見出し画像

ざっくり見積りの屈辱

"見積り"という行為はITに限らず、ありとあらゆる会社、組織で行われています。金額だけでなく、時間や工数といった数値的測定ができるものはなんでも見積りが可能です。

みなさんもプロジェクトの最初、あるいは作業を始める前に、自分の作業部分を見積ったり、チーム全体の工数などを見積ったりしていることでしょう。このような見積りは、いったい何のために行うものなのでしょう。

 ・上長、マネージャーあるいはリーダーから見積るように指示されたから
 ・いつもそうやって作業を進めているから
 ・進捗管理の中で比較したりするから
 ・お客さまに求められたから

理由は色々あるかも知れません。
ですが、一般的な力量を持ったビジネスマンであれば、必ず何かしらの見積もりをしているはずです。少なくとも脳内でざっくりと算出していることでしょう。


見積りはいわば「未来予想を描く行為」です。

しかし、それによって実現することを「約束」するための行為でもあります。ここが非常に難しいところで、未来を正確に予測し、しかもそれを約束や契約にしたためるという、かなりぶっ飛んだことをしなければビジネスが成立しないのです。

約束する必要性が全く無いのであれば、見積りなどする必要ありません。ですが、あえて約束や契約に及ぶのは、

 「そうすることを前提にしないと、
  他のことが何も進まなくなるから」

です。たとえばお客さまにとっては、定められた期限に、求めた製品やサービスが使えるようになる…という前提のもと、それらを用いたビジネスを計画するかもしれません。

私たちにとっては、定められた期限に、求めた金額が振り込まれる…という証書を預かることで次のビジネスを考えることができるようになります。

そういった流れから、"見積り"はスケジュールを立てたり、コストを算出したりするために不可欠なものです。

しかし、多くの場合、"見積り"と言っても単に工程レベルの「工数」を予想しているだけで、「サイズ」「ボリューム」は全く見積られていません。契約時点で要求が定まっていることというのもなかなか無いため、見積り時には

 「一般的にはこのくらいだろう」

というものすごくアバウトな予測から見積りを起こします。

「サイズ」「ボリューム」に正確性を欠く以上、たとえ過去の経験に基づいて算出しているとしても、それは参考程度にしかならず、その工数に根拠が明確な根拠があるとは言えません(まったく同じもの、まったく同じことをするわけではないので、必ずどこかで前提条件が異なってきます)。ですから、そこから導き出される金額やスケジュールも、根拠のないものと言わざるを得ません。

そして、多くのエンジニアが、そのようなスケジュールによって翻弄させられているのが実状です。

画像1

また、「サイズ」の見積りが省かれているということは、その後の進捗管理にも大きな障害となります。

たとえば、

・今日の作業で生み出した成果物の「量」が
 適切であったかどうかを判断できない
・残りの日程で予定通りに完成するのかどうかもわからない

と言う状態に陥るといったことがあります。やむを得ない事情があるとはいえ、これが多くの組織で行われている見積りの現状です。

このような見積りしか行われていない状況では、手戻り作業も後を絶たず、その中にいるエンジニアも、能力を発揮できずに疲弊してしまうケースも発生することでしょう。このような見積りがチーム中、ひいては組織中、企業中で行われているとすれば、「無駄」の累計は計り知れないものになっているはずです。

20兆円規模に届こうとしていると言われるITサービス産業、中でもソフトウェア産業の生産高の3割程度は、この見積りに起因する無駄の累計によって計上された可能性もあると指摘しているところもあるほどです。

そんな中「正しく見積れて一人前」と言う世界で生きてきたリーダー、マネージャーにとって最も屈辱なものの1つは、

 「"ざっくり"でいいから見積ってくれませんか?」

と短時間で請求されることです。

いわゆる"超概算"と呼ばれるものですが、それが概算であれなんであれ、一度社外に提供すれば、それは「約束」の一端を担うことになります。

午後になって突然「夕方までに」と言われることも珍しくなく、たった数時間では精度の高い見積りは基本的に不可能です。

"ざっくり"はITサービス産業において比較的日常の中でもよくあることかもしれませんが、他業種であればこれは違和感の塊でしかありません。せめて2日前くらいに言ってくれていれば、精度の高い見積りも不可能ではなかったでしょうに、たった数時間ではどこをどう頑張っても"ざっくり"しか見積れません。一般に、"ざっくり"の見積りには工数しか含まれていません。それも「工程」レベルの工数です。これでは、実際の作業の中で手に入る情報を使って調整することもできません。

正確性はほとんどなく、「今提示されている条件だけ満たせば、それ以外は一切不問にするというのなら…」という前提に基づいて見積もっているものです。おそらく、要求精度は15%にも満たない状態で、何をどう見積もればいいというのでしょう。

にもかかわらず、法的根拠も伴わない超概算の見積もりに対して、あえて発注しようとする乱暴なお客さまも中にはいます。これをこのままにして受注してしまうと、多かれ少なかれ問題を引き起こすことになるでしょう。

正しいリーダーまたはマネージャーとなって、チームメンバのワークライフバランスをも成立させる責任を少しでも感じるのであれば、"ざっくり"に毛の生えた程度の見積りで終わらせることなく、仮に顧客から求められていなくても、その見積ったデータに基づいて、改めて自分の中で再見積もりをするくらいの気概を持ちましょう。

"ざっくり"という体のいい言葉で丸められた概算見積りと言うのは、言い換えれば「無計画」にも等しい見積りだということを忘れてはいけません。

料理で言えば、

 「まずは野菜とか肉とかなんやかんやを下ごしらえするやろー?」
 「ほんで、バーッと煮込むやん?」
 「最後にルー入れていい感じになったら出来上がりや!」

と説明されてカレーを作るようなものです(関西弁に他意はありませんよ?元が大阪生まれと言うだけで)。そんな方法で、プロのシェフを名乗れるでしょうか?

いいなと思ったら応援しよう!

Takashi Suda / かんた
いただいたサポートは、全額本noteへの執筆…記載活動、およびそのための情報収集活動に使わせていただきます。