左手首の相棒
腕時計の電池が切れる瞬間を見た。
時刻を確認しようと視線を落とすと、まるでおかしな針の位置をしていた。朝の出勤前だというのに、示されている時刻は3時台。
おや、と思えば秒針の動きがぎこちない。2秒に1回進むといった具合だ。そろそろ電池切れか、交換しなくては、と考える。
つい盤面を眺めてしまう。
かくん、かくん、と少しずつぎこちなさを増していく。螺子が切れたように、という形容を思い浮かべた。ふつりと、止まる様。
秒針はやがて、最後の力をふりしぼるように、細かく震えだした。が、どんなに頑張ってもそれ以上は進めないようだ。
ふるふるふるふるふる……ふつっ。
静かに、止まった。
ベルトをほどき、コートのポケットに腕時計を入れる。すうっと寒くなった左の手首を見やると、やけに青い血管が浮かんでいる。
今使っている腕時計はずいぶんと気に入っていて、電池が切れるのは2回目だ。
買ったのはいつだっただろう。Instagramを遡ってみたら日付が確認できた。
2015年2月23日。
もう5年ほど使っていることになる。
シーブレーンという会社のもの。
https://www.cbrain.co.jp/
石川は金沢にアトリエがあり、ひとつひとつ職人の手作りというのが売りで、裏側にはシリアルナンバーが刻まれている。
私はたまたま見かけた組み合わせで一目惚れしたのだが、好みの盤面、針、ベルトを選んでオーダーメイドの注文もできる。
クルチュアンというシリーズを使っているが、別ラインのはなもっこもたいへんに魅力的で、いつかそちらも購入したいなぁとは長らく思っている。なにせ盤面に鉱物の粉を使用しているのだ。ときめかないわけがない。
左手首の相棒は、盤面のガラスには細かい傷がたくさんついてしまっているし、ベルトは色褪せ、巻き跡がついてもいる。けれどすっかり愛着が湧いているから、まだまだお付き合いしていくつもりだ。
今日、電池を交換してもらってきた。
またよろしくね。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました