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本歌取り

まったくのゼロから妙案が浮かぶことはほぼない

これは世の中における数少ない真実の1つだと思っています。いや実際には閃いた気になることはあるかもしれませんが、必ずどこかでその閃きに紐づく経験や知識、似たようなシチュエーションがもとになっていて、そこから引用しているはずなんです。たぶん、きっと。

何事においてもそうですが、人間と言う生き物は、原則として、予備知識もなく急に物事がひらめいたり、思いついたりすることはありません。閃きや思いつきといったアイデアは、必ず知識や体験をもとにしているのです。

それがなく、閃くことができるのはおよそ"天才"だけです。少なくとも私には無理です。

過去の事例、本、ネット…あらゆるものを吸収する

アイデア出しと言うと、コンサルタントやクリエイティブな仕事をする方のみに課された仕事のように思われますが、実際はどんな職種の方にも求められるスキルです。

 「売上を増やしたい。効果的な売上向上のアイデアを考えてくれ」
 「残業時間が増えている。作業効率化の案を考えてくれ」
 「業務を効率化したい。生産性が上がる方法を考えてくれ」

これらの例のように、売上拡大や業務の効率化のためのアイデアを、みなさんも上司や取引先から求められたことや、直面する問題に対して検討しなければならなかったことがあるのではないでしょうか。

しかし、どんなアイデアを出すときでも、何もない状態から良案を生み出すのは簡単なことではありません。無から有を生み出すのはそれほど大変なことなのです。

延々と悩んだまま、何もアイデアを出せずに時間を浪費してしまったり、出しても内容が浅く使えないものだったりすることは、誰もが経験されているかもしれません。

私は目の前で起きた問題であれば、ほぼ即座に2~3くらいのアイデアをぽんぽんと出しますが

 「どうすれば良いアイデアを出せるようになりますか」

と相談を受けても、あまり効果的な回答はできません。なぜなら、私の性格(?)あるいは今まで携わってきた業務経験のせいか、課題やニーズを与えられないと、具体的に検討することが苦手だからです。ふわっとした質問に対して、常に閃けるようなおかしな能力は持っていません。あくまで過去の事例や私が普段から温めているアレコレをすぐに引き出すことができるようにしているだけで、そのストックにないことは即答できません。まぁそれでも調べる、あるいは調べ方には自信があるので、少し時間をいただければ何かしら案を出すのではないかと思いますが。

しかし、そのように悩んでいる方の話を聞いていくと、そもそもインプット(情報収集)が少なすぎるのではないか、と思うことがあります。

私に言わせると、

 「まずは世の中ではどのようにやっているか、すべて調べましたか?」

と聞きたくなります。たとえば、ある新機能のアイデアを出さなければならないのに、これまでに発売された類似機能やデザイン、流行のアプリやUI/UX、それらについての利用者の感想や不満などをほとんど知らない、ということが多いと思うのです。


人の頭は「自動販売機」に似ています。

自動販売機はお金を入れないとドリンクは出てきません。おなじように人の頭もなにかしら情報を入れないとアイデアは出てきません。経営コンサルティングの方たちなどは、経営の理論書を読んだり、市場の動向を調査したり、先輩や上司の過去の提案を聞いたりといった諸々の調査を経て、その会社に足りていない部分を考えたり、他社の成功事例を研究し、その方法をアレンジして当てはめることができないかを考えたり、といった進め方をよくしているのではないかと思います。

過去や周囲から学ぶ姿勢がない人が、楽をするためにアイデアの出し方を学ぼうとしても、何かを得られることはまずありません。

何もないところから、画期的なアイデアを考え出せる天才も、中にはいるかもしれませんが、私を含むエンジニアの99%は、普段から地道に勉強や情報収集を続け、それらをベースに活かしてテーラリング(仕立て直し)しているのです。

「アイデアマン」とは、生まれつき創造力や発想力を持っている人に限りません。普段からインプットを心がけていれば、誰でもアイデアマンになることはできるのです。

たまにこう説明する時があります。

「天才の脳の構造がどうなっているのかはわからないが、天才を模倣しても
 失敗と挫折しかない。天才は模倣できないからこそ、天才だ。」

「我々凡人は、天才にはなれない。でも秀才にはなれる。秀才は、知識と経
 験から地力を底上げする。そのために必要なのは"模倣"だ。秀才の"模倣"
 こそ、秀才になるための近道だ。」

「範にする相手が秀才か天才かの区別は簡単にできる。模倣できそうな手順
 が説明できるなら、それは大抵秀才に違いない。秀才は自身がそうであっ
 たように、誰かを模倣して体系化しているから、努力次第で他の凡人でも
 修得しやすいようになっている。」

完全にパクりじゃ意味ありませんが、インプット元としてなにかを一部吸収し、そこに自分なりのアレンジを加えることで本歌取りは完成します。


「今まで世の中になかったものから生み出す」は幻想

「過去のアイデアを参考にしていても、斬新なアイデアは生まれないから」
インプットをあまりしていない人にその理由を聞いたとき、こう返されることがよくあります。たしかにそれも一理あります。

しかし、実は仕事で斬新なアイデアを出す必要は、あまりありません。大ヒットした商品の多くは、よくよく見てみると、実はゼロから生み出された斬新な商品というわけではないのです。

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たとえば、大人気ゲームの「ドラゴンクエスト」シリーズですが、その初代発売よりも前から「剣と魔法で魔物を倒して主人公を育てる」ゲームは売られていました(さらに「ファイナルファンタジー」はドラクエの成功を受けて製作されました)。

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キャラクターそのものは変わらなくても、次から次へと装備を変えていくことができる仕組みは、着せ替え人形のそれと同じです。

また、iPhoneの前身であるiPodですが、その発売よりも前から、mp3を聴ける携帯音楽プレーヤーは売られていました。一時期スーパーで品切れを起こした「食べるラー油」も、基本はラー油です。

これまで世の中になかった、まったく新しい調味料というわけではありません。「アイデアを出せ」と言われて、斬新なアイデアを出さなければ仕事で使えないと思い込んでしまっていることも、アイデアを出すのに苦労している方に共通して見られる特徴のひとつです。

しかし、ドラクエや食べるラー油などのように、ヒット商品の多くは既存の商品の"アレンジ""改良"です。既存にある何かと何かをかけ合わせて、新しい何かを生み出すのは、新商品開発の基本ではありませんか。


模倣+アレンジ=新しい価値

これは古来より、歌学においては"本歌取"と言われてきた手法の1つです。

本歌取(ほんかどり)とは、歌学における和歌の作成技法の1つで、有名な古歌(本歌)の1句もしくは2句を自作に取り入れて作歌を行う方法を言います。主に"本歌"を背景として用いることで奥行きを与えて表現効果の重層化を図る際に用いたとされています。

つまり、原作の一部を活用させていただいて、そこに自分なりのアレンジを加え、より優れた作品を作る手法と言えます。アイデアとは、こうして優れた何かを模倣し、アレンジするところから始めるというのは、昔から1つの文化として大変重宝されてきました。

これらを理解せず、ネットの中には「パクり」だという人もいます。

しかし、そんなことはありません。確かにベースは独創的でないのかも知れません。けれども、明らかに原作者では考えつかなかったようなエッセンスを加えた新しい価値に変化しているはずです。

そんなこと言いだしたら、

 生き物はすべて父親と母親の遺伝子のパクリで、
 個性も尊厳も何一つ本人を証明するものではない

じゃないですか。

違いますよね?遺伝的な根っこは同じかもしれないけど、異なる環境、異なる経験、異なる成長、色々なものを経て、唯一無二の『自分自身』が構築されているはずです。受け継いだ部分はあっても、間違いなくオリジナルの人間であるはずです。

ビジネスでもおなじで、目新しい突飛なアイデアをいきなり生み出そうとするのではなく、まずは関連する様々な情報の収集と整理から始めてみる。誰もが知る大ヒット商品も、そういった地道なところからスタートしているということを覚えておきましょう。

逆に言えば、アイデアや発想があまり出てこない人は、普段からの情報収集が不足している、と言うことを意味します(ある意味、IT業界では致命的を言えるかもしれませんが…)。

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ちなみに、私がこの「本歌取り」という言葉を知ったのは、漫画『美味しんぼ』からです。

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