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fact or opinion

もしレストランのオーナーなら、お店の入口に次のどちらのメニューを掲げますか?

 A「タラバガニと伊勢エビの身がたっぷり入ったシーフードカレー」
 B「シーフードカレー伊勢風」

単純に名前の違いがあるだけで、AもBも中味や価格はまったく同じだとします。お店にやってくる客はどちらに食欲をそそられると思うでしょうか。

私ならAです。

AとBの違い、それは「主語と述語の関係がしっかりしているかどうか」です。Bはアピールすべき「主語」を思いっきり省略してしまっているため、ちっとも美味しそうに思えず、5000円も出す価値があるかどうか判断しようがありません。

ビジネスの場ではなんでもかんでも「シンプルに」という人がいますが、シンプルにすると言うことは単純に「文字数を減らす=情報量を減らす」ということになるので、結局必要十分な情報量よりも削ってしまったら伝わるものも伝わらない…ということを案外理解していない証拠なのかもしれません。

そもそも「伊勢風」ってなんですか?「風」って。その定義があいまいすぎて、何を具材にしているのかも想像がつきません。化学調味料だけでそれと似た味を作ることだってできるかもしれません。

しかし、そんなものを食べたいと思うでしょうか?

たかがメニューと考えないでください。

これは、相手の質問に対してどれだけ相手に誠実に応えようしているのか、的確にあるいは真摯に答えようとしているのかを表しています。お客さまに対する姿勢と言ってもいいでしょう。自分にとってシンプルなら満足ですか?お客さまにとってわかりにくくてもいいのですか?と問われているのだということに気付いていないだけなんですね。

それに見合ったお金を払う価値があるほど美味しいかどうかを聞きたいのに、Bのようにピントがボケた答えをされればいくらシーフードカレーがお店の自信作で価格以上の価値があったとしても、その味をまだ知らない客から見れば無理に冒険をおかしてまで注文しようとは普通は思いません。

求められたのは「事実」?それとも「意見」?

同じようなすれ違いは、たとえば会議室ならこんな形で発生します。

上司「Aくん、この間X社に提案したプロジェクトの結論、どうだった?」
A君「いやあ、僕はかなり頑張ってプレゼンしたんですよ
   …担当の○○さんのウケは良かったんですけど…」

上司が聞きたいのは、X社の正式な回答がOKだったかNGだったのか、あるいはまだ検討中なのかという「事実」です。しかしAくんが答えたのはAくん自身の「意見」。

相手に確認していない自分のミスを隠したいのか、努力したことをアピールしたいのか、急に聞かれて焦っているのかはわかりませんが聞かれた質問に対して答えるべき内容がズレてしまっています。

これでは上司に怒られても仕方がありません。

大切なことは、

 「事実」を求められているのか
 「意見」を求められているのか

を瞬時に見極めることです。

少なくともビジネスコミュニケーションの基礎中の基礎である"報連相"を正しく理解している自負があるのならば、『報告』を求められている以上「意見」の入り込む余地はありません。報告は、原則として客観的に把握できる「事実」でなければならないからです。

意見は、意見を求められた時にだけ発言するか、事実を述べた後に「これは私見ですが」といって最後にそっと添える程度にするべきです。

たとえば「あの店のカレーは美味しかった?」と聞かれたのならあなたの「意見」を言えばいいでしょう。

そもそも『美味しい』という言葉は形容詞であり、形容詞は原則として"主観的"なものとなりますから事実になることはありません。すべて意見になります。なので「美味しいかどうか」と聞かれた場合は意見で問題がありません。他にも副詞(「とても」「だんだん」「ますます」等)を使ったものも原則として意見になります。その抽象的な表現自体、当人の感覚でしかないもので(他人と正確に共有できるものではないで)すからね。

自分には辛すぎたとか、値段の割には美味しいと感じたとか。個々人ごとに定義の異なる美味しさには絶対的な正解がないのですからここは「意見」でいいはずです。質問する側も個人差の出る質問である以上、あくまで「意見」を聞いているのですから。

しかし、X社との取引がうまくいったかどうかはまず「事実」を答えます。その上で今後の展望や予測など自分の「意見」をプラスすればいいわけです。

「いやあ、プレゼン自体は相手も熱心に聞いてる様子だったんですよ。
 でも、担当の方も決断できないのかしたくないのかわかりませんが、
 景気もそんなに良くないから色々考えることがあるんじゃないですかね」

そう、これはすべて「意見」です。
見事なくらい事実がひとつもない…。

そんな事態に陥らないよう、相手が何を求めているのかを見極めてください。これができずに誤解を招くような「意見」ばかりで体裁を整えると、報告を受けた側が誤った判断をしてしまい予期せぬトラブルへとつながることになります。


報告で話す事実情報は結論から?経緯から?

じゃあ事実とは何か?というと、実際にあったことだけを伝えるだけです。
たとえば

「プレゼン自体は最後まで聞いていただけました。
 でも、その場での決定にはいたりませんでした。
 担当の方からは「来週までに回答する」と言われました。」

こんな感じでしょうか。

もちろんこの報告の内容自体がいいモノかどうかは別ですが、報告としてはこのように箇条書きになるようなシンプルなものがわかりやすいでしょう。この時に「結論から」述べるのか「経緯から」述べるのかは、聞き手の好みによるところがありますので一概にどちらが良いとは言えません。

報告が順調に次のステージに進むようなケースや、致命的な問題にぶつかったケース時は「結論から」の方が好ましいシーンは多いと思います。

逆に、報告相手に何かしらの判断や決断を委ねるような場合は「経緯から」聞いていただいた方が変な空回りをさせて誤解させるリスクが減るシーンが多いことでしょう(まぁそれでも「結論から言え」と言われてしまったら、結論から言って誤解や思い込み等を生んでしまいつつ、何度も説明して…という面倒くさい手順を踏まなくてはならないかもしれませんが仕方ありません。)。

個人的には

 「(報告は)〇〇だったんですが(相談として)いかがいたしましょう」

とつなげるようなケースの場合には「経緯から」話して相手に早とちりをさせない方がいいと思っています。実際、中途半端にデキる人ほど早とちりをしてさっさと判断しがちなので、いきなり結論からいって明後日の方に判断が吹っ飛ばなくてもいいようにしたいと思っています。

実際、早とちりばかりして

 「もー…だったら最初から言ってよ」

と文句を言われたこともありますしね。お前が「結論から言え」って言ったんじゃないか!と心の中でツッコミを入れてしまうこともしばしば。案外、優秀そうに見えてもそういう人って多いものです。早とちりや勘違いをしそうなせっかちさんを相手にする場合は、あえて不評を買ってでも「経緯から」話した方が良いこともあるわけです。


まとめ

これは特に難しいスキル等の話ではありません。

「報告」という、新人の頃に当たり前のように習い、倣うビジネスコミュニケーションの基礎では

 ・「事実」と「意見」を明確に使い分ける
 ・「結論から」か「経緯から」かを使いこなす

この2点を注意するだけです。

あと余談になりますが、このほかにもう1点だけ注意することがあるとするなら

 「状態(status)」か「状況(situation)」か

を正しく理解して、報告相手がどちらを知りたがっているのかを汲み取った報告をしたいものです。意外と思われるかもしれませんが、このことを正しく理解しているだけで自ずと主観と客観の線引きができるようになりますし、そうなれば事実と意見の明確な線引きもできるようになります。

でも、私も部長クラスまでは経験があるのでわかるんですけど、結構役職を持ってる上位層の人たちってこの「報告」…まともにできていない人多いんですよ。新人にエラそうなことを言えるレベルにないくらいに。まぁ「報告」がちゃんとできない人は、大抵「連絡」や「相談」も疎かになっているんですけどね。

これは個人的な考えですが、ビジネスコミュニケーションの本質は

情報の伝達(伝えるではなく、"伝わる"こと)

情報の共有(およびその状態の維持)

です。この2つが成立しない手段や方法は、いかなるものであってもビジネスコミュニケーションと呼びません。だってそのあとの仕事に続かなかったり支障が出たりするんですから。

「報告」を疎かにする人は、まず「相手に正確に状況や状態を伝えよう」という意思に欠けています。相手に情報を伝達する意思がないと言っても過言ではありません。同様の目的を持つ「連絡」も疎かになるのは道理です。「連絡」が正しく行えないということ…つまり伝えるべき相手に100%正確な情報を伝えることができないと言うことは、「相談」「確認」「質問」などを行う際にその前提条件を伝える能力も劣っているということです。

たとえば

 「今、〇〇の状態なんですけど、どうすればいいですか?」

の「〇〇の状態なんですけど」の部分を相談相手に正確に伝えるスキルが不足していたり、その意思が薄弱であるということです。当然、相談相手も何を聞きたがっているのか把握するのに困ったり、時間がかかったりすることでしょう。

たいていは新人の頃に教わる基礎のはずなのに、新人はおろか中堅でも、ベテランでも、まして役職者でさえも軽視し、疎かにし、まともにできる人は決して多くなかったりします。

だからこそいまだに巷ではコミュニケーションの前提として

 「factで話せ」
 「opinionで話すヤツは三流」
 「fact と
opinionを混同するな

みたいな話が出てくるんです。

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