ミハルヨサクラレビュー(サトウ·レン様)

小説URL→https://novelup.plus/story/344255857

 良い小説に会うと、ほっとする。小説の灯はいつの時も尽きてはいない、と信じさせてくれるからだ。そういう小説には得てして感想はノイズになることがある。なのでこんな文章を読む暇があるなら、はやく作品のほうを読んでください。ネタバレフィルターは念のため付けましたが、ネタバレをする気はありません。ただ、そんなの関係なく、まず作品のほうを。

〈私は思うのだ。三度の春しか無いからこそ、この町の人々は春というものを心から待ち望むのだろうと。足りないからこそ、満たされないからこそ、その物のありがたみが分かるのだ。手に入れようと必死になれるのだ。私と同じだ。才能が無いからこそ、死に物狂いで絵を描いて居られる、今の私と。〉

 樹齢千年を過ぎる巨樹が大量の花を付け、滝の如く降り注ぐ滝桜で有名な福島県田村郡三春町。桜好きなら一度は目にしておくべき、と言われて赴いたその町で、画家の芹沢真人は、ファンだと名乗る十七、八くらいの年頃の少女と出会う。彼女の名は、幸子といった。無名の新人画家に対してファンだと言う彼女の言葉に疑心に駆られながらも、その人懐っこい彼女に滝桜の場所を教えられる。実際に目にした滝桜はすさまじく、彼は美し過ぎるものへの畏れと感動を抱く。その場所で彼は、フリーのジャーナリストをしている滝沢から、毎年のように三春町で起こる失踪事件について聞かされる……、

 というのが導入になるのでしょうが、言葉のひとつひとつに気を払った表現がすごく魅力で、静謐で柔らか、というよりはやや凛とした佇まいの言葉が、幻想的なイメージに確かな実感を与えてくれます。内容紹介だけで読んだ気にならないでください、と強く言いたくなる作品です。主人公の絵に対する想いや、誰かや何かに向ける一途な感情とその揺れ、読後も余韻に浸っていたくなります。幻想的な恋愛譚ですが、ホラーやサスペンスの要素も含んだ内容になっているので、ジャンルをこえて幅広くお薦めしたい作品でした。

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