化企画は、その後遅々として進みません。もちろん『AKIRA』をはじめ、日本作品の実写化は噂だけあがって、なかなか実現しないことが多いのですが、『ロボテック』では日本と米国における権利問題が引っかかっている可能性も指摘されていました。ハリウッドの映画会社は映画化にあたっては著作権が完全にクリアされていることを求めるからです。

この権利確定の中で起きた裁判で、ハーモニーゴールドに不利な見解がでました。ハーモニーゴールドが日本以外の世界で持つ『マクロス』ほか2作品の権利は無期限でなく、2021年3月14日に失効するというものです。

【作品を生かす、日米企業の選択】

日本側は有利な状況のもとで、さらに自身の権利を固めていくことも出来たかもしれません。あるいはハーモニーゴールドも、さらなる裁判で状況をひっくり返すことを目指せたかもしれません。
しかし結果、両サイドは、それぞれの作品の今後のグローバルな展開を認めて互いに協力すると選択しました。

合意は合理的な幕引きだと思います。「マクロス」シリーズは今後グローバル作品となり、一方で「ロボテック」シリーズも今後も途絶えることなく続けていくことが可能になります。ひとつの作品から枝分かれした別作品ですが、いずれも価値があり、それぞれが世界中にファンを持つからです。
行くところまで行くことをせずに、ふたつの作品が共に生き残る道を選んだことになります。いずれの作品にとっても幸せな結末だったのでないでしょうか。

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ジャーナリスト。アニメーションを中心にエンタテイメント産業について、見て、聴いて、そして伝えています!