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日本・中国・米国 どのアニメが中国の映画館で選ばれているか

■最大ヒットは国内興収850億円以上の中国アニメーション

中国で製作するアニメーションの躍進が話題になることが増えています。作品のクオリティが上り、中国国内で人気も高まっているとか。
アニメーションの鑑賞はテレビや配信、映画館いろいろありますが、今回は数字が比較しやすい劇場映画で、中国のアニメーションがどう成長しているか調べてみました。
*引用している数字は、中国の映画ビジネス情報サイト「芸恩」のデータを集計しています。

中国のアニメ映画興行収入

上の表は2019年、20年、21年(7月25日までの実績)のアニメーション映画の興行収入上位を、中国、米国、日本と製作国別に並べました。直近中国でヒットした主要なアニメーション映画が分かると思います。(該当期間では、3ヵ国以外のアニメーション映画でヒット作と言えるものはありません)

ひとめで分かるのは、中国製作作品がかなり健闘していることです。2020年は映画館休止時期があったり、米国映画の供給が減った事情はあります。それでも中国映画が米国映画と互角、もしくはそれ以上の実績を残していることは注目に値します。
とりわけ2019年の『ナタ~魔童降臨~』が50億元(約850億円)以上、2020年の『ジャン・ズーヤー:神々の伝説』が16億元(約270億円)以上と、とてつもない数字をだしています。米国作品の過去最高は2016年の『ズートピア』の15億元ですが、それを超えています。すでに中国アニメーションは巨大ヒットを生み出す力があるようです。

■世界ヒットが必ずヒットでない国

米国作品も『アナと雪の女王2』(2018)のような8億6000万元といった大きなヒットはありますが、中国、そして日本アニメと較べても、世界で圧倒的と言われる力をここ数年は十分発揮できていません。
何よりも特徴は、中国市場ではグローバルでの実績が必ずしも直接興行に結びつかないことです。確かに『アナと雪の女王2』、『ソウルフル・ワールド』はヒットしていますが、同じディズニー・ピクサーの『2分の1の魔法』や『トイ・ストリー4』はやや寂しい数字です。
米国での大ヒット作が中国ではあまり話題ならないケースは少なくありません。これは米国の製作会社にとっては難しい問題でしょう。

割当である上映本数が、特定の製作会社に偏らない配慮もありそうです。中国では『ザ・クルーズ』といったドリームワークスの作品、『ペット』や『ミニオンズ』といったイルミネーション作品の健闘も目立ちます。
国際共同製作が中国進出の決め手とされることもありますが、ドリームワークス・アニメーションの中国拠点を引き継いだパール・スタジオとソニー・ピクチャーズ・イメージワークス共同製作の『フェイフェイと月の冒険』はかなり厳しい数字です。中国国外はNetflixの世界独占配信でヒットしたとされた作品だけに、中国国内の真反対の実績はどういったビジネスモデルを組んでいるのか気になります。

■2D健闘する日本アニメ、ジブリ、新海誠、ドラえもんがヒット

日本アニメの健闘は驚きです。2019年以降の大ヒットは『千と千尋の神隠し』の4億8000万元(約82億円)。他のヒット作は1億元、2億元台と、中国・米国作品に較べるとやや数字的には少ないですが、両国の映画産業の大きさ、さらに米国映画の制作予算が時に100億円を超えることを考えれば、多くが10億円以下で制作される日本アニメは大活躍です。
中・米のヒット作が3DCGが中心なのに対し、日本は2D手描き・セルルックCGが中心です。差別化がされていることが理由とみられます。

ただ人気の日本作品は偏っており、スタジオジブリ、新海誠監督作品、『ドラえもん』『名探偵コナン』といった知名度の高い作品が全体を底上げする感じです。日本アニメの劇場上映は、2015年の『STANDBYMEドラえもん』、2016年の『君の名は。』のヒットで一挙に増えました。

■本数が多過ぎる中国アニメーション、市場拡大が鍵

全体で見ると現在の中国の劇場アニメーション市場は、やはり自国作品が力をつけているようです。それでも問題は存在します。
2019年に公開された中国製作の劇場アニメーションは33本、2020年は18本、2021年は7月までにすでに29本がラインナップされています。日米と較べると遥かに多い数です。そのなかでヒットと言えるのは上位のごく限られた作品で、おそらくほとんどの作品が相当の赤字であると推察されます。その赤字はどこで負担されているのでしょう。

今後の課題はマーケットの拡大です。映画興行全体は2010年代のような高い成長は今後は期待できませんが、アニメーションに限れば成長の余地は大きいとみられます。
日本や米国に較べると、映画興行全体にアニメーションの占める比率は中国ではかなり低いのです。日米並みにシェア広がるだけで、市場はだいぶ大きくなります。
そこに新たなビジネス、作品の可能性があり、より多くの作品が成立するのでないでしょうか。

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