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残業について、真剣に考えてみる

むかしむかし、あるところに私がいました。えぇ、私です。

初めて入った会社は某大手SIerでしたが、2年目の夏ごろには

 1日22時間業務
 月1日休みあるかないか
 AM5時に始発で3畳のウィークリーマンションに帰って
 シャワーだけ浴びたら、AM7時には出勤
 昼と夜の食事休憩の際に、さっと食べて、突っ伏して仮眠

というのが1年半くらい…と言うのをきっかけに、幾度となく酷い労働環境で死にかけていました。何度病院送りになったかわかりません。

その1社目を退社する直前のプロジェクトでリーダーと言うかマネージャーもどきをしていたのですが、客先に常駐して仕様を詰める活動も並行していたため、自社内で開発するチームには、サブリーダーを付けていました。

色々、モニタリングできていなかったんでしょうね。

なんとなくは把握していたので、当時の上司には逐次報告していたのですが、当時、その上司も別のトラブルにかかりっきりで、こちらにまで手が回らなかったようです。

フタを空けてみれば、こちらが遠隔地から指示・依頼していたことは殆ど実施されておらず、サブリーダーの指示で勝手なことが行われていて、大幅遅延を起こし、あわや大トラブルに近い様相を見せたのです。

詳しくは覚えていませんが、その時もやはり毎朝4時頃にタクシーで1時間かけてウィークリーマンションに帰宅し、9時には出社する…と言う状態でした。一応、納品には間に合ったのですが、たぶん人的リソースはそこそこ追加投入していたので、赤字になってたんじゃないですかね。

1社目を辞めたきっかけは、そうした経緯に関係なく、ユーザーに対しても、会社に対しても、すべて私が悪かったことにされていて、その後、当時の支店長に振られた仕事の中でポロっと「罰として」と言われた時に吹っ切れたからでした。

ブラックな上司になりたくない

そういった経緯もあって、私自身「ブラック」な仕事を作るのも、ブラックなことを強要する上司になるのにも、ものすごい抵抗を感じるのです。

 我が身をつねって人の痛さを知れ

という言葉通り、私は、少なくとも私がやられて嫌なことは、他人にしたいと思いません。それがどんなに自分にとって得があったとしてもです。それをするくらいなら自分で苦労を背負い込んでしまいます。

私は、いわゆる「ロスジェネ世代」の人間ですので、私自身が最前線で活動していた頃、あまり"残業"と言うものに抵抗感がありませんでした。今でも、言うほど抵抗はありません。「すべき」と思ったら、時間制約はあまり気にしません。むしろ脳内に湯水のように湧き出てくるアイデアや文章、プログラムなどが出てきている間に、さっさと転記したくってしょうがないので、止まらないことも多々あります。

でも、それを他の人に強要したいか?と言われると、

 「No」

と断言できます。

もちろん、上司として部下に残業を課す場合もありますよ?
ですがそれは、

 ・本人にいつまでにできるかスケジュールをきちんと確認した
 ・かつ、そのスケジュールの遅延によって、他にも大きな影響が出る

場合くらいのものです。さすがに組織的に活動している仕事で、本人が「〇日でできます」を言い切ったものについて、遅れてしまうと他のステークホルダーに迷惑がかかるような場合は、本人の責任においてやり遂げてもらうようにしています。

まぁ、解決方法が目に見えてわかっている場合は、いい教育条件が整っているので、残業片手に育成も兼ねて有効活用させてもらいますが。

そんな機会でもない限り、スケジュールを調整するだけなので、あまり残業させようとすることはありません。


残業は異常事態

「36協定」にも記されている通り、残業を実施するには、国として定めた法律の範疇で行わなければならないことはご存知の通りです。

なぜ時間的制限を設けるのか?

それは、人の命や健康に害を与える可能性が出てくるからです。少なくとも私はそれを身をもって何度も体験しています。それでも過度に残業を強制するのは、無意識のうちに「傷害」や「殺人」を強制しているのと同義です。

これを異常事態と言わずになんというのでしょう。

しかし、実情はどうでしょうか。毎年、過労死や自殺、精神疾患などという悲しい事件・事故も起きるほど、世の中では残業過多となっている痛ましい状況が続いています。

そこで一度、原点に立ち戻り「残業」「残業しなくてはならない状況」と言うものをイメージして見ましょう。

そもそも「残業すること」それ自体は一般的ではありません。
さらに言うと普通ではありません。

「普通」とは、その日の計画を立てる際に8時間/日として計画し、その計画通りに業務を遂行すれば、8時間後には計画通り業務が完了している状態を指します。仕事を産み出し、統括、管理する管理者(管理職)は本来、その与えられた時間の範囲内でのみ、スケジュールを組み上げることが許されているのです。

これがきちんと適用されている場合、当然ながら残業の必要性は微塵もありません。決められた期間、時間内に活動し、求められたニーズを満たしさえすれば、そもそも残業なんてする必要がないからです。

それでも残業すると言うのは、この

 当初に立てた計画が破たんした場合に起きる"異常事態"

であると改めて再認識しましょう。逆に言えば、8時間(7.75時間?)でしっかり終われる計画を組み立てることが重要であり、かつそうあるのが管理者の責任であって、マネジメントにおいてここが疎かになっていれば必ず残業が発生すると言うことになります。


「全体計画」と「個人計画」

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計画には、「全体計画」と「個人計画」があります。

企業全体の経営計画もそうですが、社員が一般的に見る「全体計画」は、プロジェクト計画が主となっていくでしょう。ソフトウェア開発の現場でも普通はかならず計画します。

この計画は、一般的にリーダーやマネージャーがその責任と裁量において立案します。工期に余裕があれば、そのプロジェクトチーム一人ひとりの要員スキルを想定した精度の高い計画を立てることもできるでしょう。

しかし、一般的にはそうなることはまずありません。未来に対する仮説と類推からなるスケジュールですから、予知・予測には限界があります。

スケジュールの元となる"生産性"は大抵の場合決められており、一般的なエンジニアの平均値前後が用いられることが常となっています。そのため、習熟度の高いベテランエンジニアと、新入社員やまだ入社年度の若い要員とが同じ土俵の上で計画を立てられてしまうことになっていきます。
(実際には微調整しているとは思いますが)

これは計画者が悪いのではありません。
計画を立てる際にはあまり選択の自由が無いのです。

仕事を依頼するユーザーやベンダー各社にも都合や予算などがあります。その中で要求事項を満たしていくためには、計画はエンジニア平均値としたうえで、その平均値を遵守することが難しい要員には教育、育成、フォロー、サポートなどを実施して平均値に近い状態を維持しようとすることが一般的なのです。

このあたりは計画者の裁量と能力がとても大きく影響しますが、最終的に計画が完成した際には必ず計画内容が参画者全員に展開されます(キックオフミーティングなどと呼びます)。この時、計画やスケジュールの内容を、自分の目で見て、自身の仕事の実現可能性をしっかりと吟味してください。

実現することが困難であると判断された場合、計画が実行段階に移される前にアラームを出さなければ、それは自分の仕事内容と量について問題ないことを「承認した」という暗黙の扱いを受けます(法的には、口約束も契約として認められています。証拠が残らないので、裁判では有効になりませんが)。

その後は自分の裁量と責任で業務を遂行していかなくてはなりません。

計画段階で割り当てられた"自分自身の仕事"に対し、計画通りに完了できない場合、それは基本的に自分の責任なのです。その責任を果たすために残業が必要となった場合にのみ、本来は残業を行う必要が発生するものと認識してください。


支払いの面から考えてみる

残業には、当然労働時間中の賃金の支払いが発生します。

さらに残業手当と言って、基本給とは異なった給与計算上で支払われることになります。これは費用(=人件費)となるため、売上から差し引かれて支払われることになります。

おわかりでしょうか。
つまり残業すればするほど、余計に経費を費やしてしまうということです。

企業の収益は「売上 – 経費 = 利益」として計上されます。

よって残業はすればするほど、個人に残業手当として賃金の増額が発生するかもしれませんが、その分企業側の利益が著しく低下することになってしまいます。

人件費を支払った後の「利益」は、企業が成長していく上で大切な栄養分です。これが減れば減るほど企業成長は停滞しがちになりますし、収益が経費を下回るようなことがあれば、赤字経営となってしまいます。会社が赤字化すれば、当たり前ですがいずれ社員に給与を支払えなくなります。

残業は安易にほいほいやっていいものではありません。
そうそう残業が必要になるような業務体制や管理能力では困るのです。

36協定がどうこうと言う前に残業しなくても求められた結果を出せる計画立案、冗長活動の低減、業務効率の向上を追求しなくてはならないと言うことです。

これは個人計画についても同様です。

多くのエンジニアがその日1日に自分がすべき仕事は認識していても、具体的な時間配分やその精度の向上を意識して業務を遂行していません。全体計画を遵守していくために、そして残業に頼らなくてもいい仕事を進めていくためにはこの個人計画はとても重要です。

誰か1人でも計画に遅延が出てしまったために他の全員でフォローし始め、
それがきっかけで全員の計画が狂ってしまう…と言う作業現場を今までも数多く見てきました。結果、スキルの高いエンジニアや、知識の深いエンジニア、効率の著しく高いエンジニアに仕事が集まっていくようになります。

しかし、彼らのようにとても高い水準にあるエンジニアと言うのは、当初から重要なポジションに身を置いていることが多く、元々担当している仕事も難易度が高く、複雑で、且つ大規模なものであったりすることもままあります。

そんなキーパーソンとなってしまっている彼らに自分たちが抱えていた仕事のフォローまで集中させてしまうと、すぐさま業務上のボトルネックとなり、最終的には体調を崩してしまったり、精神的に病んでしまったり、時には冒頭に述べたように過労死に至ってしまったりと、不幸な事故につながることになっていくのです。

その後の企業損失はいかほどになるでしょう…。


で、重要なのが「生産性向上」

全ては「計画通りに実行する」と言う根本的なことを、経営者、管理職を含め、社員一人ひとりが正しく遂行できるかどうかにかかってくるのだと思います。そしてそれは誰1人欠けることなく、全員が同じ意識を持って業務に取り組んでいかないと、おそらくは成立しません。なにより、風土として根付きません。

イメージがしやすいように、具体例を挙げてみましょう。
社員1人1人が1日あたり15分の生産性を向上させたと仮定します。

平均月単価を75万と仮定すると、1日あたりの単価は 37,500円。
1時間あたり、4,687.5円となります。
500人ほどの社員がいたとして、その全員が約220日/年ほどの営業日全てを15分短縮すると、
 
15(分/人) × 220(営業日) = 3,300(分/人) = 55.0(時間/人)
55.0(時間/人) × 500(人) ≒ 27,500(時間)
27,500(時間) × 4687.5(円/時) = 128,906,250(円) ≒ 1億3000万

ざっと試算しただけでも、およそ1.3億の利益改善が見込めることになります。残業代の低減であれば、さらに効果が出ることでしょう。無駄な残業もそうですが、作業効率を少し改善するだけで、どれだけ企業の利益が向上するか、イメージできましたでしょうか。

よほど設備投資等へのアテがなければ、これだけの利益…税金に消えるくらいなら、500人程度の従業員へ何かしら(ボーナスとか?)に人件費として還元されてもおかしくありませんね。頑張り甲斐があるというものです。

1日の就業時間のうち、一人ひとりがたった15分の効率改善を検討し、実施するだけです。1時間当たり、1.8分の改善をおこなうだけです。タバコを吸う人なら、吸いに行く回数を1回減らすだけで達成しちゃうでしょうし、雑談のテーマをやや仕事寄りにして、成長を促すようにしておいたり、教育に用いたりしてもいいかも知れません。就業中にドリンク休憩しなくていいように、水筒に入れて持ってくるとか、朝コンビニで買っておくとカでもいいでしょう。緊急性の低いメール等の雑務はお昼休みに5分だけ費やす…というのもいいかもしれませんし、午後から眠くなって生産性が落ちやすい人は、お昼休みに仮眠を加えるというのも手です。

私は、就業中のドリンクからカフェイン系を除くようにしました。利尿作用が働きにくくなればトイレに行く回数が減って、5分や10分の改善は可能と考えたからです。

他にも、複数人で検討しなければならないような重大な懸案以外、会議体のすべてを廃止しました。進捗報告程度なら、帰宅前に「ひとこと報告する」「サーバーに表を置いておいて、それを更新してもらう」と言った形でも成立するからです。

通常のIT企業が、1.3億の純利益を賄おうと思ったら、いったいどれだけの売上、売上をあげるための人的リソースが必要になることでしょう。利益率6%の企業で、21億以上の売上が必要…でしょうか。

当然、そうして得られた利益のうちの何割かは福利厚生等、従業員満足度へ還元され、環境整備、待遇改善、etc.様々なところに好影響をもたらします(もたらさなかったら、相当おかしな経営者じゃないかと)。
 
まずは、個人レベルで日々の作業に対しての計画精度を向上させていきましょう。いわゆる『作業見積り』です。その上でさらに作業効率の向上も並行して行っていくことで、エンジニアとして社会人としての土台となる基礎力が飛躍的に向上します。

逆に、どんなに尖った能力を有していても、この「計画精度」と「作業効率」が伴っていない社員は、組織活動に対する貢献ができず、決して大成することは無いのではないでしょうか。

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